第21話 小包の正体と添えられた想い
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言いたい事は色々あるけど、一番言いたかったのは「一番大事なアクデント部分をたった一行で終わらせて、セシリア愛ばっかり雄弁語るのはやめろ」って事だ。
お前がセシリアの事を大好きなのはもう分かった。
お腹いっぱいだから、どうかもうちょっと別のところにもフォーカスを当てて書いてくれ。
社交界デビューの時、第2王子と侯爵子息にどんな風に絡まれたのか。
公爵家にまで喧嘩を売ったらしいが、それは大丈夫なのか。
読んだ感じ第二王子はちょっと手強そうだけどどうなのか。
そういう事をもっとちゃんと具体的に書いてくれないと、こっちは却って心配になる。
お前の手紙読む度に、ノルテノがガクガクブルブルしてるんだからな?
こっちはそれを宥めるのに一苦労だぞ。
それとお前、セシリアの事ちゃんと止めろよ。
フォローに回るのがお前の特技なのは分かってる。
でもお前、そもそも止めるのを諦めてるだろ。
セシリアを制御できるのなんてお前くらいだろうがよ。
ちゃんと仕事しろ、仕事!
――――
「セッ、『セシリア愛』とか、そんなのいつ俺が書いたよ?!」
驚いて、ゼルゼンは思わずそう声を上げた。
今まで送った手紙たちは、全て仕事が終わった後に書いている。
仕事後の疲れた頭で書いているし、相手は同期のアイツらだ。
プライベートな手紙という事もあって、仕事モードは完全にオフになっている。
だからもしその『主人愛』のようなものがもしほんの少しだけ文章に漏れ出てしまっていたのだとしたら、それはきっとそのせいだ。
……などという言い訳をしてしまっている時点で、ゼルゼンは何だかんだで彼らに甘えているのだろう。
その事に今初めて気が付いて、ゼルゼンは少しハッとする。
が、気付いたからと言って今後もそれに甘えるのは止めないだろう。
それに、だ。
「細かく書くと手紙一枚じゃぁ絶対に収まらないんだから仕方がない」
そう言って、あちらからの要望についても却下する。
後ろで見ていると良く分かるが、セシリアの置かれている状況はある日突然劇的に変化を遂げたりする。
しかも、一見すると「お前何でそんな事した?!」と思うような事をセシリアがしでかす事によって。
しかしそこには必ず、セシリアなりの理由があるのだ。
そしてその理由が理解できれば、彼女の行動にもちゃんと納得する事ができる。
しかしそれを説明するには、その行動自体だけじゃなくその背景やセシリアが何を大切にしているかという前提知識が必要だ。
前者は一使用人見習いが全く知らないのは当たり前だし、後者に関してはたとえユン達にもある程度理解があるとはいえ、ゼルゼンだって王都でセシリアが社交を始めてから改めて理解し直した事が色々とある。
それらを全て手紙にするとなると、毎回便箋10枚は使う事になるだろう。
送料が無料だとはいえ便箋にだってお金はかかるし、そもそも買いに行く時間が無い。
それに加えて疲労した頭と腕でそんなに書くのはしんどいのだ。
「……まぁ確かに、手紙書くのに手を抜いたのは認めるけどな」
それでもやはりそれによって被った疲労が翌日の仕事に響く事は、絶対に避けねばならない。
つまり、だ。
そこまで手紙に割けるほどの余裕は、残念ながら今のゼルゼンには無いのである。
だからここは勝手に諦めて、さっさと2枚目へと進む。
――――
あ、そうだ。
もらった手紙に「セシリアが大変そうだ」みたいな事を書いてたから、贈り物を同封してる。
サイネリアが見頃だったから、劣化しないようにコーティング作業して花束にした。
何か送ろうって言い出したのはアヤで、花を提案したのはグリム。
アヤとメリアが摘んできて、俺とデントでコーティングした。
で、ノルテノがラッピング作業担当で――って、あぁ今グリムがラッピング資材を選んだな。
これでやっと作業が進みそう。
しかしコレ、俺めっちゃ頑張った。
お陰でせっかくの休みが半日潰れたけどな。
しかもチマチマした作業過ぎて今、体が超バッキバキだし。
その上この手紙まで書かされるしで……やっぱりこれ、ちょっとこき使われすぎだよな?
女共がマジで暴君すぎるんだけど。
と、まぁとりあえず、そういう感じの合作だ。
『初めての社交年で色々と大変だろうから、これを見てちょっと元気出せよ』っていう事だから、折を見てセシリアに渡してやってくれ。
じゃぁな、引き続き仕事頑張れよ。
ユンより。
PS.
ゼルゼン、グリムとノルテノって仲良いと思う?
俺は特にそうは思わないんだけど、アヤが「そうだ」って言うんだよ。
お前は俺側だよな? なっ?
――――
「……何だコレ」
セシリアのためにプレゼントを贈ってくれたのは分かった。
それが多分、このファンシーな包みの正体なのだろう。
色々とみんなで協力してくれた事もありがたい。
ユンの苦労も良く分かった。
その事には心から「ありがとう」と伝えたいが、最後のコレは一体何だ?
そう思いながら、ゼルゼンはPS部分を凝視する。
何で突然こんな話を遠隔地の俺に振ってきたのかは分からないが、まぁちゃんと考えてみるとして、だ。
同期・同僚としての仲の良さを聞いてるんなら、多分それなりに仲は良いだろうと思う。
元々大人しいノルテノだ。
彼女が自分から誰かに話しかける事は稀だが、それでも同期連中が例外らしい事は見ていれば良く分かる。
それは彼女が心を許してくれているからなのだろう。
しかしもしそれが恋愛方面の事を言ってるんなら、果たしてどうなのか。
直接見たわけじゃないし、そもそも見た所で多分ノルテノの方の気持ちは分からないだろう。
が、少なくともグリムの方にその気は無いんじゃないかという事は、見ていなくてもすぐに分かる。
だって。
「アイツ、興味の対象かなり特殊だからなぁ……」
そう呟きつつ、ゼルゼンは不意に時計を確認し「おっと」と席から腰を上げた。
そろそろ行かねばセシリアの食事が終わってしまう。
手紙を懐にしまいながら、あのファンシーな包みにスイと目をやる。
これは、今日にでもアイツに渡そう。
きっと喜ぶに違いない。
しかしその前に、だ。
「もし道中で誰かにガン見されたら時は、絶対に『領地からセシリアへの贈り物だ』って主張しよう、声大きめで」
「ゼルゼンって実はファンシー趣味なんだなぁ」なんて噂が出回った日には、多分職場を逃げ出したくなる。
それでも実際に逃げる事なんて出来はしないので、精々自己防衛はすべきだろう。
ゼルゼンは心の中でそう唱え、うんと頷いたのだった。
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