第7話 整理と整頓
王都エルサレムで一番の安宿の2階にある308と書かれた一室に真昼は居た。その様相は不安げでうつ向いている。
それもそのはず明日から真昼は騎士になることが決まっているからだ。
といっても明日から直ぐに『王剣』の居る王宮に潜入して暗殺を実行に移すわけではない。
俺は昨日のルカとの会話を思い出す。
「『王剣』を殺すにも手順は必要だ。王宮に潜入するのは容易いけど、彼を殺すのは不可能に近い。君の言う通り技術が無ければ返り討ちに遭って終わりだからね。だから暗殺するなら正面きってからが丁度いい。なので君には騎士としての実績と研鑽を積んで挑んで貰おう。つまりだ、直々に『王剣』に会えるだけの実力と役柄を勝ち取った末に漸く計画を実行させるというわけ。どうだい、簡単だろう?」
「どこがだよ…」
「まぁそう気負い込まず気楽にいこう、得意だろ?そういうの」
明るくルカは言うが無論言うほど簡単ではない。というか事前に調べた情報が事実ならそれはもはや不可能に近い。
「お前は…お前はなんで俺にその役目を委ねる」
「君に素養があったからかな?偶々見つけて偶々命乞いをしてきたのが君なんだ。
「つまり俺が命乞いさへしなければこんな目に合うことも無かったってことか?」
「ご名答」
「はは、まぁいいさ。どの道あのままじゃ100%死んでただろうし…それに衣服も寝床も与えてくれたんだ、感謝はしてるよ。代償は重いけどね」
「それは遅かれ早かれ死ぬのなら出来るだけ長く生きて損はしないといった所かな?」
「勝手に殺すなよ。俺はまだ生きてるぞ?それとも今ここで死んでほしいの?」
「死ねないように変えたのは僕だよ?それでも死ぬのなら、せめて『王剣』に伐られてしんでくれ」
「お前が俺に何も期待していない事が分かったよ。ただ、俺は死なないけどね」
「じゃあ、僕は00,1%の成功に僕の命を賭けようか」
「は?お前がそんなバカな事を言い出すなんて、どうかしたのか?」
「ただの示しだよ。君流に言うのならそれが最大限の誠意だから、かな?」
「はは、笑えない冗談だ。OK、いいよ。期待には最大限に答えよう。それが俺の誠意だからな」
「ふふ。君は本当に面白いね」
「お前ほどじゃないよ」
薄く暗い室内に2人の笑い声だけが静かに響いた。
◇◇◇
目を開けて記憶の回想をやめる。
真昼は「はぁ」と長いため息を尽き、ベッドに寝転ぶ。
思い出す会話の片隅にはルカ自身の情報は一切ない。ルカは今までの何気ない会話にも気ほども己の痕跡を残さず、ただ一方的に良いように俺を操った。
それはまるで喜劇で踊るマリオネットのようで俺はそんな事実に目を伏せ少し怯えた。
(まぁいい、やることは変わらないはずだ。背後関係がどうだろうと何者だろうと俺は人を殺す)
一度感情の整理を行い、再び平静に戻す。
手順は大事だ。
明日から俺は日下部真昼ではなく新たな人物として生きていくことになるのだから。
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