第23話 練習






「おはようございます!」

「おお!おはようスミレ!!!!」



初日を終えて翌日の早朝。

休診日ではあるがソフィアさんが、文字と魔法を教えてくれるとのことで出勤した。


確かにあんなに多忙な中、ソフィアさんはどうやって私に魔法や文字を教えるのだろう?と思っていたが、まさか休みを削って来てくれるなんて思いもしなかった。


「ソフィアさん。本日はお休みですよね?いいんですか……?」

「大丈夫!そんなこと気にしなくていいのよ!!!!むしろ私が教えたいし……。それに、ちょっとズルいけどたんまーーーーり先生からはお給料もらうから!!!因みにスミレもお給料でるってさ!!」


親指と人差し指で円を作ってニコッとするソフィアさん。今日はあくまで出勤という形になっているそうだった。ありがたい。


しかし仕事ではないオフスタイルのソフィアさんも素敵だ。トップスはフリルの着いた可愛らしすぎない黒のノースリーブで、あまりこの国の女性では見かけないパンツスタイルだ。ピタッとした白のストレートパンツがスラッと伸びた長い足を強調させて美しい。前の世界に居たら確実に引っ張りだこのモデルになっていたに違いない。



「じゃあまずは、文字から始めようか!」


ベットがある部屋に机と椅子を並べてくれるソフィアさん。


魔法の練習は魔力切れで気分不快を引き起こす可能性があるため、まずは文字の勉強から始めることになった。


「これ、マーシュ先生が王宮から取り寄せてくれたから使ってみようか!」


ソフィアさんから差し出されたのはA4サイズ位の分厚い本で、表紙には『はじめてのことば』と記載してある。


言語について現在における私の状況は、話し言葉は理解できるしこちらが話していることとを理解してもらうこともできる。文字の読み書きに関しては、文字を見てもその文の意味はわからないのに意味が何故か理解出来るが、書くことは出来ない。という感じだ。


文字が読めて意味が理解出来る状況なので習得は意外と早くできるかもしれない。


「スミレは文字を読むことはできるんだっけ!」

「はい、何故か理解は出来ます。書くことが出来ないです」

「そかそか!そしたらこの本をさらっと見た感じ、基本文字の表が付いてるし文法や簡単な例文ものってるからまずは基本文字の練習からしようか!」



基本文字とは、日本で言う五十音、英語圏で言うアルファベットのようなものであった。


いざ紙に書いてみるとなると、日本語にも英語にも似ていない特殊な文字の形に困惑するがこれは慣れるしかないだろう。


この『はじめてのことば』は児童用であるのか、可愛いイラスト付きでとても分かりやすい。内容もしっかりしていて、基本文字を練習して習得したら次は簡単な文法から学べるように設計されている。


そして私はある事に気がつく。

言語を書く練習はこれさえあれば、わざわざここに来なくても家で出来るのではないか………?


ソフィアさんの時間を割いて、ただ1人黙々と文字を書く必要はあるのか……?


そうなるとさすがに申し訳なさすぎるのでお伝えする。


「……ソフィアさん。思ったんですが、基本文字の練習だけならお家でも出来ますので時間を割いて頂かなくてもいいかもしれません」

「……まって。たしかにそうね!!そしたら、基本文字覚えるまでは無理のない範囲で自宅学習にしてもらって、今日は魔法の練習する???」

「分からないところだけ、お時間がある時に確認したいです。そして、ソフィアさんの時間を頂いてるので、そちらでお願いしたいです」


折角計画を立ててくれたのに申し訳ないが、家で出来ることを今ここでやる必要はないし、魔法の練習に移ることにした。



「まず、スミレの場合は魔力の調整から知った方がいいわね!」


……魔力の調整か。

昨日初めて詠唱した時は魔力の調節もなにも考えずに闇雲だった。


「まず、詠唱したときに体が暖かくなる感覚があったとおもうんだけどそれは分かった?」

「はい。全身が一気に熱くなりました」

「その熱かったり暖かかったりするのが魔力!詠唱によって活性化することで暖かくなるの。それをただ手に集めて詠唱するだけでは魔力は放出しすぎてしまっているわ。

だから、詠唱するときは……そうね、初級治癒魔法であれば握りこぶしひとつ分ぐらいの光の玉を作るイメージで魔力を込めるといいかもしれないわね!!」


握りこぶし1個分の魔力を手に集めるイメージで……か。しかし試しに詠唱してたまたま使えたとはいえ、倒れる危険性があるならば魔力の調節方法をマーシュ先生に最初に教えて欲しかったな……。


「わかりました。やってみます!!」

「そしたら倒れてもケガしないように、ベットの上に座ってやってみよう!!」



さっそくベットに腰をかけて魔法を詠唱してみる。


目を閉じて自分の胸に両手を当てる。


『──聖なる光よ、傷つき者に

清き癒しを与えたまえ。光の治癒ヒーラ


詠唱した瞬間、昨日のように身体の中でなにか熱いものが巡っていくのが分かる。


昨日は無意識下に全身を対象にしてしまっていた様なので、手のひらに握りこぶし1個分の大きさの光が集まるようにイメージする。


手のひらに………手のひらへ魔力を………。


両手が熱くなっていく。

目を開くと両手にサッカーボールぐらいの大きさの白い光が現れており、ゆっくりと自分の身体の中へ溶け込んでいくのが見え、それと同時に身体が軽くなるのを感じた。



「スミレ!!!いいかんじよ!!!

少し大きかったけど、2回目にしては上手だと思うわ!!!センスあるわね!!!」


大きく私の肩を揺すりながら喜ぶソフィアさん。


「そんな風に言って貰えると嬉しいです。それと、魔法の効果なのか身体がとても軽くなったように感じます」

「成功してる証拠だわ!!肩こりや筋肉痛が取れたのよ!!!あとは治癒したいところピンポイントだけの疲れが取れるようになれば完璧ね!」


王宮を出てから何もしていないし、肩こりや筋肉痛の自覚も無かったが、私も今年で26になったし、日々加齢していくということなのだろうか……。


「この調子でどんどん練習していくわよ!!!握りこぶしぐらいに出来るようになるのが今日の目標にするわ!!!気分が悪くなったら直ぐに中止するから無理せず言うのよ!!」

「はい!!頑張ります!!」






『聖なる光よ、傷つき者に清き癒しを与えたまえ。光の治癒ヒーラ




優しく両手から光が現れ、大きさは握りこぶし1個分。



「スミレ!!頑張ったわね!!凄いわよ!!」



──出来た。

昼過ぎから練習を初めて、現在は夕刻。

私は光の大きさを縮ませることに成功した。


「気分悪くなったりしてない??」

「ええ、大丈夫そうです。倒れないために少し余力を残したとしても、あと2、3回はできる気がします」


本日の詠唱回数は休憩を挟みながらではあるが、10回程度。また気を失う可能性もあるので、ソフィアさんが1回詠唱するごとに体調の確認をしてくれていた。


……なんとなく。

なんとなくではあるけど、練習を重ねていくうちに自身の魔力残量が分かるようになって来た。


今日のところは、今の魔力消費量であれば後2、3回で限界が来る気がする。



「……そうね。そしたら最後に私にかけてみてくれない?」

「ソフィアさんに?いいんですか?」

「全然いいわよ!!実際に人に魔法をかけるとなると少し勝手が違うのよ!!だから、あと1回だけ私にかけてみてくれるかしら!!」


自分に治癒魔法をかける際は、光の大きさを意識して作った光を自分に吸い込ませるイメージで行っていた。


他者となると確かにイメージが湧きにくい。染み込ませるように……かな?


「人に治癒魔法をかけるときはね、作った光を他人の中に巡らせるイメージを持つの。だけど、それだけだと魔力の消費が大きくて最悪昨日のスミレみたいに意識を失うこともあるのよ!!だから、小さく凝縮した魔力をピンポイントに患者さんの主訴へ送り込むイメージになるわね!」


……染み込ませるのはちょっとニュアンスが違ったようだ。


「では、やってみて!!そしたら私の首の付け根にお願いしようかな!!」


ベットに座っているので目の前にソフィアさんがしゃがみこんでうなじを指さす。


「やってみます!」



───


─────


──────……







「──スミレ。大丈夫?」

「……ソフィアさん?──っわ!!」


重たい体をゆっくりと起こした瞬間、

がばっとソフィアさんが私に抱きついた。



「私が付いていて、指導しながらなのにごめんなさい!!またスミレ、魔力切れで気を失ったの!!あと1度なら大丈夫と思った私の判断ミスよ。……本当にごめんなさい」


とても申し訳なさそうな顔で謝るソフィアさん。どうやら私はまた魔力切れで気を失ったらしい。


「しかし、まだ余力が残っていると個人的にも感じていたし、無理をしたつもりは無かったのですが……」

「……多分だけど、送り込む時に凄い沢山の魔力が勢いよく送られてくるのを感じたわ。沢山送りすぎちゃったのかも。首が少し痛かったんだけど、首だけじゃなくて全身が軽いわ」


沢山送り込むつもりは全く無かったのだが、また無駄に多く消費してしまったようだ。


「これ、訓練で治りますかね……」

「自分を治癒するのは練習で改善できてるし、なんとかなると思う。ただ、患者さんに行えるかっていうと目の前で倒れても大変だし、訓練を重ねてからになるわね」


無駄に魔力を使いすぎてしまう自分の不器用さに少し悲しくなる。訓練でなんとかなるこであれば、頑張るしかないのだけれど。


「スミレ。お詫びに全身癒すわね!」

「え、いいんですか?」

「あたりまえよ!!気を失ったりしなくても最後にかけるつもりだったの!!他人から流れてくる魔力も感じてみてほしいのよ!!」




ソフィアさんが全身に治癒魔法をかけてくれて、本日の練習は終了したのだった。


ソフィアさんの治癒魔法の光は全身を優しく包み込み、ゆっくりと体に染み渡って行くのがわかった。


自分の魔法と比較してみると、確かに一気に魔力を送り込んでしまっていた気がする。


……ゆっくりと丁寧に送り込むイメージなのかな?明日も倒れないように気をつけながらソフィアさんで練習させてもらおう。

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