白銀

 太陽輝く朝、学校を休んでぐっすり寝たので、かなり調子はいい。

【白銀の剣聖】立花卜伝の死は後日すぐに大々的に発表された。【七色】の人間が殺されたという事実は世間を驚かせ大騒ぎだ。


「犯人は黒鬼か!?...ね」


 スマホのニュースに大きく見出しに太字で書いてある。黒鬼かなかなか悪くない響きだ、この異名で呼ばれるのは何か懐かしい気分になれ、感慨深い。

 井上から聞いたがあの写真で脅したことを警察に井上は言っていないようでこれは剣聖会の問題なので、報復は剣聖会で行うとのことだ、本来であれば「あれ」を使った馬場が逮捕され排除されれば万々歳でもあったが、まぁいいだろう。

 唯という絶大な戦力ができた以上、かなり大きく動けるようになった。


 その次の記事に気になる記事が目に映る。

 連続失踪事件・・・似ている十字架事件と・・・

 十字架事件は俺と同じ【三原色】の一人【萌葱の十字架】が起こした事件。萌葱の十字架は何人ものペーシェントを殺し、その死体を研究組織に売ってやがった。真壁の家族もその被害者。当時珍しいペーシェントは高く売れたからだそうだ。暗部の人間にまで手を出したことで暗部の人間総出でやつを探すも神出鬼没でなおかつその有り余る実力に被害がどんどん出た。、そこでそれを終わらせるために出動したのが俺とその部下だった、最後の爆発で殺したはずだったが・・・もしあれでいきているのなら・・・

 その件も気になるが今一番気になるのは。


「あの卜伝の話...聞いてたか?詳しく聞けなかったが・・・」


 部屋の隅でスマホをいじっている綾瀬に話しかける。


「卜伝はおそらく記憶を操作されていた」


「この前話した記憶操作の能力ですね」


「ああ、そうじゃないと説明がつかない」


 俺をはめたのは【七色】の連中全員だと思っていた、なぜなら全員俺を殺そうとしてきて戦ったからだ、あの時の記憶ははっきりと思いだせる。だが違うのかもしれない、だれかが【七色】の記憶を改竄して俺をテロリストにしたてあげたのか?それとも俺を追放した後に記憶を改竄されたのか、これはほかの【七色】に聞かなければわからない。

 そして卜伝結局あいつは何を言いたかったんだ。

 卜伝の最後を脳裏に浮かべる。

 あいつの言っていた責任とは一体なんだったんだろう、卜伝の言っていた責任とは萌葱の十字架のことなのだろうか・・・最後のあいつは悪い人間のようには全く感じなかった。俺にしたことを後悔してると様なことも感じた。

 そしてあの怒りの激情に飲まれた時にでてきたやつは誰だったんだろう。

 心の奥に一抹の不安が残り続ける。


「それより、唯さんどうするんですか?」


 俺の考えていることを遮断するように制服姿の綾瀬は話しかけてくる。


「どうするも何もあいつの力を使わない手はないだろ?」


「違います!あなたには桜さんというものがありながら違う人と付き合うなんて...同じ女性として私は悲しいです」


「人殺しの犯罪者がそんな小さいこと気にすんなよ、しかもこれは計略のうちだろ、胸は大きいのに器量は狭いんだなぁ」


 いやらしい目線を彼女に向けにやにやしながらからかう。


「まったく・・・性器に脳がついてる人は考えていることが下品ですね!ああ、脳が小さいからしょうがないですね!」


「おま・・・やっちまったなぁ、俺の息子を馬鹿にしたな?」


 ピンポーン


 俺らがいがみ合っているとインターホンがなる、この時間、この音は...




「おはようーーーーーーーーーーーーーーーーー!!起きようねーーーーーーーー真田く―――――――――ん」




 真壁からの大声ラブコールが聞こえる。

 近所迷惑すぎるだろ・・・!

 俺と綾瀬は目を合わせると小さな声で話し合う。


「ベッドの下に入ってやりすごせ、先に出ていくから鍵かけといてくれ」


 今はまだ真壁に俺と綾瀬の関係がばれるわけにはいかない。


「わかりました、ではカギを」


 ポケットに手を入れ、鍵を探すも鍵はない周りを見渡し家の鍵を探し回る。


「はやくしてください!」


 どこだ!もし俺の部屋に綾瀬がいることがばれたらいろいろ面倒なことになるのは間違いない、しかもあの真壁はあの図体で色恋沙汰が大の好物!


「開けるぞー」


 ドアノブがひねられドアが開く。

 鍵が開いている!?そうか、綾瀬が入ってきたからそのままなんだ!


 ガンッ


「まぁ、まだまってくれよ」


 俺は真壁に対抗するように内側のドアノブを持ち、開こうとしたドアをふさぐ。


「おいおい、なんか階段上がっているとき女の声がしたんだがぁ、もしかしてぇ?」


「な、なわけないじゃないか、兄弟」


 聞こえてたか・・・!


「なら部屋を見せて証明してくれよ、俺たちの関係に隠し事はなしだろ!」


 グググ


 ドアを押しあう勝負が始まる。ドアを開けさせないことに成功したが、みしみしとドアノブが音をたて始める。

 ヤバイ、このままだとドアが壊れる・・・!


「わかった!部屋入れるから放してくれ」


「そうか、わかりゃいいんだよ」


 バンッ


 俺が力を抜いた瞬間真壁がドアを開け、すぐに女の痕跡を探そうとする。


「さあてどこに隠れたのかなぁ、ってあ!」


 真壁が部屋に入ると奥の窓が開いており、風が入ってきている。真壁は窓に駆け寄り、目的のものを見つけようと窓の外の周りを見渡す。


「チッ、、、いないな?」


 真壁は訝しむような眼でこっちを見てくる。


「俺にいるわけないって」


 目をそらしながら愛想笑いをする。


「そんなことより今日は重要な日だ頼むぞ真壁」


「はぁ、わかってるぜ」


 真壁は女を見れないと知るととたんに興味なさそうな顔になる。

 こいつ薄情なやつだな・・

 重要な日というのは真壁と唯を同時に仲間として戦うための顔合わせ和解会だ。

 武田達を打倒するために、真壁と唯どちらの協力も必要不可欠、一度作戦のため対立した二人だがこれからのためになんとか和解する必要がある。しかし難しい事になるかもしれない、武田を倒そうと言った手前、最初に武田の部下として襲ってきたやつと仲間になれと言うのだから。


「俺が今日仲間であることを説明するってわけだな」 


「そういうことだ、唯にはお前との戦闘のあの後仲間になってもらったってことにするから口裏合わせ頼むぞ」


「放課後唯を連れてくるから約束の時間指定の教室で待ってろ」


「おいよ」


 ~~昼休み~~


 キーンコーンカーンコーン


 チャイムが学園に鳴り響く。

 ようやく昼休み。

 俺はいつも通り昼休みに屋上にいくため階段を上がる、本来なら鍵がかかっているが、俺はそのカギが念力であくことをこの前見つけた。階段の踊り場ににつくとすると重大な事象に襲われていることを知る。

 階段うえで、女子の声がする。ばれないようにそっと顔を出してみると三人の女子が屋上ドア前で何かをしているのが見える。

 誰だ、こいつらはこの場所は俺が見つけた誰も来ない孤独で食える涼しい絶好の場所だぞ?!

 ひ弱な設定の俺が連中にどけと言ったらただでさへ狭い肩身がさらに狭くなることは間違いない。どうしたものか・・・


「全然開かないじゃん~」


 一人の少女が手に腰を置いてドアがあくのをまっている。

 どうやらこいつらも俺と同じ絶景ポジに行きたいようだ。


「前はあいたはずなんだけどなぁ」


 もう一人の少女は頑張って開けようとドアノブに念力を使っている。


「やっぱあかないじゃーん、先教室もどってるよ~」


「う~今日は屋上で食べたかったのに~、まって~」


 そういうと話していた2人の女子は降りて行った。


「結局開かないのか―」


 残った一人の女子は残念そうに屋上のドアの前に座り込む。

 いや、戻れよ・・教室に・・・!かーえーれ!かーえーれ!


「ん・・・勇気じゃん、もしかしてあける?」


 俺の心の中からの帰れコールがあまりに強すぎたのか見ていたことに気づかれる。

 って勇気って・・・

 そこにはつい先日抱き合った少女がいた。

 彼女は昨日の幼児化していた時と違い、かなり前のクールな感じにもどっている。


「一応・・・ひらけるけど・・・」


 シックを使いカギを開け、屋上に二人で入る。

 彼女は無言で中に入る。

 無言の空間は少し気まずかった。昨日のだけで彼女の心を掌握したというのはまだ甘いだろう、彼女は大人達に利用され続けてきた、俺もまたその人間の類かもしれないという疑念がまだあるはずだ、俺たちはまだあって数日しかたっていない。

 気まずい空間を最初に破ったのは唯だった。


「昨日のは忘れてね・・・」


 彼女も昨日のことをまだ気にしているようだ。特に幼児化した時の話だろう、今のクールな彼女とは思えないほど純粋で素直な口調だった。あまり気にしてなかったが思い返したら確かに年頃の少女と公園でずっと抱き合ってるのは今思い返せばなかなかに恥ずかしい行為だったかもしれない。


「でも武田達倒すのはマジだから・・・今日も仲間を紹介してくれるんでしょ?私は絶対に真犯人を見つけ出して・・・」


「どうするんだ?」


 彼女はその後の言葉をつぐむ。

 殺す・・・とは言えないか・・・殺したいほど憎んでるだろうに、優しいなお前は、俺の手はこんなにも汚れちまっているのに。


「今日は作戦会議でしょ?武田達って私の新しい友達にもちょっかいかけてるみたいだしもし真犯人がいなくても痛い目あわせてやる」


 彼女は復讐にもえている。その彼女の怒りの影響かとても空気が重苦しくなるものになったのを感じた。


「あー、そうだー今度は俺とキスでもする?」


 重苦しい空気に耐え兼ねた俺はに冗談交じりに聞く。


「・・・」


 じっとした目で唯はこちらを見てくる。

 あれ、クールな唯ちゃんはこういう冗談無理な感じ?怒らせた?俺セクハラで捕まらないよね?


「あー遅いと思って見に来たら、あいてんじゃーん」


 さっきの唯の友達と思われる二人の女の子が戻ってくる。


「あれ、唯もしかして彼氏~?」


 もう一人の唯の友達が意地わるそうに唯に聞く。

 まさか前のあかちゃんモード発動して付き合ってるとか言わないよな・・・?


「なわけ、ただの知り合いの先輩」


「だよね~」


 そうだ、それでいい。

 それでいいはずなのになにか少し悲しい気がする。

 いやいいんだけどね・・・


「早く食べよー」


 唯たちは弁当をあけ、楽しそうに食べ始める。

 落ち込んでいた彼女が嘘のように明るい姿だ。


「えーあの人のこと好きなんだー」


 どうやら恋バナに花をさかせているようだ。

 この前と比べてとても元気だ。

 よかった、立ち直ってくれて。

 彼女たちの目に移りにくいように彼女たちから死角になる日陰の位置で食べる。




 綾瀬が買ってきてくれたコンビニ弁当を食べた。

 まだ少し時間があるし・・・暇だな本でも読むか。

 エロラノベを見るボッチ・・・我ながら完璧なボッチ像だ。

 しかし俺が見ているのはエロラノベよりはるかにエロイ官能小説だ!!!

 俺はいまだDT、来るべき決戦の日について勉強しなくてはいけない。


「フフフ・・・」


 内容を読むにつれ、不気味な笑みが止まらなくなる。

 初めて読んだがやっぱりエロイいな。

 俺は本に夢中になり、横から来る少女に気づかなかった。

 俺のエロ本が唯にすっと取られる。


「どれどれ、勇気はどんなのが好きなのかな」


「あっ、ちょ・・・」


「いけないとわかっているのにやってしまう人妻と・・」


 唯は俺の見ている本の表紙をみて、氷ついてしまった、唯は光のない死んだ魚のような眼で俺を見下す。

 仕方がないんだ!・・・これも演技の一つなんだ!てかそういうことにして!


「唯ーいくよー」


「先行っててー、すぐ行くー」


 気づくと唯の友達も昼食を食べ終わり、階段を下りているようだ。

 唯は一度大きくため息をつくと指で頭を抱える。


「さっきのセクハラ発言と言いマジでキモイから本当一回殴らせて・・・」


 彼女はこぶしを握り締めている。

 ああ・・・食らうかぁ・・・


「めつぶって」


 俺は指示に従い目をつぶり頬に力を入れる。


「おら!こい!」


 めちゃくちゃ腰が入ったパンチとかだったらどうしよ・・・気絶しちゃうかも・・・



 チュッ


「え」


 思わず声が出る。頬は痛くない、なにかやわらかいものに触れた感触だ。


「一応お礼・・あのままだと私本当に死んじゃってたしあん他のおかげでいろいろ吹っ切れた・・・あの時の告白の回答はまだ保留にしといてね」


 唯は恥ずかしそうにそういうとそそくさといなくなってしまった。

 俺は口を開けチャイムがなるまで唖然としていた、頬の感触をかみしめて。

 まだまだこの世も捨てたもんじゃねえな。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る