第12話 学ぶもの、学ばざる者

これは、俺が御劔神楽みつるぎかぐらと出会う前の話。


その日もいつも通り昼の食堂で俺、アルビー、テツヤの三人は卓を囲み談笑していた。


「な、アルビー。お前って剣術得意で顔聞くじゃん?」


「なんだい、藪から棒に…」


「いやさ、剣の指南役とか紹介して欲しいなって」


「剣術の指南役?」


「そうそう、俺結構剣振るの好きみたいなんだよねー、こう闘争心が滾るっていうか…それに、この先危なくなる事もあるだろう?、だから本格的に学んでてもいいのかなって」


本当は暗殺の為に技術を磨いておきたいだけなのだが、日々、危険が潜む世界では妥当な言い分だろう。


「ずいぶん、乗り気だね」


「まぁな」


「授業の中だけじゃだめなのかい?」


「勿論、ダメなわけじゃないさ、ただもの足りないってだけで」


「僕も…その、お願いしてもいいかな」


テツヤがおずおずと声をあげる。


「珍しいなお前がやる気なんて」


「二人にもう迷惑かけたくないからね…」


虚ろった表情でテツヤは話す


「迷惑?」


「僕が襲われそうになった所を随分助けてくれてるだろ?それにトラック周回でも歩幅を合わせて進んでくれたり…僕が弱いから迷惑をかけっぱなしになってる」


「そんなこと気にしてたのか?バカだな、友達に頼られる事ってのは嬉しい事だし、それに俺達は迷惑なんて思ってないよ」


「うう、そっちが思ってなくても僕が気にするんだ…けど、ありがと」


「はは、かわいいなぁお前は」


「ちょ、頭を撫でるな、バカが移る」


「バカとはなんだ、バカとは、お前より頭は良いんだぞ!」


「ずる賢いだけだろ?学力は僕の方が上だ!」


「まぁまぁ、二人とも、そこまでにして」


「へいへい、で?どうなわけ」


「僕としては、テツヤにはまだ早いと思っている」


「な、なんで」


テツヤが傷付いた表情でアルビーの方を向く。


「テツヤ、君は剣を腕の力だけで振り回そうとしてる傾向がある。もちろん腕力も大事だけど、それだけじゃ剣に振り回されるだけだ。だからテツヤ、君はもっと全身を扱えるようになるべきだ」


「全身?」


「肩から腰、股関節、足に至るまで、使い方を理解するんだ、そうしたら剣の扱い方も自ずと理解できる」


言い分としては正しい。実際、ケヴィン先生の授業でも剣の重みに振り回されて、自重で支える事ができていないようだった。


「わかった、頑張ってみる」


一瞬で話の主旨を呑み込んだテツヤは気合いを入れた表情で頷く。


「次にヒサカ、君には僕の知り合いを紹介しよう、上手く行けば稽古を付けて貰えるかもしれない」


「図々しい事を承知で聞くけど、お前じゃ、ダメなのか?」


「僕はまだ人様に技を教授するほど卓逸していない、その点、彼女なら安心だ。授業後には闘技場にいるはずだし、終わったら早速行ってみようか」


「お、おう」


アルビーがそこまでの信頼と評価を集める人物、一体どんな奴なのだろうか、と興味が沸いてきた俺はその後、案内されるまま地獄の門を叩くことになるのだった。

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