腹の探り合い
「穴山の死体と証拠はこっちで隠しとく、死体さえ見つからなければ警察も大した動きは見せないから安心しろ、お前自身正当防衛で殺したみたいなもんだ、気に止むこともねえよ」
宇佐美は死体をじっと見つめて動かない。
普通の人間は例え相手がどれだけ悪かろうが人殺しをした時心に罪悪感が生まれる、それを彼女は感じているのだろう、俺にはもうないものだ。
「復讐を成し遂げて・・・これで正しかったんでしょうか・・・」
そう言う宇佐美の顔には不安や後悔の表情が浮かんでいた。
「正しいさ、お前の信じる俺が言うんだから間違いない」
「ノアは復讐を成し遂げて喜んでいるでしょうか・・・?」
「さあな、でもノアはお前が元気に生きていることには喜んでると思うぜ」
涙ぐむ宇佐美を抱き寄せ、柄にもない言葉をかける。
それを聞いた宇佐美はハッとしたような顔をしたと思うとすぐ涙ぐむ。
彼女に今いるのは肯定、自分の行動が間違っていなかったということ、人間はいつだって自分のしたことが正解だと信じたい、そういう生き物だ。
「そう・・・ですよね・・・すいません、今までの事を否定するようなことを言ってしまって・・・」
「いいんだよ、お前は頑張ったんだからもっと胸を張れ、それと話は変わるが宇佐美、これから俺や唯は水面下で武田家でやり合うと思う、もしその時がきたら手を貸してくれないか?」
「・・・わかりました、佐山さんの頼みなら・・・」
相変わらず泣き虫な女だ、だが宇佐美俺はお前に感謝するよ、お前のおかげで楽に幹部をまた一人消し、お前という大きな戦力を手中に収めることができた。
「お前の強さはお前の努力の賜物だ、今日はもう遅いし疲れたろ、帰ってゆっくり休め、それと忘れるなよ、俺はいつでもお前の味方だってことを、今度自殺なんてしようとしたら許さねえからな」
「はい・・・!」
俺はこいつの師匠として彼女を肯定する言葉をかける。
唯同様、俺が彼女の心の拠り所になる必要がある、そうでないと不安定な彼女のメンタルは簡単に崩れるだろう。
宇佐美は目尻の涙を拭うと俺に一礼し、帰っていった。
「さっすがですねぇー」
「うおっ・・・いきなりでてくるなよ、心臓に悪いぞ」
「まさか本当にやり切るとは~相変わらずその行動力と計画力には恐れ入りますね~、犬を殺しそれを穴山のせいに仕立て上げ、動機を作り上げ復讐を扇動し殺させる・・・モラルがしっかり欠如していますね」
後ろから急に綾瀬が現れ、俺に皮肉めいた賞賛を笑顔で送ってくる。
「あいつにとって俺は恩人でもあり師匠でもあり共犯者だ、あれでもう宇佐美は俺に逆らえないし裏切れない」
「なるほど穴山さんを殺したのもそのためでしたか、ボコボコにされた私怨で殺したのかと」
「相変わらず一言多い女だな、お前・・・それはともかくとしてとりあえずはまずは一人だ」
「一人?生徒会の人を全員もしかして同じ方法で落としてハーレム計画でも作るんですか!?まさか佐山さんが男の人も行けたなんて・・・」
「いかねぇよ!だが生徒会を掌握するって意味じゃあってる、生徒会を手に入れればいろいろ楽だしな、生徒会に武田家とやり合う気がないならその気にさせるまでだ、ていうかお前ずっと俺のこと監視してるのか?」
「そりゃもちろん私は佐山さんのお手伝いできているわけですし、当たり前じゃないですか」
「まるでストーカーだな・・・待てよ、まさか家の中でしているあんなことやこんなことまで見ているっていうのか!?いやん!エッチ、スケベ、変態!」
一言多い綾瀬ちゃんにお灸を据えようと下ネタ交じりの冗談を放つ。
まさか俺の家の中までは彼女も見ていないだろう、これで少しでも懲りてほしいものだ。
「大丈夫です、致そうとしているときは見るのをやめているので」
「なにも大丈夫じゃねーじゃねーか!」
綾瀬の口から出たまさかの答えのせいで今年一番の突っ込みがでた気がする。
今日、綾瀬には俺のプライバシーが保証されていないことが分かった。
~~~~~
俺と唯が生徒会に入ってから一ヶ月、ミスコンから一週間の月日が流れた。
しかしやるとこは雑務雑務雑務と似たようなことをやらされてそろそろ頭がおかしくなりそうだ。
だがそれを顔に出してはいけない・・・完璧に真田勇気を演じなければ・・・
「大丈夫ですか?」
俺の疲れた顔を見て心配そうな声を掛けるのは宇佐美、ミスコンで二位を取ってから男女共に引く手数多のようだ。
「宇佐美は自分の仕事して、伊吹の面倒は私が見る」
「わ、分かりました」
唯が謎の対抗心を燃やし、宇佐美に軽く威嚇している。
「けっ・・・甘やかすんじゃねーぞ宇佐美、業務はみんな同じ量だ、その程度の量で弱音はいてんじゃねーよ」
相変わらず直江は俺に対し敵意むき出し、なぜこんなに嫌われているかわからない。
「それにしても宇佐美がここまで美人になるなんて、すごいね、人間努力次第でどうにでもなるものだねー」
「外見以外もシックの操作も格段にうまくなってるし本当すごいよ!」
「すごいよねーでも私は前から宇佐美は綺麗になると思ってたよー!」
「ありがとうございます」
「どうやって、そんなに変わったんだ?」
会長の長尾と井上は感心し、柿崎はフフンと鼻息を鳴らし自慢げな態度をとっている。
宇佐美の話を広げようとしていると生徒会室のドアが開く。
「うっっすー」
「高じゃ~ん!」
「おせぇぞ!」
「そんな怒るなって」
柿崎はその男に抱き着き、直江は男に強い口調で罵声を浴びせ、唯はプイと男と違う方を向く。
死んだような目にピアス、強めの香水の匂いが鼻をつんざく、【四天】の高坂の登場だ。
こいつが生徒会室にくると唯や直江とぶつかり毎回一瞬部屋の空気が重くなる、この現象どうにかならないものか。
「まぁ、そんなことより今はお前たちに聞きたいことがあるんだ」
高坂は一回咳払いし、部屋の視線を集める。
「穴山が一週間前から行方不明なんだけど・・・誰か知らない?」
「・・・」
高坂の言葉でその場が凍ったように感じる。
当然知っている、あいつを殺したのも死体を消したのも俺たちだ。
今ここにいて穴山の死をしっているのは俺と宇佐美だけだ、俺は何もなかったように業務を続けているが宇佐美のあの性格だ、動揺しているに違いない、もし罪の意識に潰されて今自白なんてされたらすべてが終わりだ。
「・・・」
宇佐美の方を横目で見ると俺の心配とは裏腹に宇佐美も俺と同じように一切動揺している素振りを見せず作業を続けている。
高坂はその宇佐美のことをじっと見つめ観察して、何かを探っている様子だ。
「俺なりに絞殺したんだが恨みを買いやすい奴だったからな、殺されて東京湾にでも沈んでいるんだろうと俺は考えている」
「じゃあ、それで話は終わりじゃないか?」
「あいつは普通のペーシェントに動機だけで殺されるほどやわなやつじゃない、相当の実力もないと殺せないってわけ」
「それで宇佐美、君ミスコン前にだいぶ強くなったみたいだね、それに君は穴山にいじめられていた、動機、実力ともに十分、そしていなくなった当日の夜穴山直属の部下が10人趣味の悪いパーティーに誘われたらしい、そのパーティーには誰かはわからないが女性がくるとの話だったらしい、俺はその女がね・・・お前だと思ってるんだよ、宇佐美」
高坂は宇佐美の目の奥の感情を読もうとグイッと顔を近づける。
宇佐美は一切冷汗も掻かずに毅然とした態度だ。
「穴山は受けた痛みは何十倍にして返すような奴だったからね、君にみんなの前で恥をかかされたその恨みを返すために君を呼び出し、痛ぶろうとしたが失敗し死んだ、違うかい?」
「違います、私は夜家にいましたから」
「本当かい?」
「おい、もうやめろよ違うって言ってるだろ、それにあの臆病な宇佐美が穴山を殺すとは思えねぇ」
「そうだよー高も神経質になりすぎだって・・・今日はもう速く帰ろうよ」
「そうかい・・・まぁ、こんなのただの憶測でしかない・・・証拠は一つもないからね」
高坂はそう言うと柿崎と部屋を出ていく。
緊張が解け、一気に肩の力を抜き、誰にも聞こえないように深呼吸する。
まさか、あの宇佐美が嘘をあれだけしっかり突き通すとは思わなかった。
まるで娘の成長でも見ている気分だ。
変わったな・・・お父さんうれしい!
元最強30歳おっさん全てを取り返すためにもう一度立ち上がる 外典 @unpichan88
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