第8話 貴族の姿勢
騎士には2種類の騎士が存在する。1つ目は厳格で誇り高い騎士。こちらは貴族の出が多く領地は勿論、位も高い高給取りだ。
次に2つ目は質素で低俗な一般騎士。こちらは一般家庭の出が多く、騎士としては名ばかりで馬も持たぬ者が多数を占めている。
この2つの騎士だが位の低い者は位の高い者に従うというように縦社会になっている。ここで言うヒエラルキーの高い者と言うのは騎士の事で騎士と一般騎士ではそれだけ地位に差があるということだ。
そんな騎士だが皆最初は同じ釜の飯を食うもので。それが徴兵制度、所謂、徴兵令という政府が発令させたお願い事により一定期間兵役を命じられるわけだ。
「はぁ、気が重いっての。こちとら生粋の日本人やぞ。韓国やベトナムやらの常識押し付けてくんなちゅー話やで、ホンマ」
流暢な関西弁で独り言を漏らしつつ、生粋の東京都民である日下部真昼改めヒサカ・アルドレアは騎手訓練校の門をくぐる。
門前から既に相当な数の人が詰めかけており、一同について行くように俺も新入生の集合場所である大型待機所へと急ぐ。
大型待機所の前では、本日の為に集められた憲兵がしっかりと身分検査を行っているようだ。
俺は列に入りその順番を待ちながら館内の様子を見渡す。
柱は無く、上に突出した屋根により吊り上げ式である事が分かる。内はミスリル構造でできていて、壁と床、装飾品も合わせてただの体育館にしては随分と…
「豪華な内装だよね」
後ろの声に振り向くと青目に金髪のイケメンが見える。
「なんか知ってんの?」
(睫毛ナガッ)
「実際に女王陛下に聞いた話によると、汚くなってそれに慣れたらそのままでも良くなってしまうという感覚があるんだけど、高価な物は高価な物で、できるだけ綺麗なままにしときたいという感覚もあるから、そちらの方を利用する為って言ってたかな」
「女王陛下に直接話を聞いたって…君は?」
「どうも、初めまして。僕はアルビー・ハイド。君と同じ今年の訓練生だよ」
「俺はヒサカ・アルドレア。そうか、君があの『美麗』のアルビーか」
アルビー・ハイドと言えば噂に名高い公爵家の次期当主様だ。まさかお目にかかれるとは光栄だな。
「その名はちょっと恥ずかしいな…そこまで剣技に優れてるってわけでもないしね」
「剣が優れてるからだけじゃないと思うけど…まぁ、いいか。握手いい?」
ついでに写真も取りたかったが今はスマホが手元にない。
「いいよ、これから3年間よろしくね。ヒサカ」
握手を交わす手は分厚く、豆が何度も潰れている箇所がある。
(なるほど、ね)
「ああ、よろしく」
『ふざけるな』
こちらの声と被さるように後ろから大きく声が響く
「?」
声の方に目を向けると隣の列の後方で誰かが騒いでいるのが目に入る。どうやらここの職員と揉めているようだ。
「なんでこの僕が下民共の後ろで待たねばならない。一緒に並ぶのさえ不敬だろう」
荒立てる声の主はティム・メリアス。さらりと長い金髪が高潔さを物語っているが、あちらもなかなかの美男だが、こちらと違って随分と傲慢な性格のようだ。
「そう言われましても。規則ですので…メイリス様、ここはどうか寛大にお願いします」
「寛大に?貴様誰にものを言っている。僕はメイリス家の次期当主だぞ。お前ごときが僕に命令するなど…職を失ってもいいのだな」
確かまだメリアス家現当主は存命のはずであり当主の座も未だ正式決定はしていない筈だ。
「…つっ……」
権力を振りかざすその言葉に職員は何も言えず拳を握りしめる。
「ちょっと失礼」
アルビーが場を掻き分け、騒ぎの方向へ向かう。
「ティム、久しぶりだね」
「?おお、アルビー様。お久しゅうございます。入隊式前に、早急にご挨拶に向かうつもりだったのですが、何分下民風情が私に規則などを押し付けてくるものでして…」
「ティム、ここは君の家でも領地でもない。兵役所だ。ならばそこの規則に従うのは当然のことじゃないのかな?」
「え。いや、でもですねアルビー様。私は伯爵家の嫡男。であればどんな所であろうが平民は平民。私に道を譲るべきです」
「ティム、君の考えはよく分かった。そして、私の言い分が正しく伝わってない事もね。
ティム、ここでは皆平等であり君も私もまた然り、一介の下級訓練騎士に過ぎない。であるのなら、ここですべき事は生まれの上下を持ち出して喚き散らす事でも名家の誇りを振りかざす事でもない。そうは思わないかな?」
「そ、その通りです。誠に、申し訳ない…」
ティムはおずおずと頭を下げる。
言っている事が理解できていないわけではないが、今まで培ってきた価値観を曲げる事に若干の抵抗を覚えているのだろう。
「分かったのならそれで良しとしよう。それよりも私だけではなく皆にも謝るべきだ」
「お、お前達。騒がしくした。その…すまない」
ティムが集まった全員の前で頭を下げる
「友人が失礼しました。こちらも重ねて謝罪いたします」
続けて頭を下げるアルビー。どうやら周りはそこまで気にはしてないらしく、騒ぎの事よりも貴族が頭を下げる光景に戸惑いを覚えているようだ。
謝罪が済むと再びティムに向き直り、「じゃあ、また後でね」とティムに言って、アルビーがこちらに戻ってきた。
「ヒサカ。すまなかったね」
「いや、別に。騒ぎにならなくて良かったよ。それよりもお前変わってるな。普通の貴族だったらそこまで平民には寄り添わないと思うぞ」
上に立つ人間は能力の良し悪しに関わらず顕示欲故に傲慢になりやすい。
俺の店にも守銭奴やハゲ狸など様々な人種の人間が来店していたが、どいつもこいつも我が物顔といった感じだった事が思い出される。
「その言葉、よく父上に言われるよ。『お前は民に寄り添いすぎる』ってね」
「まぁ。別に悪いことじゃねーよ。ただ、ま、あんまり嘗められるのも良くはないけどな」
ぷっとアルビーが笑う。
「なんだよ。変なこと言ったか?」
「いや、失敬。確かに嘗められるのも良くない。いやホントに、ふふ」
まだ笑ってるアルビーに俺は眉間に皺を寄せ「むむ」と唸った。
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