第2話 言ったら本当にそうなりそうだから




 セシリア・オルトガン。

 彼女はこの伯爵家の末娘であり、俺達の3つ下の――友人だ。


 貴族の娘を一回の使用人見習い風情が『友人』と呼ぶなんて、おこがましく聞こえるだろうか。

 しかしこの関係性は、互いに望み、互いの注意で節度を保って結ばれている関係性だ。

 そして何より『当事者達だけの場所でのみ』という条件付きで、伯爵夫妻から認められているものでもある。



 そういう訳で、俺達にとってセシリアは、ただの仕えるべき相手とは少し違う。


 素のセシリアは、とてもよく知っている。

 だからこそ見えてくるものがあるし、彼女に抱く心配も身内相手のものに近く心配以上に呆れもする。


(落ちそうになったのは、確かにアイツ自身の自覚の問題もあるんだろうけど、多分それだけじゃない。アイツ、運動神経むしろマイナスだからなぁー……)


 ユンが内心でそう呟いたのは、彼女が例え自制していたとしてもその手のトラブルが起きる可能性は大いにあるからである。

 


 王都でのデビューパーティーでは、きらびやかなドレスを着て、高いヒールを履くと聞いた。

 その状態で、馬車の乗り降りや王族との謁見場所まで続く長い階段を登り降りしなければならない、と。


「どうしよう、何かある未来しか見えないんだが」

「むしろ大歓迎だけど」

「まぁお前はな」


 いつもは飄々としているグリムが珍しく声を弾ませたので、俺は思わずそう言い返す。


 グリム。

 コイツは昔、「セシリア様は『面白い』から、近くてみている事にする」と言って使用人になったヤツだ。


 まぁ俺もセシリア起因でこの仕事をすると決めたから、あまり人の事は言えない。

 しかしそれにしたって、何も無い所で何故か転んだり真っ向から大人の貴族相手に渡り合ったりする4歳児を『面白い』と評したんだからちょっと色々歪んでる。


 「パーティーで、何も無いと良いんだけどな……」

 

 そんなユンの呟きは、彼女の運動神経を心配してのものである。


 

 それは願いにも似た呟きだった。

 するとそれに、グリムが何故かニヤリと笑う。


「何も無い? そんな筈、無いでしょう。だって俺が見込んだあの人なんだし」

「おいコラ辞めろ、言ったら本当にそうなりそうだから」

「無駄な悪あがきだと思うけどね」


 耳をふさいで言った俺に、グリムが楽しげに笑う。




 グリムは『面白い事』に、妙に鼻が効くヤツだ。

 だからこの時嫌な予感はそもそもしていた。

 しかしそれを「気のせいだ」と無理矢理片付け、祈りを胸に二週間の日々を過ごした。



 それでも世界は無情だった。


 二通目の手紙を受け取った俺は。

 

「は……はぁぁぁぁぁ?!」


 一人で先に読んんでいて、そんな声を上げてたのだった。


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