宇佐美の戦い②
穴山が選んだのは深夜、人気がなく工具が放置されている工事現場、かなり広くビルの建設予定地らしい。
これならどれだけ叫んでも誰にも聞こえないような場所だ。
「ああ、本当に一人できたのかよ、本当馬鹿な女だなぁ」
穴山は月を背に鉄骨ブロックの上で膝を組んで口を抑え私を笑っている。
「何がです?」
「お前さぁ、馬鹿か?いい女犯させてやるって言ったからなぁ10人ほどは来るだろうな、それも俺が厳選した、しっかり戦えるやつらだ、お前は終わりなんだよ、当然逃がさねえぜ、捕まえて犯してやるよ」
穴山は舌なめずりをしていやらしい目つきで私を見る。
この人のこういう下品な態度は本当に吐き気がするほど嫌いだ。
「お仲間さんの話、あと15分でけりをつければいいだけの話ですよね」
「は?鍛えすぎて頭の中まで筋肉になっちまったのか?」
「かもしれませんね、それでもあなたより頭はいいですよ」
真田くんに教えてもらった挑発術、戦闘は相手と話し集中力を乱し、体全体を力ませることから始まっていると彼は言っていた。
与えられた猶予は約15分、でもここまで来た以上やるしかない、やってみせる。
「なんだと、この野郎・・・」
どうやらうまくはまってくれているようだ。
「お前は上と下どっちから先に攻めてほしいか考えとけや、くそ女!」
穴山は手に風をまとい上からとびかかってくる。
穴山が主に使うシックは【風】、自分に風を纏い突風による変幻自在な動きや手に纏えば実態のある、切れ味のいい丸いチェンソーのような手刀となる、穴山は遠距離にも風の塊で対応する遠近両対応タイプ。
私が武田家4組幹部に確実に勝てるはわからない、でも私はやってみせる、真田くんのためにも!
私は手首をカッターで斬り、手を出し刀を造形する。
「死ね【風斬手刀】!」
「ノア!」
穴山から近づく手刀をノアが六角形の盾になり防御する。
ガギィィィンッ
硬い金属を削るような音が工事現場に鳴り響く。
「お前この辺なのに自分の死んだ犬の名前つけてんのかよ、きめぇ女だな」
こいつ、私のノアを殺しておいてよくこうも図々しくいられるものだ。
だめだ、これじゃあ相手の術中にはまっている、脱力しろ、常に脱力だ。
大きく息を吸いストレスとともに息を吐く。
ノア今こいつを懲らしめてかたきをとるからね。
ガギィィンガギィィン
穴山は何度も私に攻撃を通そうと乱打するもそのたびノアに弾かれる。
ノアは私が防御を感知しているものを自動的に防御する、穴山の攻撃は一回たりとも通らない。
「かてぇな、全く歯が通らない、だがこれならどうだ、【風斬風車】!」
シュルシュルッ
穴山は手で二つの手裏剣のような風の塊を投げる、それは私のいる場所とは違う場所に投げられている。
なぜ・・・
「そしてぇ、【両風斬手刀】!」
さっきやったことの両手版をしようと穴山は走って向かってくる。
どういうこと・・・考えよう、脱力して落ち着いて考えるんだ。
私が相手の行動にい悩んでいると後ろからシュルシュルと何かが向かってくる音がする。
「まずい・・・これは・・・!」
「ブーメランの風斬風車二つと俺の両手刀、全部同時すべての方角からくる攻撃を避けられるかぁ!」
こいつ・・・ノアの弱点を・・・
「ノアは穴山本体を、後ろの風車は私がやる!」
私の身体強化はそこまで強くない、シックでの強化分は十分あるがもともとの筋肉が少ないからだ、だからそこはノアに対応させる。
私は後ろを向き、刀で風車を弾く。
ガギィィンガギィィン
同時に後ろからノアと穴山がぶつかった音がする。
よし、なんとかはじけた・・・すぐに反撃してやる・・・!
「え?」
しかし前を向きなおしても穴山はいない。
「こっちだよ!クソあまぁ!」
穴山は私の後ろから手刀で切りかかってくる。
そうか、突風を使って一瞬で私の視界外から後ろに回ったんだ・・・!
ズシャッッッ
私の胸から肩まで切り傷ができ、鮮血が飛び散る。
なんとか気づいた瞬間よける姿勢に入れたため急所は外れた。
「残念、首を狙ったのになぁ」
この人は、最悪私を殺してもいいと思っている。
「みたところ、お前は血を操るシックだ、そしてそのペットはクソかてえが一点しか守れないんだろ、同時に何か所からも攻撃すればそれも空く、それにお前が視認するのが少しでも遅れれば防御も間に合わない」
「くっ・・・」
これが4組武田家幹部クラス、分析能力も高く、シックの汎用性も高い。
一瞬で弱点を見抜かれた・・・やっぱり強い。
「図星かぁ?あと10分で俺の仲間が来ちまうぜ?お前は俺に勝つために努力したんだろうけどなぁ、こっちはいろんなところで戦ってきてんだよ、練習で経験積んだお前と実践でつんだ俺、どっちが強いかなんて明白だろ」
「確かにそれはそうですね、でもあなたにはなくて私にあるものもあります」
「はぁ?」
「才能の差ですよ、実践で積んだ経験とやらを持っているあなたでも私に攻撃を当てるのに一苦労じゃないですか」
「口が減らない女だなぁ、ご褒美に次の風車は4個だ、受け止め切れるかぁ!」
四個の風車がまた放たれる、また私の背を狙う気だ。
私は穴山に対し血を蹴り、突貫する。
同時に攻撃できるのは風車と自分の動きが完全に会う場合だ、こっちが無理やり穴山と当たれば攻撃の時間にもずれが生じるはず。
「攻撃のタイミングに時差を作る気か?だが俺の連打を止めなきゃ当たっちまうぞぉ!」
ガギィィィン
穴山の片手の手刀はノアが止める。
「それでもう片方はどうするぅ!」
私の血刀と穴山の手刀がぶつかり合う。
ギギギィィィ
穴山の風を帯びた手刀は回り続け私の刀を削る。
後ろからは風車、このままつばぜり合いをしていたらじり貧で負ける。
でも私には策がないわけじゃない。
「【血状変化】!」
「あ?」
私が叫ぶと刀の先端が形状を変え下り曲がり、穴山の体の方を向く。
グサッッ
「がぁ!?」
穴山の足に降り曲がった刀が伸び突き刺さる。
穴山は一度離れ体制を立て直す、私もその隙に後ろからくる風車をノアと打ち落とす。
「いってぇ、そんなのありかよ・・・!」
穴山は痛そうに足を抱えながら私をにらむ。
私は血を液体から個体にすることもできる、それにより刀の形状変化すら可能にさせた。
「今、降参して二度と私とかかわらないなら許してあげる」
これで終わりだ・・・!
「クク、許してくださいってのはこっちのセリフだよバカが、時計を見てみろ!」
穴山は一度時計を見るとまた余裕な態度を取り始める。
私も急いで腕時計に目を向ける。
最悪だ、もう15分経っている、このままだともうすぐ敵の増援が来る・・・!
ザッザッザッ
壁の奥から誰かの足音が聞こえる。
まずい、まだ穴山は戦える、深手は負わせたがそれは私もだ、今からの1対1でも穴山と互角なのにもう一人五体満足の人がきたら今の私じゃ絶対勝てない、あきらめるな、考えろ!
脳内をフル回転させ何度も思考するも一行も打開できるアイデアは思い浮かばない、進んでくるのは足音だけ。
「おいおい、上の口と下の口どっちから攻めてほしいか聞いたよなぁ!答え聞かせてくれよ!」
穴山は高ぶりながら絶望に浸る私を嘲笑う。
最悪だ、こんなやつに・・・
ザッザッ
「ごめんなさい真田くん・・・」
また私は勝てなかった、負け犬人生に逆戻りだ。
「はぁ!?てめえ誰だよ!」
穴山が仰天したような素っ頓狂な声で来た人間を指さす。
「・・・え?」
雲がはれ、月明かりが差し込み足音のする方を照らす。
そこには相変わらずの不敵笑みを浮かべるヒーローが立っていた。
「まだやれるよなぁ!宇佐美ぃ!」
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