第10話 魔法学
魔法学の授業は今回が初回。入隊してから数日間、やったことと言えば、走り込み、水泳、基本座学の往復で脳も肉体も徹底的に鍛え上げられた。
その結果もあってか、しんどい、しんどいと始めは愚痴を漏らしてた生徒達が今はもう沈黙を通り越して余裕が出てきたくらいだ。
そうこう思い出に耽っていると黒を基調とした半袖ジャケットの下に白いシャツ、下も黒のジャケパンといった格好で、黒髪を伸ばした髭面の30代半ばほどの美形が教室に入ってくる。
彼は魔法学の担当教師、ルドイト・トレバー先生だ。
本日が初回という事もあり、チョークで黒板に文字を書き始めた。
「入学マニュアルを見て既に知っているとは思うが私がこの第303期J訓練大隊の魔法学教師のルドイド・トレバーだ。よろしく頼む」
皆の表情の確認を取ると書いた名前を消し、新たに黒板に文字を書き出す。
「では早速ではあるが授業を始めよう。4元素は火、土、水、風だが魔法学という分野にとって特に重要視するのはどこだと思う、Mr.チェン」
「はい、それらの性質をなし得るのは熱・冷・湿・乾であり魔法学において重視すべき発展現象の根幹とも言えます」
「よろしい。ではそのように見せよう」
ほどよく冷えた冷気が手のひらに湿りを与え、やがて水滴が渇き熱が迸る
着火した爆竹のように燃え上がる炎はやがて火花を雷電に変え、冷気が全てを掻き消す。
「このように全ての魔法はワルツのように一つの輪を回っている。法則に従い、知を求め、ダイアルを捻る。これこそが魔法を扱う上で覚えておいてもらいたい手法だ。では、起こす為の種はどこから持ってくる?Mr.アルビー」
「はい。陸、海、空、それぞれに宿る全能の一部、属に言う
「その通り。魔法使いの本文はその
この授業では主に理論を中心に展開していくが、しかし実践も魔法を理解する上でまた重要な事だ、なのでまずは火を起こす事から始めてみよう。
そう言って先生がマッチ棒を取り出し火を付ける
「普段触れている風は実感を掴むのは困難だ。しかし、火ならどうだろう?そうだな、まずは触れてみるのがいい」
そう言って先生が火に指先で触れる
「ふむ。熱い、そして皮膚が焼けて痛い。よし離してみよう」
火に触れていた指が離れる。指にはまだ火が点いており、めらめらと燃えている。
「これで接続が完了した、ならば後は移った火を操作するだけだ、スルリと下に渦を巻くようにゆっくりだ、ゆっくり感じよう。そして最後に」
指にゆっくりと渦巻いた火がそのまま手の平を回り、やがて中心点に着くとボッと火が上空に上がり消える。
「マッチなら各テーブルの上に用意されているはずだ。さ。やってみたまえ」
笑みを浮かべ一連の動作を促す先生だが、俺は指を火で燃やす覚悟は準備していない。それは俺だけじゃなくて皆も同じようだ
隣のアルビーにご教授をお願いしたいと目を向ける
「僕も魔法は得意な方じゃないからあくまでも基礎的な事だけだけ教える。
魔力は触れて身に付けるものだ、かといって痛みに耐えるわけでもない。手足を扱うのと一緒さ、要は同調すればいいんだ」
「同調?」
「ああ。まずはゆっくり火に慣れる必要がある。凍える手を暖炉に翳すようにして周りの熱を感じて」
言われた通りにそうする
「熱さに慣れて来たら手を離して」
そっと添えられた手を離す
「室温との差を感じる?」
「ああ。ひどく寒くなったような。汗ばんだ手が冷やされていくような…」
蝋燭に灯った火がゆらりと揺れる。そこに俺は魅いられたように再び手を伸ばす。
気がつけば掴んでいた火が親元から離れるように俺の手に宿る
幻想的な灯火は常に変化していて触れていないと消えそうな程儚い。
気がつけば熱さが芯に宿ったようなそんな感じがする
「馴染んだね。それが
「食事でもしてる気分だ。それになんだ?大気中の
「あまり吸い込み過ぎるとダメだよ。過ぎた力は毒にもなり得る」
「毒、ね」
お腹が一杯になる感覚と言うよりガスが溜まっていく感じだろうか、早く塞き止めないと内から壊れそうだ
「火に触れる前の感覚を思い出して。栓を絞めるんだ」
思い出すのは簡単だ、俺は元々
やってみると意外に簡単なようでキチンと塞き止められたみたいだ。しかし内に溜まった
皆も一様に驚きや戸惑いを覚えているようだ
「各々、達成できたようだな。それが魔力というものだ。未知の力を己で操っているんだ、高揚や驚きもあろう。しかし、ここに入隊したからには一度出来た事は二度出来ただけではゴミと一緒だ。なればどうするか?Ms.オルテア」
「優雅に華麗に、所作は習慣にすべきでしょう」
「そうだ。習慣付ける事は大事だ。よって次回までに溜まった
そう言い切るとそさくさと教室を出ていく教師を見届けアルビーの方を向く。
「排出ってどうするんだ?」
「さっきの事を思い出せば出来るはずだよ。火を掴んだのは君だろ?」
「なるほど。要領は同じという事か」
「呑み込みが早いね」
早速、集中を促す。火の実感を思いだし、手のひらに集める、そして一気に吐き出す。
一瞬、予想以上の火が浮き出てチャカのように上にあがった
「焦げてない?」
天井に間際まであがった火だが、天井は燃えていないようだ
「建物全体に内側から保護魔法がかかってるからね。滅多な事がない限り傷はつかないよ」
「なるほど」
「課題も達成した事だし。お昼でも食べに行こう」
「そうだな」
そう頷くと俺達は食堂に向かって歩きだした
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