8通目

第24話 安心できるかぁーっ!!



 そろそろ手紙が来る頃だとは思っていた。

 しかしまさか、持ってくるのがグリムだとは、全く想像していなかった。


「ユン、これ預かってきたよ」


 そう言って差し出された封筒にはいつもの署名で宛先に俺が指名されている。

 ならば「何でお前が?」と思う事も無理はない。


 だからそのままそう聞いたのだが、グリムはそれに相変わらずの飄々さ加減で「いやぁ」と言って笑ってみせる。


「偶々ユンの父親に会ったから、『どうせ会うから預かっとくよ』って言って受け取っといた」

「すんなりお前に?」

「まぁ王都から手紙が来るたびに俺たちが会議してるのは、最早周知の事実だろうからね」

「……あぁ」


 なるほど。

 ユンはそんな風に納得する。



 確かに俺たちが集まる場所は、いつも使用人たちの共同スペースの一角だった。

 別に隠す事でもないしそもそも最初からそのつもりも無かったので、周りが知っていても別におかしな事は無い。


(まぁ『周知の事実』と言われるくらいまで知り渡っているとはまさか、思ってはいなかったけど)


 なんて事を思いながら手紙を受け取り、「ん?」と思う。


「ちょっと待てグリム、何でコレ封が開いてる……?」

「え、読んだからだけど?」


 シレッとそう言い放ったグリムに、ユンは半目になってしまう。


(コイツ……さては一人で先に読むために、この手紙を預かったな?)


 呆れたものだ。

 そんな風に思ってしまう。

 が。


「ユンだってよく先に一人で読んでるでしょ」

「ぅぐっ……」


 言い返せない。

 確かにその通りだし、理由は一刻も早く読みたいくらいに書かれている内容が気になったから。

 つまりは多分、グリムと同じだ。


 

 結局反論の言葉を持てなくて、ユンは「はぁ」とため息を吐いた。

 そして「で?」と彼に聞く。


「どんな事が書いてあったんだよ?」


 これを聞いたのは、ただの気まぐれだった。

 どうせすぐに読むのだし、別に聞く必要もない。

 そしてユンは聞いた事を、この後後悔する事になる。


「それは――」

 

 彼は、それ以上は何も言う事は無かった。

 しかしそれでも、彼の表情が物語っている。


 グリムは実に、にんまりとした良い笑顔をしていたのだった。




 その日の夜、同期を集めたユンの顔色はいつも以上に悪かった。


「え……ちょっと、脅かさないでよ」

「……は? 何が」

「『何が』って、アンタ……そんな顔されてたら『大変な事が書いてありました』って言っているようなものじゃない!」


 メリアがユンにそんな事を言ってくるが、別にユンだって好きでこんな気持ちになっている訳ではない。

 

「もっ、もしかしてセシリア様の身に何か……っ?!」


 珍しくノルテノが声を荒げて立ち上がる。

 

 元々セシリアの事をひどく心配していた彼女だ、その反応も分からなくはない。

 しかしそれに関しては杞憂である。


「大丈夫だ、まだ」

「『まだ』……?」


 アヤがその嫌な響きに反応した。

 しかしユンにも、こうとしか言えないのだ。

 そしてそれは、この手紙の内容を知れば誰もが同じ事だろう。


「……とりあえず手紙を読むぞ、話はその後だ」


 ユンはそう言って、険しい顔で手紙を開いた。



 ――――

 

 ユンへ


 元気だったか?

 こっちはセシリアが元気になった。

 つい今日、例のガチ喧嘩に良い形で決着がついた。

 つまりは仲直りに成功したっていう事だ。


 驚くことに、ドレス汚しのクラウン様と人見知りのレガシー様が協力して相手の令嬢に話を通してくれていたらしくて、そのお陰でっていう訳だ。

 

 正直言ってビックリした。

 まさかあの二人が助けてくれるとは。

 だってそうだろう?

 片や極度の人見知りで誰かと協力するのだって難しい、片や自分の事で精一杯かつ相手の令嬢が敵対派閥筆頭の娘だ。

 クラウン様が今後もセシリアと仲良くしたいなら、二人が仲良くしても何のメリットも無い筈なのに。


 セシリアも仲直り出来て喜んでるし、彼らともその仲直りした令嬢とも、これから長い付き合いになりそうだ。



 でも、残念ながら良い事ばっかりという訳でもない。

 神様に嫌われているのか、それとも世界がそもそもそういうものなのか。

 良い事の後には揺り戻しがやってくる。


 実は、王城から伯爵家宛に召喚状が届いたんだ。

 セシリアが、それに応じて謁見の間の審議の場に立たされる。

 両親と共に。


 心配なのは、召喚の理由やら、こちらが断れないような工作をしている事やら、今年の社交であったセシリア周りのアレコレの黒幕が分かった事やら。

 そんなアレコレのせいで、一家が怒り爆発してる事だ。


 マルクさんに助けを求めてみたんだが、そのマルクさんも怒ってて、まるで主人を諫める気が無い。

 勿論俺にも止められる気がしない。



 ……もしかしたら、国が揺れる何かが起きるかもしれない。


 俺はこの事について、全てを知る立場には無い。

 だけどそんな片鱗が見え隠れしている。



 運命の謁見日は明日だ。

 当日俺は、ギリギリまでセシリアの近くに居る事を許された。

 せめてなるべくリラックス出来るように、俺も最大限尽力するつもりだ。

 

 おそらくセシリアも、同じように当日ベストを尽くすだろう。

 安心して待っていてくれ。


 ゼルゼンより。


 ――――


「「「「あっ、安心できるかぁーっ!!」」」」


 既にこの手紙の内容を知っていたユンとゼルゼン以外の4人が、声を揃えてそう言った。

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