契約と新生活
第1話 異世界転移
そこは町外れの貧民街。行き交う人は安く女を買う男か、炉端で踞った死体くらいだ。
その中には路上でおっぱじめる奴もいて、人目も気にせず涎を垂らしまくる姿は滑稽だ。
ボロ宿の二階ではanan、ananとどこかのティーン雑誌のような声で昼夜問わず騒ぎたてている奴もいる。
茶髪でラフな格好をした若干つり目の俺はそんなモラルも欠片も存在しない街に放り出された訳だが、それが皆目検討もつかない目下の悩みだったりもする。
まぁつまるところお腹がすいて力が出ないわけだ。
「早い所死んで楽になりたい」
そう俺は未来に絶望した若者の叫びを吐露する。しかし人間は以外と頑丈にできてるらしく二三日飲まず食わずでも何とか生きていけるらしい。
いや、実際なにかを食った覚えはあるが出来るだけ思い出したくない、というか早くあの味も感触も忘れたい。
そう、あれはその二三日前よりも少し前の時の話だ。
◇◇◇
夏休みをわりと暇してた俺は涼みがてら中学の頃の友人を久々に誘って、コンビニのベンチでアイスを食べながらダベってた。
「真昼は最近どう?高校生活楽しい?」
ベンチを囲むように座ってる連中は右から純也と土橋と相田で三橋高校に行った俺の中学の同級生だ。
「あー。周り頭いい奴らばっかしで置いていかれないようにするのに手一杯ってーか。正直それも楽しいんだけど」
「へー。何気にずっと首席だった真昼が困ってるなんて意外、なんなら俺が教えてやろうか?」
「お前に何が教えれんだよ」
「そりゃ、保健体育だろ」
「真昼に保健体育教えてもな、もう既に熟練のテクニック身に付けてんだろ」
「それな」
「それにしても、そんな難しいの?東京御堂の授業って」
「いやー、本当に授業だって難しくてさ。物理とかもはや暗号よ」
「物理とか俺らやってねーわ。てか授業聞いてないからそれも知らんけど」
「それなー」
「マジでお前ぐらいだぜ?真面目に進学目指してんの」
「進学は目指してないけどなー」
「え、そうなの?」
「俺施設育ちだし金も無いから、とりあえず軍資金貯めてそれからって感じ」
「あー。選択肢増やす的な?」
「そうそう。それ」
「はは。やっぱり真昼は俺らとは違うわ。心構えとか色々なー」
「このまま行くと会社立ち上げて社長とかでもなんじゃねー」
「それあり。それで俺ら雇ってもらうの」
「バーカ。俺は友達雇うほどお人好しじゃねーの」
「ひでー」
「はは。なぁ、この後どうする?」
「てか、暑くね?」
「それな、海行きてー」
「由比ヶ浜いかねー?」
「お、いいね。ナンパしようぜー」
「汗もかきたいしな」
「水着美女最高ー」
「揉みしだきてー」
「きーはえーな」
その日はその場でそう決めて、電車で由比ヶ浜まで乗っていった。
◇◇◇
由比ヶ浜に着いた俺たちは早速水着に着替え、集まっていた。
「じゃあ、俺は二、三人組の子達狙うから、またな」
「また、個人行動かよ。お前が居ると居ないとでは食い付きが違うんだぜ?」
「ぞろぞろ行っても警戒されるだけだろ?それよか、成功率高い方を俺は選ぶね」
皆、納得したのか仕方なしというように各々でバラけ出す。
「しゃーねー。俺らも別々で狙おうぜ」
「せめてLI◯E交換はしたいよなー」
「それなー」
「じゃあな。ハメ外しすぎるなよー」
「おお。またな」
その日はそのまま友人達とは別れて別行動ということになった。
◇◇◇
俺はレジャーシートに座る二人組の女の子を見つけ早速声をかける。
「おねーさん達。ちょっといい?」
「何?」
「何してんの?」
「何もー」
「俺、4人で来てんだけど。一緒に遊ばない?」
「えー。いい」
「じゃあさ、LI○E交換いい?」
「だめー。どっかいって」
「ごめんねー」
無理とわかったのでさっさと退散し、頭を切り替え、次を探す。
◇◇◇
浜辺で誰かを待ってそうなグラマラスな大学生くらいの女を見つけたので、声をかけてみる。
「おねーさん一人?」
「申し訳ないけど。彼氏と来てるんでーどっか行って貰っていいですか?」
圧を感じ背後を振り替えると長身の巨漢がちらっと見えたので俺は威圧感を感じ、そさくさと退散する。
「すいません。じゃましたー」
◇◇◇
暫く好みの子はいないかと見渡していた所、珍しく一人で日光浴を楽しんでるサングラスをかけた女の子を見つけたので声をかける事にした。
「ちょっといい?」
「なぁ~に」
「可愛い子探してんだけど、おねーさん暇?」
「えー。暇と言えば暇、なのかな」
「大学生?」
「君は高校生だよね?」
「そう。若い子好き?」
「どーかなー。顔が好みだったら好きだけどー…君かっこいいし、わりと好きかも」
「えー、嬉しい。ね、お酒飲める所しってんだけど今から一緒に飲み行かない?」
「えー。行ってもいいけど、ホテルとかなら無理だよ?」
「違う違う。駅前にバーあるじゃん?そこ」
「いいよ。いこ」
◇◇◇
そこから俺は私服に着替えて駅前のバーで藤堂南と名乗る女と酒を飲み交わしていた。
「南さん、めっちゃ酒強いね」
「そう?日下部君が弱いんじゃない?」
「えー、俺より強い人中々いないよ?」
「まぁ高校生にしては飲み過ぎてるよね」
「ね。この後ホテル行かない?」
「ホテル行かないって言ったじゃん」
「ごめん。南さんの事見てたら抱きたくなった」
「ムラムラしてんの?」
「ムラムラしてんの」
「仕方ないな。これっきり会わないってのならいいよ」
「え。ほんと?マジで嬉しい」
「調子よすぎ」
「仕方ないじゃん、南さん美人だし」
◇◇◇
ホテルの許しを貰った俺は南さんを連れて事前に予約を取り付けていたホテルへと向かっていた。
「南さん。少し寄っていい?コンビニ」
「いいよ」
(さてと、コンドーム、コンドームっと)
俺はコンドームを持って行きついでにラークの9㎜を買う。
「ありがとうございましたー」
店員の声を聞きながらウキウキ気分で俺はコンビニの自動ドアをくぐった。
◇◇◇
コンビニの自動ドアを抜けて目の前に広がったのは鉄筋コンクリートの建物ではなく、寂れた木造住街。
俺はここはどこだと周りを見渡し、煙草の火が切れてた事を思い出した。
「コンビニ、戻ろう」
そう振り返り石壁に激突する。
「あれ、この自動ドア石じゃね?」
ヤバい状況に頭がフルスロットルで回転する。
(と、とりあえずビンタでもしてみるか)
ビシッ
「痛い、よな。いやもう一回」
ビシッ
「あれ、ん?どこここ」
ヤバい状況を改めてヤバいと自覚した所で俺は日陰に寄り、一度地べたに座る。
「こんな所あったっけ?てか、南さんどこ?」
可愛かったので抱きたくて誘ってやれると思ってたらこの様だ。
「あれ、もしかしたらここって異世界ってやつじゃね?んなわけ…」
俺はポケットを探るがスマホの存在はない。
「南さん□□□上手そうだったなー」
俺は頭のなかのPCのカーソルを動かし、南の記憶をゴミ箱に持っていき、離す。それが済むと現状分析にかかる。
(とりあえず、歩いて現状把握しないと…)
俺は夏の一時を忘れ、現状打破の為に歩き出した。
道のりを突き進むと夜の街と思われる所に出た。
そこはネオン(そこは提灯)が光る歌舞伎町に良く似ていて、花魁のような格好で障子窓から顔を出す遊女が手を振っていたり、男の腕を掴んだ遊女が笑みを強かに携え、宿へと入っていっていたりしている。
俺はさっきまで居た場所を思い出す。
(踞った死体の数、なりやまない喘ぎ声、寂れた外観。そして夜の街。なるほど、あそこはいわば掃き溜めといった場所だったわけだ)
とりあえず俺はそこらで煙管を吹かす女に声をかける。
「おねーさん、可愛いけど、どこの遊女?」
「ここだけど、おにーさん美男だね。寄ってく?」
「また今度ねー。それよりもお腹空いちゃっててさ、いい店しらない?」
「なんだ、客じゃないのかい。とっとと失せなガキ」
(うわ、口悪)
そのまま会話を切ると道に戻り、また一人また一人と遊女に声をかける。
分かったことと言えば男の遊女?と女の遊女が半々の割合で混在していること、同性に声をかける遊女もいること、治安はいい事、最後に、ここがエクサバトラ王国という長ったらしい名前の国ということだけ。
ちなみに現在居るここは首都クルサイドらしい。
(日本どこだよ、日本)
会話は通じるがこっちが喋ってるのは日本語。試しに簡単な英語で会話してみたが遊女達は首を傾げる一方で理解できていないようだった。
それはイギリス英語独特のイントネーションの違いでは説明がつかなく、おそらく日本語とエクサバトラ語に変換機能がついているか、もしくは日本語がエクサバトラ語という事だけ。可能性として見れば後者の方だろうけど、状況からして前者の可能性も捨てきれない。
俺は考えを巡らしながら夜の街の道を直線に進み、繁華街へと入る。
(賑わってるなー)
飲食店が良く立ち並ぶ景色は夜の街と比べて提供する食事が豊かで、夜の街のように、そういう店が無い事が分かる。また閉じてはいるが、他にも沢山の店があるのが見える。
どうやら、ちょうど夕食の時間のようで外食する客と飲みに出てる客が混在しているようだ。
しばらく観察していると、酒をひととおり飲んだ者の三分の一は男も女もそのまま夜の街へ赴いて行くのが見てとれる。
後はそのまま帰ろうとしない客と家族連れの客、警備員に連行される客だけだ。
俺はそれを見届けると長い道を戻り、貧民街へと帰る。
◇◇◇
元の場所に戻った俺は腰をおろし物思いにふける。
男女平等やLGBTQの概念が久しい日本と、男女平等やLGBTQに対する概念が問題として認知されてなく、至って自然と順応しているエルサルバドル王国。
優劣をつけるならどちらが優れてるかは明白だが、問題にすべきはそんな些細なことではない。
異種族混在、それも耳に毛が生えて、たり、尻にしっぽが付いてたり、頭に角が生えてたり、そんな人類と何かしらのハーフと見える種族が居ることだ。
見ただけでも18種類の耳やしっぽ、角の形や色があり、代表的な所で言えば犬や猫、シカなどのような一般的に哺乳類と言われるような種族の獣人間が居た。
これは大問題だ。ここが異世界であると仮定するのならばこれは確実に裏つけるような証拠なのだから。
(ヤバい、な)
俺は状況を理解すると共にその状況を受け入れたくなくて、疲れを吹き飛ばすようにその場で眠りについた。
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