弱み
「何しに来たの...」
とっさに短刀を隠す。
「さっきぶりだな、コンビニ行って寝ようと思って歩いてたらお前が見えたって話よ」
真田は私の横に座る。
「あの後井上に電話した時聞いたよ、いろいろあったらしいな」
「私がいれば...こんなことには...」
「ああ、そうだ、お前がいれば卜伝さんは死ななかっただろうな、でもお前が拉致されなかったらそもそも卜伝は襲撃されなかっただろう」
「どうゆうこと?」
「たまたまお前が拉致されたときに襲撃されたと思うか?これはすべて陰謀だろうな、お前を拉致したのは誰だ?」
「武田家幹部四天の馬場?そんな...武田家に一騎打ちでおじい様に勝てるほどの人間が武田家にはいるの...?」
にわかには信じがたい、それにいくら武田とは言え殺しまでやるのだろうか。
「それはわからない、ただ卜伝が負けたのはサシでの戦いで負けたのが理由じゃないぞ」
「え?」
「聞いてないみたいだな...」
真田は目をそらし、唸る。
「聞かせて!なんで負けたの?」
「・・・お前の命を人質にとられたそうだ」
喉がつまり何も言えなくなる。
確かにあの時私はいなかった、時間もちょうど合う。
そんな...それじゃあおじい様がころされたのは全部...私のせいだ。まんまと監禁された挙句、人質にまで利用された。これじゃ道場の人たちに合わせる顔がない。結局自分のせいだ。
自責の念が強く心をえぐり、苦しくなる。
「私が...私が...」
少し過呼吸になり、胸を抑える。
「そんなにお前にとって大事な人だったんだな...」
真田は目を細め、何かを思いだしたように訝し気に前を向く。
やっぱり、私はこの世界に...
短刀で再び首を斬ろうとする。
ガシッ
短刀を持つ右手をつかまれる。
「止めないで...」
「いやだね、好きな人が目の前で自殺しようとしていて止めない男はいないだろ」
真田ははにかみながら、キザなセリフを口にする。
「死んだ卜伝さんの気持ちを考えろ、自分が負けたせいで孫のお前にまで死なれたら悲しいだろ」
「だとしても私なら助けられた、あんたに何がわかんの!ついこの前あったばっかで知ったような口で話さないでよ!」
私が感情的になり、掴まれた手を振り払うと真田はため息をつく。
「はぁ、たく、うるせえなぁ!」
真田がいきなり立ち上がり声を荒げる。
「なっ・・・」
予想外の言葉に口をつぐむ。
真田は顔を近づけ、私の肩を掴み目を合わせる。
「責任とか私のせいとかってうるせえんだよ、そんなのお前が義務感で気にしてるだけだろ、お前は何でもかんでも自分のせいにしすぎだバカ!」
「わたしは・・・」
突然の罵倒に動揺をかくせず、何も言い返せない
なんで、そんなこと私は・・・
「お前は確かに【剣聖】の跡継ぎっていう鳥籠の中にいるかもしれないでもお前にはそのカゴから出れる力を持ってるだろ。お前にかなうやつなんてほとんどいないんだ、無視して自分勝手にすればいい、昔からやらなきゃ行けないって言われてやらされてきたからその鳥籠から出来ないと勘違いして諦めてんだよ。【剣聖】の跡継ぎなんて役目降りちまえよ」
真田の言葉を聞いて胸が苦しくなる。
そんなことをしていいわけがない。
「いいんだよ、好き勝手に生きて、他人の責任にしてばかりだと成長できない他責のカス野郎になるが自分の責任ばかりじゃ辛いだろ」
「違う・・・私はあの【剣聖】の孫なの!私にしか力がないなら、やらなきゃダメに決まってる」
「違わねーよなんでお前ら立花家はそう責任が大好きなんだ?ここまで来ると呪いだな」
真田は疲れたようにまたため息をつき頭をかく。
「そもそもそんな自分勝手な事、みんなが許すわけない・・・!」
そうだ、出来るわけない・・・私は【剣聖】の孫、みんなの期待を一身に背負ってる。
「別にいいだろ、今お前はそのみんなとやらの期待に殺されかけてるんだぜ?」
武田は理解が出来ないと呆れたような顔をする。
「だったらそのみんな俺が全員殺してやろうか?なぁ、殺されるくらいならさぁ・・・」
耳の横で囁くように悪魔の言葉を口にする。
「
真田の顔はニヒルな笑みをうかべる。
「冗談だよ、笑えって」
彼は普段ヘラヘラしているが、この言葉の奥に嘘は感じられない。気迫がそう告げている。この人にそんな力はないはずなのになんなのだろうか気迫は。この人ならやりかねない、そんな気迫。
「もしお前が全力で叶えようとしてもそれでも叶わない物、出れない籠があるのなら、力が足りないのなら俺がどうにかしてやる、俺には策がある。一緒に武田を倒そう」
真田はズイッと顔を近ずけて、手を差し伸べる。
「ズケズケと人の心の中入り込んできて...!どんな策だろうとそんな事できるわけない!」
胸の奥が熱くなり、つい立ち上がり大声を出す。
「できる、俺とお前なら」
真田の顔は至って真剣で真っ直ぐこちらを向いてくる。
なんなのだろうか、真田のこの自信はどこから湧いてくるのだろうか。本当に勝てる算段があるのだろうか。嘘だそんなわけない私たちだけで学園を牛耳るあの武田家を倒すことなんて不可能だ。
結局この男も私を利用したいだけに過ぎないんだ。
「好きだからってなんでそこまでかかわってくるの!しつこい!・・・もう話にならない!」
横に飛び真田と距離をとる。
もう聞きたくない、真田の話を聞く度に今までの自分を否定され不快になる一方、真田のその発現にもっともだと思う自分がいる。
「どうせ死ぬなら俺に賭けてくれないか」
真田は諦めない、近ずいてくる。
ギターケースから木刀を念力でだし、真田のほうに向ける。
「それ以上来たら・・・骨どころか命も保証しない・・・この20本の木刀を全てあなたにあてる」
ブンッッ
木刀が真田の頬をかすめる。
しかし真田は一切躊躇せずに進んでくる。
「脅しじゃない!本当に当てるわよ!」
必死に止めるも近づいてくる。
「くっ・・・」
仕方なく木刀を射出する。
しかしそれは真田にあたらない。
なんで?いつもならまっすぐ飛ぶはずの刀がずれて当たらない。
「なんで当たらない?って顔だな、そりゃそうだ、お前のその念力の技術はペーシェントの中でもトップクラスだろうな、だがなその力、扱うにはかなりの集中力と安定した精神がいる、今のお前にはそれがあるか?」
確信をついた一言に何も言い返せなくなる。
「こないでよ・・・」
怖い・・・もう信じた人たちに利用されるのは・・・
「一回ぶん殴って目を覚まさせてやる」
刀は撃ち尽くした。
真田は殴るように腕を上げる。
もし殴られて覚める苦しみならそんなものとっくに・・・
目をつぶり、その痛みを受け入れようとする。
ギュッ
息が止まるほど強く抱きしめられる。だんだんと体の力が抜けていき短刀を落とす。
真田は口を私の耳に近づけ、囁く。
「俺がお前に自由をやるよ、俺の前ではお前の弱い姿、みっともない姿、全部全部俺の前だけではさらけだしていい、本当に泣きたいときは泣いていいんだ」
優しい声で言われたその言葉は、私にもう休んでいいよと言ってくれているようで、疲れ切った私の心によく響く。今まで足りてなかった穴を全て埋めたような気持ちだ。不安で、揺れ動く私の心まで強く抱きしめる。
「あ...うぅ...」
さっき出し切って、枯れたと思った涙がポロポロとあふれだして止まらない。彼の抱擁はまるで母に抱かれているような、安心感を感じる。
この人は、ほかの人間みたいに私を崇拝したり、避けたりはしない、いつも本音で喋っているようで、真正面から全力で私のことを好きと言ってくれた。私はこの人のことをまだ名前しか知らない、でも本当に今度こそ信じていいんだろうか。
今までの不安といまだ出会いの時間の短さが一抹の不安を掻き立てる。
「お前は努力してきた人間だ、だったらほかのやつらが持ってる自由くらい得たっていいよ、文句をいうやつがいたら俺がぶっ飛ばしてやる。だからまずはお前の自由のために一緒に武田達を倒そう...俺たちならきっとできる」
なぜか、すごく幸せで楽な気分だ。今まで突き刺さっていた痛みが取れたような。今までここまでアプローチされたことはなかったし、人と抱き合うことはなかった。これが恋なのだろうか。真田の理屈は一変子供のような自己中な考え、でもこの考えはどこまでも深く真田は私が思っている以上に大人のように感じさせる。
「うん...いいよ、私の事唯ってよんで…」
「ああ、唯」
私は彼の優しさに甘えることにした。例え彼が悪魔だとしても今だけは誰かにたよならないといけなかった。
私は同じように抱き返す。
今はその一抹の不安よりも、誰かに甘えたかった。完全な私の心を理解する、支えになる人が欲しかった。
私はそのまま真田に抱かれたままさんざん泣いた、今度こそ本当に涙が枯れるまで。
~~~佐山視点~~~
はい、俺の勝ち~~~女ちょっろ。
つい泣いている立花唯の裏でほくそえんでしまう。木刀向けられたときはひやひやしたぜ・・・
これで俺の『ピンチの時にかけつけるヒーロー作戦』は完了だ。この作戦は立花唯の分断、人質、そして掌握の三つの意味がある作戦だった。真壁の協力のおかげで、立花唯の監禁に成功し、馬場を思う通りに動かせた。やっぱり人は心が不安定な時誰かに救いを求めてしまう生き物なんだろう、あれほど人間不信になっていた彼女の心の奥底に行くことが簡単にできた。これでまた駒が一つできた、彼女の力は俺がいた時代の猛者しかいなかった暗部にいてもなんらおかしくないほどだ。
それにしても今日はもうさんざん疲れた、激戦をした後に山を登り、また戦闘、その後立花唯をつけて心の掌握のための演技、卜伝との戦闘直前までしっかり寝て行ったのは正解だったようだ。しかし気の毒な少女だ、結局俺を信じてもまた利用される人生に変わりはない、俺は君の好きな強くて素直な男じゃない、今の俺は卑怯なただの小心者だ。
さんざん泣き終わったようなので立花唯の腰に回した手を下げ、抱き合うのををやめようとする。
「え、唯?」
ググッ
俺が強く抱き合った分、彼女もかなり強く抱きしめている、しかし俺がやめているのに彼女は一向に離してくれない。
「と、とりあえず、今は家に帰ってまた後日武田達を倒す方法をかんがえよう?」
「家、警察、入れない」
「ああ、じゃあ、お金あげるからホテルにでもさ」
「やだ」
おいおい、こいつこんなキャラだったか?涙と一緒に自分の人格までながれちゃったの?
ずっと本当の自分を隠し、仮面を作り上げていた反動か、彼女はかなり幼児化している様子だ。
「まだ一緒にいたい」
「・・・」
唯は無垢な顔で俺を見つめてくる。全く邪念のない、きれいな目だ。
そうだね、もう少しだけ。彼女は身内のことを恨んでいるようなことを言ってたが卜伝のことは嫌いではなかったようだ。むしろだいすきなおじいちゃんといった感じの言い方・・・嘘だらけの俺だが彼女を自由にしてやりたいのだけは本当だ。彼女に、唯に、あまりにひどいことをしていることはわかっている、罪の意識だって感じてる。賢い彼女のことだ、いずれ真実にたどり着くだろう、その時、嘘をついて利用していた俺を殺したいほど憎むんだ、今の俺のように。ただその時までは・・・・
30分ほど抱き合って満足してくれたのかそのあとようやく俺を開放してくれた。俺はすぐに家に帰って寝ようとするも、ドアの前に綾瀬がたっている。
「本当、ひどいことしますね、好きでもない女の子に愛の言葉をささやくなんて、さすがに私もドン引きです」
「うるせぇ!、そもそもお前も俺を抱きしめて俺の心をおとそうとしただろ!おんなじの使おうとしただけですぅ~~」
「はぁ?!あー、頭はよくても理性が猿並みですからね...」
「俺の理性が猿並みだと弁解しろ!ウキーーーーーーーーーーーーー!」
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