第11話 夕食にて

訓練校での食事は朝昼晩の1日3食であるが夕食は生徒間で作る事になっており、1年生の分は1年生の担当、2年生の分は2年生の担当となっている。つまり各学年に用意される料理が別であり、尚且つ上級生に頼ることで味の質が落ちたなどの偏りが出ないように区分けされているのだ。


しかし生徒数約4500人、一学年平均1,500人。そんな人数が揃えば毎日交代交代で作る料理はメニューは一緒でも味の質はバラバラになってくる。


そんな1年生の本日の食事当番はパーシー・エドガルドとメイリーン・ディーバス、テツヤ・サクラザカ他の10人である。


「今日は若鳥の蒸し焼き、チーズリゾット、トマトのポタージュか….ヒサカ、君はどれがテツヤの作った料理だと思う?」


俺とアルビーは4人掛けの丸テーブルに座って向かい合う。目の前には本日の夕食があるが、お互いその中の1品を訝しげな表情で見つめる。

どうやらアルビーは手を付け、俺は手を付けていないようだ。


「見れば分かる。そんなの十中八九、この鳥の蒸し焼きだろうな」


「正解のようだ…うっ…生っぽい」


吐き気を催したのかアルビーが若干えずく。


「全くあいつ、今度は蒸し加減を間違ったのかよ」


おおよそ、簡単な料理を他二人から任されたのであろうが、結果はご覧のとおり悲惨な状態だ。


「これで、10回目の当番なわけだけど、成長が全く感じられないね…」


「全くだな、少しは上達しても良い頃だろうに…」


「上達と言えば、ヒサカ。剣の腕は上がったのかい?」


「思い出させないでくれ。2日の間に俺がどれだけしごかれた事か…」


考えるだけでもゾワっと背筋が伸びる。

授業内訓練なんて比じゃない、それくらいの過酷な修行だった。


神楽かぐらの修行は相当なものだったようだね」


「相当なんてものじゃねーよ。俺らには見えてないだけで、きっとあいつの頭には角が生えてるに違いない」


「まぁまぁ。この学校に3人と居ない師範代クラス、それも神童と唄われるあの御劔神楽みつるぎかぐらに教われるなんて、そうあることじゃないんだからさ」


「そうは言ってもあの女…」


「なんだ、私の話でもしているのか?」


スッと背筋の通った長身の黒髪美人が横に見える。


「ひっぃ。し、師匠…」


「あの女、なんだ?続きを言ってみろ」


銀色の瞳でスッと睨み付けられる。


「い、いえ。あの女…あ、あの女の子かわいいなぁーって…」


「ふん。ち○こ野郎め。大方私の悪口でも言おうとしていたのだろう。今すぐ千枚斬りにでもしてやりたいところだが…まぁいい、今回はこれで収めてやろう、食え」


ゴトンと若鳥の蒸し焼き(生焼け)が目の前に置かれる


「いえ、僕もうお腹いっぱいで…」


「食え」


「は、はい…うう」


貴重なたんぱく源とは言っても生っぽくてとても食えたものじゃない


「テツヤのヤツ、食中毒にでもなったら恨むからな…」


「そう言えばアルビー、通知はそっちにも来たか?」


「ああ、あれの事だね。もちろん届いているよ」


「通知?」


「遠征通知の事だよ。入隊して3ヶ月に突入した僕達新入生はギルドの討伐依頼を必ず一ツこなす事になっているんだ」


「そんな通知、俺には届いてないんだが…」


「当たり前だ。遠征通知は現時点での総合成績上位者にのみ最初に行き渡る事になっている。お前は良くて中くらい、届くわけがないだろ」


総合成績というのは《基礎学力》《軍事学全般》《魔法学全般》の三つの科目の成績を評価した結果だ。


つまり、全学年中の上位125人の内に二人は入っているということだ。正直、当たり前と言えば当たり前なので、はなから張り合いたいなどとは思っていないけれど、俺だって努力してきたのにその言いぐさは少し傷つく。


「はい、はい。どうせ平均くらいですよー」


「何をふてくさってるんだ、走り続けてない人間が常に走り続けてきた人間にかなう道理があるわけがないだろ」


「別にふてくさってませんけど、師匠はさぞ出来が良いようで、ようござんしたねぇ」


「まぁまぁ。3ヶ月の成績なんて予め決められたようなものなんだし、裏返して言えば、これからの努力次第で変わっていくものだよ。ね、神楽」


「ああ、そうだ。だから無意にすねる必要はない」


「へいへい。俺も今まで以上に頑張っていきますよ。で、師匠、その遠征がどうかしたんですか?」


「ああ、遠征通知が来たということはつまりリーダー役に選ばれたということなんだ」


「リーダー役?」


「遠征メンバーの指名の事だね。上位125名を除いた新入生、1000名の中から各々で事前に9名を選び、その中に自分を含めて一チームを作る。といった感じだよ」


「ふーん。なるほどー」


「アルビー。ヒサカは貴様に任せるぞ」


「僕はいいけど、ヒサカはいいの?」


「守ってくれそうだし、いいよ」


「はは、打算的だなぁ…」


「それで、神楽はもう誰か決めたかい?」


「私は既に、ミーシャ・グロットとガビル・ディンゼを確保した」


「貴重な回復術師と優秀な参謀役か…なるほど、磐石、というわけだね」


「地固めはな。アルビー、お前の方は順調か?」


「うん。僕の方も斥候を任せれそうな人と、魔術師には話はつけてあるよ」


「魔術師か、埋めに来たな」


「うかうかはしてられないからね」


「お前ら、好きにチームを決めるのは良いけどよ、テツヤとレイはどうするつもりだ?てか、レイはどこ」


「テツヤは特別枠で遠征参加はしない。レイは鳥に当たって便器と対話中」


俺は今一度食べている物を確認する。

鳥の丸焼きだ、低温管理しているとはいえ生物だ…千に一つくらいの確率で当たる事もあるだろう。そうなった場合、便器とお友達にならなければならない。


そっと俺はフォークを皿の縁に乗せた。


「レイはオルテアさんのチームに誘われたみたいだよ」


「オルテアって、あいつか…」


「オルテア?ああ、ヒサカをこっぴどく振ったっていう奴のことだな」


「振られてない!ハンカチが落ちたから取ってやっただけなのにビンタされたんだ!て言うかその噂、他クラスにまで流れてんのかよ…」


「ふん、どうだか。お前の事だからどうせハンカチを拾った後、手の甲に口付けでもしたんだろう」


「それじゃあ完全に変質者じゃねーか!断じて無罪だ」


「ヒサカ、罪は償った方がいい」


「話を聞けっ!!」


そんなこんなで今日は散々な事を言われながらも1日を終えた。

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