第28話 帰還(2)
***
「──えっ、王宮を出たのか?」
約束の時刻になり、王宮の庭園の白いベンチでレイと落ち合う。
彼には王女様の体調が良くなってからのことや、王宮を出て今は街で暮らしていること、診療所でナースとして働いていることを話した。
「……ということは街からわざわざここまで来てくれたのか。てっきり王宮に住んでいるものと思っていた。すまなかった。」
「凄い近い距離だし謝らないで。私も久しぶりにここに来たかったし来れてよかった」
「……そうか。それなら助かる」
……今日のレイはなんだかいつもと雰囲気が違う気がする。
お風呂上がりなのか、ラフな服装に少し水分の残る髪がなんだか色っぽい。
でもそれは見た目の話ではなく、いつもより話が続かないというか、なんだか2人きりでいる事が落ち着かないというか……。
「──あっ、それとね私、治癒魔法使えるようになったんだよ!」
このままだと間が持たない気がして、話を振る。
「凄いじゃないか。治癒魔法は少しでも聖属性魔法の適性がないと使えない。今度俺にもかけてくれないか」
「もちろんだよ。でも、魔法が必要になる怪我はしないで欲しいけどね」
「………もちろんだ」
「お、お願いだよ……?」
……が。やはり会話が途切れる。
以前ならこんなことはなかったのに。
どうしよう、次はなんの話をしよう、
だなんて思っているとレイが口を開いた。
「……その。昼間のことだが」
「ひっ、……ひるま??」
昼間といえば多分あれだ。
突然抱きしめられたことについて、触れないようにしていたがレイから切り出してきた。
「そ、その。なんていうか、スミレを見たら体が勝手に動いて、だな。……突然すまなかった」
……レイは顔を真っ赤にしている。
そんな彼に私まで顔に熱がいく。
「人前だし嫌だったろう。俺も後になって後悔した。スミレに恥をかかせたかもしれない。……都合がいいかもしれないが許してほしい」
「あ、あの。レイ」
別に私は嫌ではなかった。突然だし驚いたのは事実だけれど。
「……嫌では……ありません……でした」
あの時の正直な自分の気持ちを伝える。
そしてレイと出会ってから感じた気持ちは、正直に言うとあれは恋心だ。
頑張って自分には釣り合わない、レイが自分のことを恋愛対象として見ているはずが無いと言い聞かせてきた。
が、今回のことは流石に私の事を異性として想ってくれているのではと思えてしまう。
……今、この流れでその気持ちを伝えてもいいのかな?
でも、もし違ったら?
レイといままでの関係には戻れなくなる。
それはとても辛い。
……でも、今なら言える気がする。
「れ、レイ。私は──」
「──スミレ。話を
……レイが話を遮るなんて珍しい。
こちらを真剣に見つめる淡いライトブルーの瞳は庭園の灯りに照らされてキラキラと反射してとても綺麗で。
お風呂上がりなのか、少し湿った白金の髪は夜風に揺られて艶やかだ。
少しの間を置いて、レイは口を開く。
「……俺はスミレが好きだ」
……ん?
……これは夢か?
最近魔法の練習を沢山していたし、疲れていたもんね?
お風呂を済ませてからこちらへ向かったつもりだったけどベッドの上で寝落ちした?
「……俺の恋人になってほしい」
真剣な顔でこちらを見つめるレイ。
「……」
ああ。夢だこれは。
レイが私に恋人になってほしいだなんて言うわけが無い。貴族様と得体の知れぬ巫女が恋人になれるなんて可笑しいもの。
「……スミレ?」
思い切り頬を
「───ッたぁ!?」
……痛い。
転移時にも感じたリアルな痛み。
「……なっ、何してるんだ!?大丈夫か?頬が赤いぞ」
「あの……レイ、これは夢だよね?」
「な、なにを言っている??……夢なわけ──」
ははは、と大きく笑うレイ。
「スミレは面白いな。夢ということにしておくか?」
「む、何するんですか!」
抓った方の反対側の頬をレイに優しく摘まれる。
「……因みにさっきのは本気だからな。返事はいつでもいいから」
「えっ、レイ?」
「もう遅いし、今日は王宮に泊まるといい。第1騎士団の来客用の部屋を使ってくれ。奥の部屋にはベッドもある」
ああ。私はやってしまった。
「まって、あの、私……」
「ゆっくりでいい。急がせたくないんだ。
それと今日は突然すまなかった。暫くは第1騎士団の遠征もないだろうし王宮にいるから、街へも顔を出すよ」
レイは私が話す隙を与えてくれなかった。
そして彼に手を引かれるまま、来客室へと連れていかれ本日は解散したのだった。
「──最低だ私」
レイの真剣な告白を現実だと信じることが出来ずに受け止めることが出来なかった。
レイが私を好き。恋人になってほしいだなんて……。
今すぐにでも返事をしにいきたい。
私だってレイのことが大好きなんだから。
時間が経ち気持ちが落ち着くほどに突飛な行動を取ってしまった自分にイライラする。
レイの表情はとても真剣だった。
いつも落ち着いていて、何枚も上手な雰囲気のある彼がとても緊張しているのが伝わった。そんな中、現実か分からず頬を抓るという水を差す行為。
……彼に嫌われてしまったかもしれない。
その夜は罪悪感と自分への嫌悪感で一睡も出来なかった。
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