第18話 雪が降った

朝、ボーとした頭のまま洗面所に行く。すると鏡に全身アザだらけな自分が写っている事に驚き、目が覚める。


まだ1日目だというのに本格的に死の危険がするのもどうなのかと思い耽りながら、パンを焼く準備をする。


卵を焼き、野菜を刻む。それが済むと、半分に切ったパンに挟む。残りの野菜は器に乗せて終わり。


朝は簡単なもので、サンドウィッチと3種の野菜を適当に刻んだだけのサラダだ。


それらを皿に乗せ、丸テーブルに運ぶ。


ルームメイトの方を向くと二段ベットの二段目で未だ寝ており、勤勉とは言い難い貴族の朝が鑑みれる。


「起きろ、朝だぞ」


「ん、煩いぞ平民。もう少し寝かせろ」


「いや、朝だし、起きろし」


ぼやけた顔でむくりと起き上がる。


以外と素直なもので普段では平民、平民と罵るルームメイトも朝はわりと言うことを聞いてくれる。


と思っていたら、目が覚めるにつれみるみる不機嫌になっていく。その顔を見るのはわりと面白い。


食べ進めるのは遅く、いつも俺の方が早く食べ終わり、ルームメイトの方が食器を片付ける。


担当が別れているだけでも有難いのだが学校までの距離を考えると、もう少し早く起きて欲しいものである。


「用意できた?」


「ああ、もう少し。先に行ってくれててもかまわないぞ」


「お前が迷子になるのは目に見えてるからな、一緒に行く」


ルームメイトの方向感覚はすさまじく、2ヶ月間毎日のように通った道でも余裕で間違える。


その為、校舎前までは一緒に向かう事になっている。


「終わった」


「じゃあ、行くか」


一緒に部屋を出る。二人の間隔はちょっと遠く、友達というほど近くない、しかし二人に取ってみればちょうど良い距離だ。


「馬車は無いのか?」


「あったら使ってる」


「平民が」


口癖のようになってないか?と思うも最初の時ほど刺は感じなく、割と心を許してるのだろう、と思う。


「雪が降ってきたな」


「そうだな」


割と普通より弱いくらいの雪だ、だが確実に制服は濡れてきている。


「傘、持ってきてないよな」


「だ、な」


「戻ろう」


振り返り家に戻ろうとすると、後ろから、つん、と袖を捕まれる


「そこ」


指差す方向は『傘借りれます!』の文字、この学校はとことん準備が良いようだ。


雨宿りがてら屋根の方に急ぐ俺達は足跡の矢倉のような貸し出し所に入る。


「貸し出し、お願いできますか?」


受付には中肉中背の用務員のおっさんが新聞か片手に無愛想に座っている。


「そこに名前と日時」


受付の前には紙と鉛筆が添えられている。その用紙に書けと言うことなのだろう、俺は『ヒサカ・アルドレア、ティム・メリアス、5月23日08時00分』と記入した


「書きました」


「返すのは帰り際、傘はそこにあるの適当に持っていけ」


「ありがとうございます」


礼をいい受付所を後にする。割と早い時間に来たからか後から来た者達が入れ替わりで傘を借りに来ている。この分だと直ぐに無くなりそうだ。


「ほれ」


貸してもらった傘をティムに渡すと、ティムは致し方なくといった感じで受けとる


「行こう」


「ああ」


雪が雨に変わりザーザー降る。俺達は静かに傘をさし、また歩き出す。


雨音は思ったよりも煩くて、思ったよりも心地よかった。

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