第35話 魔法の先生(1)




「──氷の騎士様と恋人になったの?!?!?!?!?」



翌朝、出勤と共にソフィアさんにレイと恋人同士になった旨を伝えると予想通りの反応が帰ってきた。


ソフィアさんの事だから自身の驚きを自信の持てる限りの最大限の表現で表すと思っていたので、患者さんの診療が始まる朝イチに報告することにしたのは正解だった。


「そっ、ソフィアさん!!小声でお願いします……!」

「スミレ、おめでとう!! 夢かと思って頬を抓って返事どうしようって困ってたわよね!!!あ、あと何で小声?」

「彼は隠すつもりは無さそうですが身分としては貴族ですし、こんな一般市民と恋人だなんて彼や周囲の方が気にしなくても私が気になります……!」


ソフィアさんも私がレイと恋人関係である事を隠す理由が理解出来ないといった反応をする。私が気にしすぎなのかもしれないが、身分差のせいで何かレイに迷惑をかけることがあったらと考えると少し不安だ。



「……ふむ。スミレ様はアルジェルド様と恋人になられたのですね。やりますね、あの氷の騎士様ですからね、アルジェルド様は……」


2階から白衣をまとい、ゆっくりと降りてくるのはマーシュ先生だ。彼はソフィアさんと私の話を聞いていたらしく、驚くというよりは大変興味深そうな顔をしている。


「いやー!本当よね!! さすがウチの可愛いスミレだわ!! 氷の騎士様は数々の名門貴族令嬢からの求婚を断りに断り続け、ルー=サブマ=シャルム様とは別の意味で生涯独身だと言われていたらしいからね!!」

「昨日、商店街に氷の騎士様が女性と昼食の買い出しに来ていたという噂話がありましたが、その女性とはスミレ様のことだったのですね……。おめでとうございます。もうスミレ様の人生は確実に安泰でございます。アルジェルド家はシャルム王国でも有数の侯爵家で国王からの信頼も厚い。寂しいですが、ウチで働く必要も無くなるでしょう」

「──いやいや、ちょっと待ってください!! 私は彼と恋人になっただけで結婚だなんて話は出でませんし、仕事は辞めるつもりはありません!!」


この国の人はせっかちな訳ではないんだけど、気が早い。結婚の「け」の字も出てない、付き合いたてホヤホヤカップルです私たちは。


それに私は結婚したとしてもナースとして働き続けたい。日頃の診療で患者さんを治癒するのはやりがいがあるし、今後王女様のように治癒魔法だけでは完治できない疾患で苦しむ人がいるかもしれない。そんなとき、現代医療の知識を活かして救える命があるかもしれないと思うと、私がするべき事は沢山ある。


「ふふ。冗談です」

「えっ………。わ、分かりづらかったです」


マーシュ先生は、本気だったのか冗談だったのか分からないトーンで話す。マーシュ先生が言うと何でも真面目に話しているように見えるな、凄い。


「……で、先生はそんなことスミレに聞いておいてどーなんですか? ハーフエルフで長く生きてるから、もう少し若い頃は色々ヤンチャしてたりして……」

「……ソフィア、そこは想像にお任せしますよ」


ソフィアさんの質問をサラリとかわし、ニコッと柔らかく笑うマーシュ先生だったが、普段なら何でも疑問に答えてくれるのに隠す当たり、何か若い頃はヤンチャしていそうだな……と私は思った。




***





「──スミレ様。アルジェルド様のご命令でお迎えに上がりました。王宮へ向かいましょう」



レイと自宅アパートにて今後について話し合ってから3日後の早朝。


第3騎士団から使いの騎士の方が私を迎えに来た。


私の元からの休みの日とプラスでお休みを頂いて今日から王宮での魔法の訓練が開始されることになった。


また、それと同時進行で以前話に上がった王宮魔術師と第3騎士団による私の治癒魔法ヒーラの効力が高すぎる件についても調査をしてくれるらしい。


ソフィアさんとマーシュ先生にアンナさんを瑠璃色の丘へ連れて行く計画を話した所、診療所はいいから王宮で魔法の訓練をして来て欲しいと言ってくれた。




──因みに、中級魔法の取得については、案外あっさりと取得することが出来た。


ソフィアさんに教えて欲しいとお願いしたところ、「じゃあ詠唱してみて!!スミレは魔力を込めすぎるくらいだから、足りないかなっていうぐらいで丁度いいはずよ!」との事で早速詠唱してみた。



『──聖なる光よ、深く傷ついた弱き者に清き癒しと再び立ち上がる力を与えたまえ。 光聖の治癒ヒーリング



詠唱した途端、いつも感じる身体の熱さを覚えたが光の治癒ヒーラと比較すると尋常じゃなく熱い。


熱すぎるぐらいの魔力を両手に集め、ソフィアさんの身体へと向け魔法を発動した。



「……凄い。とてつもなく身体が軽いわ。この感じ、中級じゃないわ、上級治癒魔法を受けたぐらいの感覚よ」

「そんなに魔力を込めたつもりは無かったのですが……」

「やはりスミレ様の巫女としての魔力に関係があるのかもしれません。魔法の練習もかねて早めに調べてもらったほうがいいでしょう。スミレ様の魔法の効力が異常だと噂が広まった場合には貴女の特異な力を欲しがる者も現れかねませんので、今後の魔法との付き合い方も変わってくるでしょう」


私が中級治癒魔法を詠唱する様子を見ていたマーシュ先生も驚きを隠せないようだ。


最近は初級治癒魔法を仕事でどんどん使っているお陰か魔力のコントロールも出来てきた気がするし、詠唱した時だって魔力の量はソフィアに言われた量よりかなり少なめに使ったつもりだったが、私の治癒魔法の効力は異常な様だ。もうこれは魔法のレベルに対しての使用魔力量が多いだとかそういうレベルの問題ではないと私も自身感じ始めている。


私の力を巡って争いが起きるだなんて事は起きないだろうけど、マーシュ先生の言う通り、無闇に人前でこの力は披露しない方がいいのかもしれない。

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