第5話 出会い





国王様の後押しもあり、経鼻胃管栄養法を王女様に施せることになった。




私とマーシュ先生、ダヴィッドさんを含む王宮内の医師と家臣たちで、経鼻経管栄養法チームが立ち上げられた。


私はチームメンバーに必要物品と手技、リスク等を説明していく。


経鼻経管栄養法に必要な物品は経管チューブ(長さ80センチほど)、チューブ挿入時にチューブが入れやすいようにアシストする細い針金、チューブに接続可能な栄養剤を入れるためのパックとチューブ内を洗浄するための白湯を流すシリンジ、鼻から出たチューブを固定するテープ、王女様に注入する栄養剤だ。


栄養剤は今まで用意されていたスープをチューブが詰まらないようにサラサラに改良して貰えればいい。


チューブ、補助針金、シリンジ、パックは、私のメモを元にダヴィッドさんか街の職人さんたちに相談してみるそうだ。


テープは王宮内の医務室に使えそうなものがあったのでそちらを使用することにした。



また、手技やリスクは簡単に説明を行い、試作品が出来たらまた細かく説明していくことにする。



「……巫女様は本当に色々知ってらっしゃるお方ですね」


「前の世界での仕事に必要な知識なので、同じ職種の人間なら皆知っていることですよ。

あと、ダヴィッドさん。

私は魔法も使えないですし巫女ではありません。

スミレとお呼び下さい」


「例え魔法が使えなくても、王女様の為に色々な知識を提供してくださっている時点で私からしたらもう巫女様です。

しかしそう仰るならスミレ様とお呼びさせて頂きますね」


「はい、是非」


ダヴィッドさんは優しい。

王女様の魔術の先生をしていたと聞いたが、きっと仲が良かったのだろう。


聖女を召喚したり巫女を召喚したり……。

本当に王女様を救いたいのが伝わってくる。


いきなり召喚されたのには驚いたが、前の世界に未練のない私にはむしろ良かったのかもしれない。







「では皆さん。もう時間も遅い事ですし今日はこの辺りにしましょうか」


話し合いを十分に重ね、物品の確保の為の段取りは決まった。


後は物品を揃え、健康な大人の体を借りて何度か試してから王女様に行うだけだが、私が来てから3日しか経過していないのに王女様が日に日に衰弱していくのが目に見えて分かる。


マーシュ先生のいうように、治癒魔法では体力や枯渇した栄養素を補うことは出来ないことが明らかであった。


早く栄養を身体に入れてあげたい。











……少し疲れたな。


ただ看護師として保有している知識を説明しているだけだが、王女様だからという訳ではなく人の命を背負っているので行き違いや勘違いがないように、何度も慎重に説明をした。


マーシュ先生や宮廷医師も根拠を認めてくれているし、大丈夫だとは思うけどやはり不安はある。


自分のせいで王女様に何かあったら……と。




いやいや。

ここまで話が進んだらもう戻れないし、自分が言い出したことなんだ。きちんと責任を持たないと。





色々考えていると、王宮内の見知らぬ場所に出てしまった。


見知らぬ場所と言っても王宮内の廊下なのだが、魔法でライトアップしてある庭園が隣接しており、何だかとても幻想的で美しい。


部屋と王女様の寝室、お風呂の往復しかしていないからこんな場所があるなんて知らなかった。



少しリフレッシュの為に散歩をしてみることにした。







──夜の庭園は魔法によって淡い水色の光でライトアップされており、昼間とは全く違う顔を見せている。


花の名前は分からないが、元の世界のどこかで見たことある多種多様な花が植えてある。



「綺麗……」



思わず独り言が出た。

こんなに花に囲まれたことが、大人になってからあっただろうか。


今も疲れているが、違った疲れだ。

何を見ても綺麗とは思えず、無だった。

日本にいる時は本当に疲れていたと思う。





美しい庭園の花に魅せられ、暫く歩いていると、白いベンチを見つけた。


少し歩いたし座ろうか……と思った時、

足元に紫色のすみれの花を見つけた。


思わずしゃがみこんで花を見つめてしまう。





「紫のすみれの花言葉は誠実……」



顔も知らない親はなんて名前をつけてくれたんだろうか。


誠実。真面目に、誠実に患者さんと向き合ってきた私にとって呪いでしかない言葉だ。


嫌で向き合って来た訳ではなく、患者さんのためにと思い頑張ってきた。


モンスター新人も患者さんに何かあってはいけないと思い一生懸命指導をしたが響かなかった。


響かない指導、患者さんへの気持ちを同期に吐き出してみれば、『真面目すぎるんだよ』の一言で済まされてしまった。



誠実、真面目。

一件、聞こえのいい言葉のように聞こえるが私には皮肉にしか聞こえなかった。




「私は真面目すぎるからいけないんですよーだ……」




「──真面目なのは悪いことなのか?」






独り言に被せるように、

後ろから誰かに声をかけられた。


突然の出来事に頭が真っ白になる。


独り言を聞かれた?

というかこんな時間に誰?

不審者?いやでも王宮内だしな……



など、色々な考えが頭の中をグルグルと回っていたが、とりあえず誰か確認しようと思い、


後ろを振り返るとそこには、








とてもとても美しい青年が立っていた。

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