第19話 オルテア・リリース

私、オルテア・リリースの朝は早い。

朝の5時に起床するとルームメイトを起こさぬよう静かに顔を洗い


麗しき金髪をドリル上に巻き、ウェア姿に着替え、家を出る。


走る距離はいつもと同じく校舎までの距離。


ウォーミングアップも済まし、爽快に走っていた所、後ろから見えてくるのが御劔神楽。


これもいつも通り。


同族嫌悪と思われるかもしれないが、私はこの剣士がものすごく嫌いだ。

何事も完璧であることを体現してきた私にとって、強さを体現しているようなこの女は目の上のたんこぶみたいな者なのだ。


「邪魔だ、どけ」


「おお、怖い…邪魔なら抜かせば良いのではなくて?」


「耳、ちゃんと付いてるか?」


「ご心配なさらずとも聴こえてますよ、あなたの方こそ私の話聞こえてまして?」


「はぁ、毎回毎回うざい。少しはルートを変えたらどうだ、リリース」


「気安く名前を呼ばないでください、耳が腐りますわ。大体、なんで私が変えなくてはなりませんの?あなたが変えればいいんでなくて」


「もういい、先に行かせてもらう」


起動を変え、私の左側を抜かしにかかろうとする姿が見える。


すかさず私も速度を上げ、千切ろうと試みる。


しかし、何故か並立つように私達の距離は離れない。


「おい、そんなに私と走りたいのか?」


「あなたこそ、そうじゃありませんの?」


「そんなわけないだろ、走るのなら私の後ろを走れ」


「あら、傲慢ですね。生憎ですが、あなたの後ろを走るほど、私、か弱くありませんの」


「鬱陶しい」


「それはこちらの台詞、ですわ」


反発を起こしながら私達は限界まで上げたギアで走っていく。そんなことをしていると、直ぐに目的地である校舎前まで到達し、私達はこれまた反発するように来た道を戻っていった。


◇◇◇


ランニングを済ました後、私はルームメイトであるレイシェラを起こす。


「レイ、レイ、起きて下さい」


「オルテアちゃん。もう少し眠い…」


首が動く事でゆるっとカールを帯びた青髪が揺れ、ピンク色の口元がぬにゃと揺れる。


「かわっ、じゃありませんわ。起きて下さいまし。朝御飯はもう出来てるんですよ?」


「ん。んー、ん………ん、起きるー」


何とか起き上がりのびーと背筋を伸ばすレイシェラ。その顔はまだ眠そうだ。


「全く、少しは自分で起きて下さいまし。私はママでは」


「分かってるよー。オルテアちゃんはママじゃありません、彼女です」


「わかれば宜しいですわ…ん?今なんて」


「だから、か・の・じょ、でしょ?」


洗面所から戻ってきたレイが耳元で囁いてきた。


「そうですわ、そうです」


「はは、何で二回も言うの?かーわい」


そういいながらいつの間にか丸テーブルに付き、手でトマトをつまみ上げ、口に運ぶレイシェラ


「あ、またはしたない食べ方して、もう少しお行儀良くといつも言って」


「まぁたママになってるよ?リリース」


突然の名前呼びに私は胸を驚かせる。


「そ、そうやって誤魔化そうなんて……もう」


私の頬が少し熱くなる。レイから見たら赤色に火照っている事だろう。


「オルテアちゃん、ちょろい」


「ちょろくありませんわ!全く」


レイの準備ができたのを見計らい、私達は席に付き、モグモグと口を動かす。


「ね、オルテアちゃん」


「なんですの?」


「私がもし、オルテアちゃんと別のチームに入るって言ったらどうする?」


「別のチーム?ああ、ギルド依頼の事ですか。どうもこうも私がどうこう言うことではありませんわ」


「な-んだ。じゃあ、オルドロス君の班に入っちゃお」


「オルトロスですか…狼男は血気盛んで性欲旺盛と聞きますの。そんな所にか弱な女の子一人、どうなることかは想像に固くないですね」


「止めないの?」


「止めて欲しいんですの?」


「別に…」


「はぁ、煮え切らない返事。そういう所がいけませんわ。助けて欲しいならそう言ってはいかがですの」


「もういい。私護身術なら心得てるし」


「あなたが得意なのは愛嬌とあざとさだけでしょ?単純な力で勝てないのに護身術もなにもないでしょうに」


「オルテアちゃんさ。私が襲われる前提で話進めるのやめてくれない?マジ不愉快、別れるよ」


「あなたが素直じゃないのがいけないんでしょ?どうしてそう、わざと気を引くような真似をするんですの」


「オルテアちゃんの本気度合い確かめるのの何が悪いの?ここは何も言わず助ける所でしょ?」


「本気度合いなんてベットの上で何回も示してるでしょ、今更ギャーギャーギャーギャーと、なんなんですの」


「分かるか、オルテアちゃんの薄情者!」


「あなたって人は。じゃあ、今ここで示して見せますわ!ぐちゃぐちゃに犯してあげますの」


「うわぁ。ご飯中になにいってるの?おっさん臭い」


「うるさいですわ、いいから横になりなさい」


「やめろ!この筋肉ドリル」


「筋肉ドリル?何ですか、それ」


「筋肉ムキムキの癖にドリルツインテール垂らしてるから筋肉ドリルだ、バカヤロー」


「バカヤローはあなたの方でしょ?もう、怒りましたわ、本格的にぐずぐずに泣かしてやりますの」


「や、やめろーーー」


◇◇◇


事後


「ぐす、ぐす、犯された。汚された」


「いつまで、そうしてますの?学校遅れますわよ?」


「うるさい。バカヤロー」


「もう、可愛い顔がぐずぐず。ふ、いい気分ですわ」


「ドS!!ドリル!!」


「ドリルは関係ありませんの!」


「うう。本当に助けてくれないの?」


「全く、あなたの事だから、どうせもうオルドロスの申し出を受け入れた後なんでしょ?」


「そ、そうだけど?」


「なら、急ぎませんと」


「ん、どうして?」


「助けてあげますの」


「オルトロスちゃん…」


ときめきながら私の方をみつめるレイシェラ


「私はオルテアですの!!全く、元気じゃありませんの」


「ヘヘヘ」


「まぁ、後から俺の方が先だった、などと言われても困りますから、さっさとお役後免を伝えませんと」


「お役後免??って、まさか、最初から全部しってて…」


「ふふふ、どうでしょうね」


レイシェラの眉が若干寄る。恐らく引いているのだろうが、こればかりは仕方がない、そもそもこの件に関してはレイシェラの方が悪いのだから。


また、その後、オルドロスがあまりにもしつこく抗議をしてきたので、決闘という形でぼおぼこにしてやった。

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