第13話 送るか?



 ため息を吐きながら、ユンは肘をついて片手で頭を抱える。


 どうしてアイツは、こう毎回面倒そうな事に巻き込まれてるんだ。

 そもそもアイツ、面倒事は嫌いだった筈だろう?

 そう思っているとアヤが「でもさぁ」と言って口を開く。


「相手、突っぱねたのに追いかけてきてるんでしょ? 何かちょっと嫌な執着心感じちゃうよね」

「やっぱり相手は王子だから、セシリア様も手加減したのかな……」

「突っぱね方が足りなかったって事か?」

「え、うーん、どうだろ……。でもまぁどちらにしろ、セシリア様が嫌いそうなタイプではあるよねぇー」

「まぁ確かにな」


 そこまで話して、一度会話が止まってしまう。

 


 情報が少ないせいで、これ以上は話しようがない。

 それもこれもゼルゼンのせいだ。


 そんな風に思っていると、デントが「ねぇユン」と、おずおずと口を開いた。


「この手紙を読んだらさ、ノルテノ、どうなるかな……?」

「あー……ヤバいな」

「だよね……」


 そう言って、二人して前の手紙朗読時の事を思い出す。


 あの時でさえ可哀想なくらい心配に震えていたノルテノだ、王族を突っぱねた上に執着されてると分かり、その上セシリアに疲れが見えているとくれば、今度こそ心配で倒れてしまうかもしれない。

 少し大げさに聞こえるかもしれないが、そういう事が実際に起きそうなのが良くも悪くもノルテノ・クオリティなのである。

 そして友人の極度な不安を、心配しないユンではない。



 手紙から具体的な『大丈夫感』が全く見えてこない以上、少なくともノルテノ自身が「これで大丈夫」と思えるような対策を講じなければマズい。


 だって倒れて寝込みでもすれば、仕事に支障が出てしまう。

 あの子がそれに負い目を感じないなんて事、絶対にあり得はしないのだから。


 ユンがそう思った所で、ちょうどアヤが口を開く。


「そう言えば、王都への手紙の発送料、調べてみたらたしかに高かったんだけど……『一回だけ』っていう条件なら、割り勘すればちょっと財布が痛いくらいで済みそうだったよ」


 その声に、ユンとデントは互いに顔を見合わせた。

 その顔を見て確信する。

 今このタイミングでこの話題を出してきた彼女の意図、多分互いに理解できている。


「……『セシリア様が最近お疲れだ』っていうのも、ちょっと気になってはいたしねぇ」

「でも一体何贈るんだよ?」


 俺は全然思いつかない。

 早々にそう告げたユンに、デントもアヤも二人して沈黙する。

 提案したり賛同したりはしてみたものの、二人だって別に何か候補があっての発言ではなかったのだろう。


 と、その時だ。


「サイネリアの花が満開なんだけど」

「「「っ! グリム!」」」


 突然声が割り込んできたと思ったら、グリムが俺の向かいの椅子を引く。


 食事の乗ったお盆をその手に持っているから多分、グリムも昼休憩に入ったのだ。


「サイネリアって、セシリアが毎年楽しみにしてるあの?」


 俺がそう尋ねると、グリムは食事を口に運びながら「うん」と言って頷いた。


「俺の温室で今正に満開。あそこは基本薬草園だけど、セシリア様がお茶しに来るから、一角だけあの人が好きな花を植える許可を貰ってる。今年からは残念ながら見に来るのなんて未就業組くらいだけど、花は変わらず咲いてるよ」


 それを聞いて、思い出す。


 ここを二日前に、セシリアが「今年はサイネリアが咲いた所、見れないね……」と、残念そうに言っていた。

 確かに送れば喜ぶだろう。


 が。


「でもさぁ、花を送って王都までちゃんと持つの? 結構掛かるじゃん時間?」

「あー、そうか。それがあった」


 アヤの指摘……というか、素朴な疑問にユンはちょっと落胆する。


 花は生き物だ。

 どうしたって水切れするし、もし水切れしなかったとしても、今満開からあっちに届く頃にはきっと、咲き終わってしまっている。

 何て言ったってここと王都とは片道2週間以上掛かるのだ。



 ユンもアヤも、諦めかけた。

 しかしその時。


「……あ」


 まるで何かを思い出したかのように、デントがそう声を漏らす。


「どうした?」

「いや、あの……前にセシリア様の『遊び』に付き合った時に『花をそのままの姿で保つ処置』っていうのを一緒にやったことがあって……」

「……因みにそれは、どのくらいの間持つんだ?」

「2年前にやったのが俺の部屋に飾ってあるけど、まだ色鮮な状態で保てて――」

「それしか無いっ!」


 デントの言葉にアヤがそう言って立ち上がる。


「い、いや……でもそれやったのって2年前だし、俺達だけで上手く出来るか――」

「それしか無い!!」


 自信なさげに「無理無理」と首を横に振るデントに対して、アヤはとっても押しが強い。


「いやあの」

「じゃぁグリムが昼一でその花を摘んで――」


 その強さに抗えず、結局押し切られる形になってしまったものの、おそらくデントには「まぁ僕一人じゃないし……」という気持ちがあったのだろう。

 だから。


「俺は今日、新しい種の仕入れに行くから時間無いよ」

「えっ」


 そう言ったグリムに、デントは思わずを声を上げた。


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