第5話 問題なのは『やる気になっている』という事
ユンは、正直言って貴族事情には明るくはない。
しかしそれでも、これだけは分かる。
自分より上の爵位の相手に絡まれるのは、決して良いことではない。
それなのに、だ。
(そいつら相手に『やり返す気だ』とか……)
セシリアは、まさかのそこに反抗する気でいるらしい。
侯爵家相手はまぁどうにかなったにしても、王族相手にもだなんてアホなのだろうか。
いや、アイツの頭が俺なんかよりもよっぽど良い事なんて、もちろん知ってる事である。
しかしそれでも、そう思わずにはいられない。
だって相手は、この国の最高権力者なのだから。
「面白そうで俺は嬉しい。流石は俺が見込んだセシリア様」
「お前はちょっと黙ってろ」
グリムをそんな言葉で黙らせて、俺は「ぐぅ」と小さく唸る。
一番の問題はセシリアが『やる気になっている』という事実だった。
セシリアは、「やる」と言えば本当にやる人種である。
それは今まで5年間も友達付き合いをしてきた、ユン自身が痛いほど知っている。
というか、だ。
「何でアイツは一日に二回も上の連中から絡まれてるんだ」
まずそこが疑問でならない。
もしかして、セシリアがその前に何か大事をかましたのだろうか。
しかしそれらしい事は手紙には特に書かれていない。
ならばアレか?
伯爵という地位があると、侯爵家や王族が普通に絡んできたりするのか。
そういうものなのか?
ユンはなけなしの頭でそんな風に考える。
そんな中、アヤが呆れ口調でこう言った。
「っていうかゼルゼン、ほぼ『凄い』と『怖い』しか情報が無いんだけど」
言われてみると確かにそうだ。
こっちの不安を煽る事しか書いてない。
何だよアイツ、手紙書くのヘタクソか。
こっちを安心させる材料が何も書かれていないから、ユンはこんなにも動揺中だ。
ちなみに今ノルテノは不安に顔を暗くしている。
しかし彼女の次の言葉に、ユンは少し納得することになる。
「あのゼルゼンが止める気を無くすなんて、よっぽどの事なんじゃないかな……?」
彼女の言葉にデントも「確かに」と頷いている。
まぁ確かに、俺たちは所詮何も出来ないし、みんなで集まってあれこれ言うだけだから気軽さが少しはあるが、ゼルゼンは当事者側だ。
セシリア付きの執事だから今回の現場にも居合わせたんだし、それはこれからもある事だろう。
彼女の隣で何かを言えば、それが彼女の行動を変えることだってあるかもしれない。
(そういう意味でのプレッシャーも、もしかしたら少しはあるのかも)
そう思った時だった。
「その手紙に書かれれた侯爵子息、家名は本当に『モンテガーノ』で間違いない……?」
メリアがそう聞いてくる。
そう言えば、手紙を読み終えてからずっとメリアは、黙りこくって何かをしきりに考えている様子だった。
そう思いながらユンは手元の手紙をもう一度確認し「うんまぁそうだけど」と答えれば、今度はアヤが「えっ、モンテガーノって……!」と声を上げる。
その「モンテガーノ」とかいう貴族が一体何なのか。
そういえばどっかで聞いたことがあるような気がするけど。
そんな風に思っていると、アヤが「ほら」と教えてくれる。
「モンテガーノ侯爵家って、伯爵家に度々嫌がらせ仕掛けててきてる所だよ。ほら、私達の『お仕事ツアー』時の一波乱、あの時の家」
「えっ、あの?」
「そう、あの」
思わず聞き返せば、アヤが答えてメリアもそれに頷いた。
その瞬間、俺たち一同の顔がものすごい苦くなる。
『お仕事ツアー』時の一波乱。
あれを忘れられる人間は、おそらくこの中には居ない。
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