第17話 夜
雨のように降り注ぐ鞭に全身を叩かれた事で全身アザだらけだ。
更に上乗せするように、肌に夜中の冷ややかな風が当たり痛みを増してくる。
「いたた」
結局、あの後1時間は走らされ、もうフラフラとなった所でやっと終了の合図がかかった。
その後は水だけ貰い、反省会と表して要点だけ話されると「明日も早いから私は帰る、お前も早く帰れ」と全身傷だらけの弟子を置き去りに師匠はさっさっと帰ってしまわれた。
これが、とりあえず後4日間、俺には耐えられるのか疑問だ。
そんなこんなで帰り道を歩く俺は街灯を頼りに寮への道を進んで居るのだが、何分敷居面積が広すぎる事とプラスして何区画にも別れている為、自分の寮に行き着くのも一苦労になっている。
入隊以前に貰った地図によると男子寮があるのは東側、西側には女子寮、その中間辺りに校舎や闘技場などがあり、寮の数はレンガ建ての3階構造で東側53個、西側55個と、若干不平等さは感じるものの概ね均等ではあった。
それにしても遠く、見渡す限り、辺りには寮しか見えない。
休みなく30分くらい歩き続けて、ようやく自分の寮が見えたので俺はホッと肩を撫で下ろす
階段を上り自分の部屋を見つけると灯りがまだ付いている事に気付く。
(まだ、勉強中か…)
わりと夜中なので、俺はなるべく音を立てずに、そっと玄関を抜け、部屋に入った。
「お帰り」
机の上で眼鏡をかけて書物と向き合うルームメイトの後ろ姿が見える。若干くせ毛の金色の髪と淡い青色のパジャマを纏いながら足を上げ、本を捲る姿はなんともかわいらしい。
「おう、ただいま。読書中?」
表紙に『VRIO』と書かれているから恐らく経済学書だろう。熱心な事だ。
「見たら分かるだろ?」
「そうだな」
ルームメイトは随分機嫌が悪いようだ。といっても訓練生になった日からずっとなのだが
「どこに、なんて事は聞かないんだな?」
「聞いて欲しいのか?」
「いや、別に」
俺は会話を止めるとさっさと寝る準備をする。
水浴びは共有浴場で済まして来たとはいえ、やはり、汗だくになったこともあり、臭いので洗面所でタオルを濡らし、頭を洗う。
バシャー
(やっぱり便利だな)
テツヤの言うとおり、この水道には排水口が無い。非常にコンパクトな設計でカーブを描いて繋がっている形だ。
経済大国の日本でもここまでコンパクトな設計、それも水道代が要らない設計なんて作れないだろう。
一般的に錬金術と言われるやり方を施されているのだが、それにしても技術の進歩が科学とは異なる方向で加速している。
(間違いなく革命的だな)
革新的アイデアに基づく革命は必ずしも人を幸せにするためにもたらされる代物ではない、戦時下、それもこのような要塞とも言える軍事施設まで入り用としている状態だ。
この革命は限りなく確実に兵器運用を見越した副産物といった所だろう。
「はぁ」
頭を洗い終わると、俺は小さく溜め息を付く。
とても面倒な状況に放り込まれたものだと憂うと同時に自分の使命を忘れない為に俺は決意を固める。
(殺す)
その顔は薄暗い影によって閉ざされた。
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