第12話 大声はギリギリセーフ
俺はコホンと一つ咳払いをした。
特に意味は無い。
ただ単に、二人の熱視線にたじろいた自分の心を落ち着かせ、気を取り直すための咳払いだ。
「……じゃぁ読むか」
「お願いします!」
ユンが言えば、アヤが食いつく。
それに「分かったから」と答えながら、ユンは手紙の封を切った。
――――
ユンへ。
まずは安心しろ。
前回書いた騒動に、決定的な決着がついた。
というのも、侯爵子息――名前をクラウン様って言うんだけど、ソイツがセシリアのお眼鏡に叶ったんだ。
セシリア本人に「何で自分に危害を加えた相手にわざわざ手を差し伸べるのか」って聞いてみたら「自分のためだ」って言ってたけど、多分本心はそうじゃない。
多分垣間見えた「変われる可能性」を無視する事は出来なかったんだろうと思う。
まぁセシリアって、昔からそういうやつだからな。
いくら大人顔負けに社交をこなせていたとしても、結局アイツのそういう甘さは昔から全く変わっていない。
仕方がないからフォローは俺がするしかないよな。
あ。
それと、友人候補との仲も上手いこと進展中だぞ。
最近は特に心を開いてくれてるみたいで、セシリアとよく話してる。
主に鉱物関係の話しかしてないけど、それでもかなりの進歩だよ。
この間は、なんと自分から話をセシリアに振ってたくらいだし。
でさぁセシリア、あの人相手とそれ以外とじゃぁやっぱりちょっと親密度が違う感じ。
少なからず相手の社交苦手を汲んでの事なんだろうけど、それだけじゃ説明できないリラックス感が見えててさ。
おかげで最近の俺の口角は、いつも独りでに上がりそうになってるよ。
まぁあくまでも仕事中だから、頑張ってポーカーフェイス作ってるけど。
でもな、それでもちょっと最近のセシリアはお疲れモードに見えるんだよな。
第二王子からの『お誘い』は一度キッパリ突っぱねたのに、相手さんは何故かまだ向こうから寄ってきてるし、社交場でも噂やら何やらでたまに大人から探りを入れられたりで静かに攻防してるみたいだし、社交の招待状への返信も、毎日結構な数捌かなきゃならないし。
全部上手いこと往なしてるけど、だからといって疲労がゼロっていう訳にもいかないからな、それが溜まってきてる感じ。
特に今まではいつも好きな事に没頭してるようなヤツだったから、何かと忙しくてそれが出来ていない今に、もしかしたらストレス感じてるかもしれない。
貴族としてはそれは仕方がない事なんだろうし、俺自身なるべくフォローしてるけど……。
最近の一番の心配事はそれだけだな。
じゃぁまた手紙書くから。
ゼルゼンより。
――――
「「……」」
二人が無言で頭の中を整理している中、俺は一人こう言った。
「だっ! ……から、何で大切な事がたった一行で終わってるんだ」
思わず出そうになった大声を最初の一文字で自制して、思ったことを吐き出した。
確かに今までのゴタゴタに決着がついたのは、素直に「良かったな」と思う。
セシリアのドレスを汚したやつがこの短期間で許されたのだけは、ちょっと解せないけど。
「まぁ仕方がないよね。許される最短記録は、なんてったってユンなんだしさ」
表情から何を考えてるのかを見事に察したアヤにユンは、思わずグッと顔を顰める。
アヤの言う通りだ。
ユンの許してもらった記録1時間は、今でも残るベストスコアだ。
それがある以上、ユンは何も言えないのである。
だからまぁ、それは良い。
問題は、ペロッとまるで何でも無いように書かれた「第二王子からの『お誘い』は突っぱねた」という部分である。
「友達の順調加減とか、めっちゃどうでもいいし……」
「なんかちょっとゼルゼン、成長する娘を見守る父親みたいになってるよね」
「ふはっ!」
苦笑しながら言われたデント言葉があまりにしっくりき過ぎていて、ユンは思わず吹き出した。
確かに新しくできた友達と上手くやっているのを見ていて口角が緩むとか、少なくとも普通の執事の距離感ではない。
ニコニコしながら年下相手に『いい子いい子』してる図が、思わず目に浮かんでしまう。
実際に昔にはあった光景なだけに、馬鹿にできたものではない。
いや、でも、今も13歳と10歳の組み合わせだから、絵的には別におかしな事にはならないな……って、そうじゃない!
「その『お誘い』っていうのがどんなもんなのかは知らないけどさ、突っぱねるのはヤバいんじゃないのか?」
ユンが恐る恐るそう聞いてみる。
するとアヤにさらりと「まぁ普通に考えてそうだろうね」と肯定された。
否定してくれた方が余程安心だったのだが、アヤは全く優しくない。
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