真剣勝負

 〜〜2時間前〜〜


 草木も眠る丑三つ時、闇から復讐の黒き鬼が姿を現す。




「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 バゴォッ


 前から突進して襲ってくる男を後ろの壁まで吹き飛ばす、15人目。


「お前...ここがどこだかわかってやっているのか!」


 この惨劇に今気づいたばかりの井上が怒りにふるえつつ後ろから向かってくる。

 門下生が寝ているだろう深夜を狙ったのにまだまだ数が出てくる、しかし井上で最後だろう、ばたばたと騒がしかった廊下の音がやんだからだ。


「でかい声を出すな、頭に響く」


 質問を無視した返答に井上の怒りはさらに増す。


「質問に答えろッッ!」


 木刀で向かってきたところに振り向きざま、ノールックで肘打ちを顔に当てる。


 ドガァッ


「がはっ...」


 井上は一瞬で気絶し、倒れこむ、これで16人目。怒りに呑まれては上手くシックは使えない。シックは感情に起因する。本当の強者は怒りの震えを無視し力にする、この俺にはそれができる。俺の怒りは井上の怒りの程度では収まらない。


「黒い体に一本角、貴様何者だ?..また貴様のようなものが来るとは思っていたが...これほどの猛者が来るとは」


 次元流師範の男はよろよろの体で刀を支えになんとか立ち上がり、もう一度刀を向けてくる。

 一度かなりの威力で殴ったのに立ち上がってくるのはさすが師範代といったところか。しかしこの男の話を聞くと卜伝は俺以外にもかなり恨みを買っているようだ。


「・・・」


「答えぬか...しゃべれぬのかはたまたしゃべらないのか...あの方はまだ生きねばならぬ理由がある。小僧死んでも恨むなよ」


 生きねばならぬ理由だと?だからなんだ、卜伝にに生きねばならない理由があるように俺たちにもあの時普通に生きる権利があったはずだ、少なくともあいつには。自分だけのうのうと幸せに寿命を全うさせてたまるものかよ。


「次元流!【次元斬烈】」


 師範代の男は残りの力を振り絞り一撃を放つ、閃光のような無数の斬撃が襲ってくる。手をクロスし師範代目掛け突進する。やはりこの技は中央に行けば行くほど安全よけようと恥に避けた敵を捕まえ、切り刻む技だ。見える、敵が放った斬撃の軌道がわかるのだ、さっきの30人ほどの門下との戦いでわかったがやはり予想以上にこの仮面は強力。


「この技までよけるか...化け物め...」


 ドォッッン


 師範代は俺の突進になすすべなく吹き飛び気絶した。

 やれる、この力があればあの爺を地獄に送ってやれる。

 俺は師範代の刀を奪う。

 この刀、何かの役に立つだろう。




 歩いていくと奥に寝室と書いてある部屋がある、あそこが卜伝の寝ているとこだろう。


 シャキンッッ


 俺は師範代の男の刀を持ち、卜伝の寝室のふすまを斬り無理やり開ける。


「ようこそ侵入者くん、私までたどり着いた人間は久しぶりだよ」


 でかい寝室の奥には道場着を着た卜伝が正座で目をつむっている。部屋は暗く、それ以降はよく見えない。どうやら瞑想して精神を統一しているようだ。ペーシェントにとって集中は自分の技のイメージを強め、技の威力に関する重要なものだ。騒ぎが大きくなっても来なかったのはそれが理由のようだ。


「老人だから寝ているのかと思ったよ」


 窓から月明かりが差し込み漆黒の体が映し出される。


「黒き一本角に鎧...武者のようななりをしているな、いや鬼にもみえなくもない」


 【千里眼】も使えるのか、あれほどの剣系のシックとほかのシックを併用するのはさすがといったところだろう。


「力を持つと恨まれることも多くてね、こういう経験は両手の指では数えることができないほどあった、そのたびにその相手の腕やらを吹き飛ばし実力の差を見せつけると許しを請うのだ、まるで被害者のような顔をしてね」


 どういうことだろうか、瞑想が原因か肌のしわがなくなり、口調や声色も若返った気がする。これもシックの力なのだろうか。


「返り血が少しもないところを見ると我が弟子たちは殺していないようだな、今その面をとり事情を全て話すなら、死なずに帰ることを許すがどうする?」


「今日ここで死ぬのはお前だけで十分だ」


 これ以上俺と同じ思いをさせる人間を増やしたくないのは本心だ。自分でやってて本当馬鹿だと思う、復讐なんて。でも死んだ人間は望んでないとかそんなものは関係ない、むかつくから復讐する、それだけだ。気軽に復讐を…ってな。


「それが答えか...殺す前に聞きたい、なぜ私を殺しに来る?焔龍会の人間か?それとも…」


 敵が目の前にいるというのにいまだに正座で目をつむったまま卜伝は質問する。しかし一切の隙を感じさせない、それもまたこの男の力なのだろうか、それとも俺の腰が引けているだけか。


「今から死ぬ人間が何を聞いても無駄だろ?」


 卜伝の疑問に煽り口調で返答する。

 焔龍会?なんだそれは?だがそんなもの今はどうでもいい、今俺の中にあるのはこいつを殺すと言う執念だけだ。


「ふふふ、調子にのるなよクソガキ!」


 言動とは裏腹に卜伝は目を開き満面の笑みで立ち上がる。獲物の威勢がよくうれしいのだろうか。その佇まいは昔の【剣聖】とよばれる前の剣豪の姿を思い出させる。

 俺もうれしいよ、ようやく俺を地獄まで落としたやつを本当の地獄に突き落とすことができるんだから、どれだけまたされたことか。

 卜伝は鞘を掴み、刀の柄を握る、少しでた刀身が仰々しい雰囲気を漂わせる。

 あれは卜伝の持つ最上大業物【龍斬】、昔の剣豪がその刀で伝説上の龍を斬ったことからそう呼ばれているらしい。その龍を殺した呪いか褒美か、これを持った男は死んだとき亡霊となり、どのような形でかはわからないが、新たな持ち主に力を与えるらしい。

 あの刀がどうであれ、もう俺の作戦は動き出している。勝つのはこの俺だ...!


「始めようか、楽しい楽しい地獄行き特急便の戦いをな!」

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