第26話 料理

目の前にはイノシシの肉(まるごと)。盛りだくさんの山菜(雑草、毒キノコ混じり)、調理酒がのさっと置かれている。


調理道具は大型ナイフと鍋四つ、ボウル2個だ。もちろん俺が持ってきた。


「なんか、うん」


あまりにワイルドすぎる気がする。


殺して転がしてはい終わり、で済ましてある、それを俺は丁寧に切り分けなければいけないわけだ。


「よし、やるか」


作業にかかる決意をした俺は大型のナイフでまず革を肉を傷つけないように慎重に剥がすと、肩ロース、ウデ肉、背ロース、バラ肉、ヒレ肉、モモ肉、スネ肉を全て解体する。

次に周りに付いた骨を丁寧に取っていく。


まず、あばら骨を切り離す。腰肉と背骨を背骨と肋骨は軟骨で繋がっているので慎重に刄を入れていく。

それが終わると骨から肉を外す。

背中側にはステゴのような骨があるのでそれも外していく。

続いて背骨の首側も外した。


これで背中側は解体完了だ。


次はあばら骨を外す作業に入っていく。

まず、内膜を外し、内脂を外し、軟骨を外す。


そしてやっとあばら骨の外しに取りかかる。

肋骨全てに切り込みを入れ、軟骨に沿って切り外す。


無事全部外し終わると次は切り分けの工程に移っていく。


まずは胴体から、肩ロース、ロース、前バラ、バラでそれぞれ分けていく。


最初はロース部分、次にバラ部分と順調に分け終わった。


汗を拭い、一呼吸いれる。解体、終了だ。


今日使う部分の肉と一部の骨を除けて、ラップをかけ、冷却バックに入れる。


それが終わると、冷却バックの前に手をかざし唱える。


冷却コールド


冷却バックの中に入った肉が凍っていく。


冷却コールドは空気を冷やす程度の魔法だが、実践的に使わなくても定期的にかければ冷凍庫の変わりくらいの魔法にはなる。


「さて、やるか」


今度は鍋に手をかざす


アクア


鍋に水がたまっていく。


魔法学の授業をろくに受けてこなかった俺だが帰ってから毎日一時間の個人訓練を行う事で単独魔法でも詠唱を使えば、まぁまぁの確率で水を生み出せるようにはなった。


けど、俺の魔法学の成績は壊滅的で赤点ギリギリで成績表に記載されていた事が思い出される。

サボりすぎが効いたのか、才能が無いのかは、もはや両方と言わざる得ない。


全くもって悲しい限りだ。


◇◇◇


グツグツと鍋の煮える音がする。猪肉の血抜きは面倒で一度、塩茹でして、揉みほぐしてから水を捨てる。

この工程を5回は繰り返す事によって血抜きは完了する。本当に面倒な作業だ。


血抜きが終わると次はいよいよ調理にかかる。


先ほど取り除いた骨を鍋に入れ、煮込む。


次に肉を一口サイズに薄く切り分ける。


鍋に酒を入れ、沸かしたら、早速切り分けた肉を入れ、茹でてアクを除く。


それが終わると赤味噌、白味噌、すりおろし生姜を溶かし入れ、次に取りかかる。


山菜を食べれるものと食べれないものに選り分け、食べれる山菜をまずは水洗い。

さらにボウルに張った水で茹でてアクを取る。


それが終わると引き上げて、鍋に入れる。


そしてゆで上がるまで放置。


いい臭いが周りに立ち込めてくると、鍋の蓋をとり、煮込んだ出だし代わりの骨を取る。


「よし、出来た」


そろそろ鍋の臭いに釣られてアイザック辺りが寄ってくるはずだ。


「いい臭い。これ、ヒサカくんが作ったの?美味しそう」


残念。釣られて来たのはエレノアだ。


「スープ飲む?」


「いいの?」


「どうぞ」


鍋のスープをスプーンで掬いエレノアに手渡す。


受け取ったエレノアは前髪を耳にかけ、コクンとスープを飲む。


「あ、美味しい」


「だしょ?めっちゃ、いい感じに出来たと思うんだよね」


「どこで料理とか習うの?現地で料理できる人とかそうそういないよ」


「え、そうなの?」


「うん。大体皆、持ちよりか、焼くかだもん」


「へー。まぁ解体とか手間取るし。実際、持ち寄った方が時短でいいんだけど、俺は味にこだわるタイプだから、多少の手間は気にしないのかな」


「その割にはレイラに食いついてたよね」


「あ、あれは…あの態度が許せなかったというか…その」


「あ、別に怒ってはないよ」


「そう?なら良かった」


「ヒサカくん。エマの事本気なの?」


「な!?いきなり何、もしかして、聞いた?」


「いや、私が見ちゃっただけ」


「あー。見られてたかー。好きだよ。本気で」


「なら良いけど。ヒサカくん、あんまり、いい噂聞かないから気になっちゃって」


「噂?」


「人の彼女奪ったりとか、いっぱいの女の子と寝てるとか…」


「あー。うん。ごめん。その噂、わりと本当」


「だよね。だって私とも寝たんだもんね」


冷や汗が止まらなくなる。


「へ?あ、あれ…あ」


(確か、一回だけ寝た記憶が…)


「思い出した?」


「髪、伸ばした?」


「伸びたの」


「な、なるほど…」


「それで、もう一度聞くけど、エマの事本気なの?」


「本気、本気で好き。だから…もうむやみやたらに求めないよ。好きになってもらいたいから」


「そんな直ぐに変われると思うの?私と同じ人種のくせに」


「同じなら分かるだろ?本気で惚れたらただ慰めあってるだけじゃ、満足出来ないって」


「はぁ…私、結構本気で君の事好きだったのにな…」


「それは嘘だろ」


「何で?」


「だってお前あん時あんまり乱れてなかったし」


「確かに演技してたかもだけど、そう言う君も直ぐに帰っちゃったじゃん。ピロートークくらいのサービスはあって良かったんじゃない?」


「そうだけど…不毛だな、この会話」


「本当にね」


「大体、気づいてたなら言えよな」


「気づいてなさそうだし、それならそれで良いかなって感じだったんだけど、エマに告白してるのを見たときはビビったよ。「あ、こいつまたやってる」って」


「なんだよ、真剣に想いを伝えただけだぞ?」


「わかってるけど、それでも告白してるのが君で相手がエマだったから」


「友達思いなんだな」


「君も、案外ロマンチストなんだね」


「愛は世界を救うんだよ」


「どこのキャッチフレーズ?」


「地球」


「どこよ、それ。ふっ、まぁいいか。とりあえず、これからは仲間として、よろしく壁役タンカーくん」


「ああ、こちらこそ宜しく。魔術師さん」


そうして俺たちは友愛の握手を交わした。

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