じゃあNOで
全く本当に馬鹿だな、俺が裏切られ全てを失ったときからペーシェントはすべて俺の敵だってのに。
深呼吸をし、落ちた心を取り戻すように精神を統一する。
ここでの敗北は許されない。
「まさか入ってきたネズミが追放された佐山先輩だったとはね、他の先輩たちにも伝えたかったけどって、すごいなあれ変身してんじゃん」
「一本角の黒カブト...油断するな、元とはいえ最強と言われた男だ、力は使えないだろうが、あの変身もなにかあるに違いない」
赤井は集中した鋭い目で俺を警戒している。
それに比べて山室は油断しているのが丸わかりなほどすきだらけだ。
赤井はかなりのパイロキネシスの使い手、後ろの炎には入ったら焼けこげそうなほどの熱気を感じる。山室は念力で鉄の棒を操るスタイルの戦闘方法、鉄の棒に念力をかけ、射出し敵の行動を制限するサポートタイプだったはずだ。
山室も暗部の服装ではないことを見るに、もう暗部をやめたんだろう。
誘われて協力したってのが関の山、どっちも現役ではないってことだ、不幸中の幸いってやつだな。
あいつらは元暗部の仲間だ、だが俺の邪魔をするなら全力で排除する、この潜入は俺の人生一度きりのチャンスなんだ、殺しをしてでも止まるわけにはいかない。
「復讐のためにきたんでしょ、復讐なんてくだらない、それに・・・」
「黙れ」
俺は赤井の続きの言葉をふさぐように冷たい声を出す。
赤井は良心で俺を止めようとしているんだろう、しかしそんなものはいらない。
「復讐がくだらない?そりゃお前は俺ほどの被害を被ってないからそんなこといえるんだ、わかるか?今まで良心で助けてきたやつらに裏切られた俺の気持ちが・・・!」
昔のことがフラッシュバックする。
こいつらはなにもわかっていない、わかろうともしていない。やっぱり全員殺してやろう・・・いや殺すだけじゃ飽き足らない・・・それよりも深い絶望を。
「幼馴染の最後の警告、まだ佐山がここにいることは私たち二人しか知らない、今帰るなら逃がす」
俺は止まらない、復讐だ!復讐こそが正義だ!
「いやだと言ったら?」
「殺す」
赤井は手に掲げる炎を向ける。
「じゃあNOで、これで殺されないのかな?」
にやにやしながら砕けた様子でしゃべる。
「話して少しはまるくなったと思ったんだけどな...でもそのほうが殺しやすくて助かるよ」
赤井は俺のふざけた発言に怒りが隠しきれていない。
俺もよかったよ、復讐するって決めたのにあったらつい申し訳ないとかぬるいこと考えちまった。
しっかり殺してやるよ。
「屁理屈こいてんじゃねーよ!さっさと死ね!」
山室が会話の間に割り込み、服の裾から出した鉄の棒が俺に飛んでくる。
ヒュンヒュン
ぎりぎりでよけ、殴りの射程圏内まで入り山室の顔面を目掛け腕を振り上げた。
「フンッ」
「うお、はや!?」
山室は俺のあまりの速さに驚き動きが止まる。
隙だらけだ。
しかし近くに寄ったその時の山室の口角が上がるのを俺は見逃さなかった。
「【
「————————ッ!」
赤井の炎が俺の頬をかすめる。
山室はあえて隙を与えることで囮になり、俺を誘い赤井の攻撃を当てる気だったようだ。
「おっしいーてかはやすぎでしょー」
互いに信頼しあったコンビネーション、ワンマンな昔の俺にはわからなかったものだ。
「お前と真壁の試合は見てたよ、やっぱり近距離でしか攻撃できないみたいだな」
「よくみてたな」
そう、今の俺はシックを封印され念力や赤井のようなパイロキネシスはほとんどできない、近距離戦に持ち込まないと話が始まらない、それを赤井をよくわかっているようだ。
対策は万全、数も不利、これは本気でやんなきゃ負ける、今の20%の力でどこまでいけるか。
一気に貯めていた力を解放する。
【超感覚】全開
「!?」
一気に空気が変わり、それに気づいた赤井は警戒を強める。
これだよこれ、昔を思い出させる力だ、今の俺の全力、全盛期の二割程度の実力しかないだろうがな。
俺は異常なまでの自信に包まれた、まるで昔のようだ。
「ほらひよってないでちゃっちゃとこいよ」
赤井は直線状に山室がかぶって攻撃できないがある程度山室に近づけばしっかり打ってくるみたいだ。
「相変わらずうざいなぁ、昔っからそういうとこがきもいんすよ、わかってないみたいっすね、あんたはもう終わりなんすよ、あんたが逃げられなくなってから勝負はついてたんすよ、でもそこまで自信があるならお言葉に甘えて!」
山室の鉄の棒は俺を目掛けとんでくる。今度はかなり量が多い、たしかに攻撃もよけにくい狭い路地裏だが俺なら。
シュッシュッ
山室が出した鉄パイプを紙一重ですべて躱す。
「それで勝ったつもりっすか!」
山室は念力でまた大量の棒を打ってくる。
壁を蹴り上げ一瞬で赤井たちの視界外に飛び上がる。
上からの攻撃ならさすがに罠もないはずだ。
「上に逃げる気か」
赤井は直線状に入った俺を射程にとらえ手をかざす。
「はやっマジでどんな身体能力してんすか、でもにがさないっすよ」
山室は余裕そうな顔で棒を集め大きなひとまとまりの鉄の塊を作り射出しようとしている。シックを使えない俺を相手に狩る側だと考え、慢心している。しかしこいつはまだわかっていない俺の20%がどんなものか。
「教えてやるよ、自分が狩られる側だってことをな」
「はあ?」
遠距離戦メイン対近距離戦メインの近距離戦メインの勝ち目はとにかく近づくこと、遠距離戦メインのやつらはインファイトに持ち込めば近距離戦メインのペーシェントに手も足も出ることなく敗北する、しかしそれは容易ではない敵の大量の攻撃をかいくぐりながら敵に近づかなればいけないのだから。なので普通は近距離戦メインのペーシェントは遠距離戦メインのペーシェントと相性が悪い。
山室のあの余裕はそこからきているのだろう、近づくことすらできずに殺してやるってな。
あなどられたもんだ、俺がお前らみたいな遠距離系のペーシェント相手になにも対策を考えずに帰ってきたと思われるなんてな。
俺は綾瀬からもらった道具の中にあったグレネードを点火し自分の後ろに投げる。
「なにをして・・・」
山室は俺のした行為を懐疑的な目で見つめ警戒している。
赤井は一瞬山室と同じように見つめるもすぐ気づき山室に指示をだす。
ククク、残念少し遅かったな。
「・・・そういうことか!山室、目を閉じろ!」
「えっ」
ピカッッ
赤井の言葉と時を同じくし俺の投げたスタングレネード、いわゆる閃光弾が暗夜に大きな光をもたらす。
「大丈夫か山室!」
赤井は片腕で光を防ぎながらもう片腕で攻撃するための炎を作り上げる、俺が近づくのを想定して光がなくなった瞬間に反撃に転じるつもりだ。
「たった数秒程度みえなくなったところで何ができるんだよ!」
山室ももろに光をくらい怯みながらも反撃の体制を整えようとしている。
「戦場での数秒の価値を忘れたのか?」
俺は壁を全力で蹴り、一瞬で山室を自分の射程圏内まで入れた。
これほどの脚力は仮面の力と今の俺の全力を掛け合わせたからできた芸当だ。
「なっ――――」
ブシュッッ
俺の手の突きが山室の腹を貫く。
貫いたところから血がだらとたれ、鉄の匂いが漂う。
「ガハッ、嘘っしょ、まだ本気、だし・・・」
「馬鹿がお前の敗因は油断だ、地獄に行く前に学べてよかったな」
手を振り、鮮血を飛び散らせる。赤井は一瞬の出来事に目をまるくしその目を俺と合わせる。
「山室…!」
俺は山室の後ろにいた、赤井に近づく。
「そこまでの力があってなぜ、復讐なんて!」
赤井は手に構えた技ををすぐ打てる状態だ、今行けば鎧も貫通し俺の体は炭にされるだろう、なら。
シュー―――――――――――
俺は綾瀬にもらった武器一式の中にあった、スモークグレネードを使い、後ろに下がった。
「これで終わりだ!【獄・炎柱】!」
赤井はいきなり出てきた煙に対し、一瞬動作を遅らせたが俺を最後に見たところに最大火力のシックを打ち込む。
その炎は路地裏直線状にあるものをすべて焼き尽くした。
しかしそこに俺の焼死体はない。
「どこに・・・まさか!」
俺はナイフを赤井の首に突きつける。
「幼馴染の最後の警告だ」
俺はもう一度上に飛び壁を思いっきり蹴り上げて赤井の技を寸でのところで避けていた。
「俺の仲間になれ、いやだと言ったら・・・」
最後の警告を告げる。これで、こんどこそ。
「じゃあ・・NOで」
赤井は殺される直前だというのに笑顔で茶化しながら言う。
「なんでだよ・・・」
彼女を今から殺さなければいけないと思うと手の震えが止まらなくなる。
「私はこの町を裏切りたくない、昔からそうだったよね、ひねくれて友達もすくなかったけど、必ずどこかに芯があった、そういうの含めて結構昔は好きだったよ、佐山のこと」
やめろ・・・俺はそんな好かれるような奴じゃない。
「・・・そうか」
震える手を抑え、俺は彼女の首にナイフを切り上げた。
ズシャッッ
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