第12話 デート?




──レイとの約束から3日後、ダヴィッドさんやマーシュ先生へ1日休みを頂きたい旨を伝えると、すんなりと承諾があり街でのデート……ではなくお出かけが実現することとなった。



昼前から出かけるので朝のバイタルサイン測定をしに王女様の元へと向かった際に、


「ところで、本日は何方どなたと街へ行かれるのですか?」


と、マーシュ先生はニヤニヤしながら聞いてきた。


すかさず友人ですと答えたが、


「へぇ、そうなんですねぇ……」


マーシュ先生は物凄い笑顔でこちらを見ており、相手が異性であることはバレてしまっているようだ。


マーシュ先生にニヤニヤされるのは置いといて、王女様の容態も安定しているし、なんならマーシュ先生が王女様へ1日付き添ってくれるとのことなので、これなら街へお出かけしても罪悪感はない。





「……少し早くついたけど、昼も昼でここは綺麗だなぁ」


レイは王宮に兵舎があることや、私は街どころか王宮内での土地勘も曖昧である為、庭園のいつものベンチで昼前に集合することになった。


この庭園へは夜しか来たことは無かったが、昼に来ても良く手入れされた木々からの木漏れ日や、お日様の光に照らされる花たちがまた違う表情を魅せてくれるのでとても綺麗だった。




「すまない、待たせた」


ベンチでボーッと空を眺めていると、現れたのは花たちに負けないぐらいの圧倒的美しさを持つ白金の青年。


夜に会う時は少しラフな格好をしていることが多かったが、今日はなんだか余所行きというか、オシャレな格好をしている様な気がする。


また、夜と違って腰に下げられた剣を見ると、彼か騎士であることを改めて感じた。


とりあえず彼は眩しすぎる……。

彼の美しさは目に毒だ。



「お、おはよう。全然待ってないよ。

王女様の容態の観察が思いのほか早く終わってしまったのはあるけど、今着いたところ。


というか、まだ予定の時間より15分も早いよ?」


「それならよかった。

……お互い、早すぎたな」


微笑むレイの笑顔は、相変わらず威力抜群だった。



レイが先に馬車へ乗り込み、

「お手をどうぞ。」とエスコートをしてくれるが、現代日本の一般ピーポーである私はこんなことされた事もないし彼の美形さもあり、出会って10分も経ってないのに顔が赤くなるのがわかる。


初っ端からこれなら今日私はどうなってしまうんだろう。


馬車へ乗り込み、街へと向かう。


馬車の中でのレイとの距離の近さと、所々で頭を撫でるといったスキンシップがいつもよりも多く、頭がクラクラしたが街までは5分で着くのでなんとか耐え着ることが出来た。



「着いたな」

「そ、そうですね……」



レイにエスコートをされながら馬車を下りると、相変わらずフランスのような上品で可愛らしい街並みに、街のシンボルである大きな時計台が目に入った。


「それではいこうか。

オススメのカフェはこっちにあるんだ」



レイに手を引かれ、私達は街中を進んでいくが色んな方向から視線を感じた。


……街に行き交う人々がこちらを見ているのだ。


こちらといっても、正しくは”レイを”だけども。


「あれが氷の騎士様……」

「なんとお美しい殿方ですの……」

「噂どおり凛々しいお方だ……」


だのなんだのと高評価を得ている。


そのついでに、

「あの珍しい髪色をしている隣の女は誰なんだ」

といった声も聞こえてきた。


前にダヴィッドさんと街へ来た時は、こんなに注目されることはなかったので、私の髪の珍しさよりもレイの注目度が高いらしい。第1騎士団の団長とも言っていたし、彼は有名人なのかもしれない。


それにしてもレイのついでとはいえ、こんなに人に注目されるなら彼に恥をかかせてしまう可能性だってあるし、髪の毛はいつもと違ってハーフアップにはしたが、もっとお洒落をしてくればよかった。



……まあお洒落をしてくればよかったといっても、転移してからダヴィッドさんが揃えてくれた動きやすい服を何着を持っているぐらいなので余所行きの服をまだ持っていないのだけど。


今日いい感じのお店があったら、ダヴィッドさんからもらったお小遣いで何か買おうかな……?



「なんだか、皆がレイをみてるね。

なんかラフな格好で来ちゃってごめん。

転移してから洋服も王宮で貰った動きやすいやつしかないから、いいお店あったら後で寄ってみてもいい?」


「そんなことはない、気のせいだ。

俺はどんな格好でもいいと思うが、服が欲しいのか。

……確か目的地のカフェの近くに、部下がよく妻に連れられていくという服屋を知っているから、まだ少し早いし先にそこへいこうか」


あ……、また気を使わせてしまった。

私は彼に気ばかり使わせてる気がするな。



そして忘れていたがレイは手を放すことなく、歩き続けている。


……もうこれは手を引かれているというよりは、”手を繋いでいる”だ。


1人で赤面状態となっている私を他所にレイに連れられ、先ずは服屋を見ることになった。




「……可愛いっ!!」


白を基調とした店内には、とてもセンスがよく中世ヨーロッパのような雰囲気のある、日常使い出来そうなドレスたちが並んでいた。


どれも派手すぎず、主張しすぎない上品なデザインでこれならThe日本人の私でも着こなすことが出来そうであった。


そして、貧乏性の私のよくない癖ですかさず値札を見たが、貰ったお小遣いで買えて、ランチ代も残る金額設定であった。



「……レイ、何着か試着してもいいかな」


「もちろんだ。それで、着たら見せてくれ」



目を惹かれたドレスをいくつか試着していく。


別に鏡で自分で確認出来ればいいのに、

「必ず見せてくれ」とレイが言うので恥ずかしいが1着1着試着する度に確認してもらう。


レイはどれを着ても、このドレスの色は髪の色に合っていて〜だとか、このドレスの雰囲気はスミレらしくていいだとか、何を着ても褒めてくれるので舞い上がってしまい、気がつけば10着は試着をしてしまっていた。


こういう時、男性は疲れてしまう人が多いと思うのだけれど、レイは疲れたり飽きる様子を見せることも無く楽しそうに一緒にドレスを選んでくれるのだった。


「これにします…!!」


選んだのは、薄いパープルを基調とした、鎖骨が綺麗に見えるVネックのような胸元のデザインとスカート部分に少し銀色のラメが繕ってあるドレス、使い回せそうな白のローヒールのパンプスだ。


自分の名前がスミレっていうのもあってパープルのドレスに惹かれたのもあるが、レイが「全部素敵だが、これが1番似合っている」というのでこれにした。


「着て行かれますか?」

と気の利く店員さん。


靴とセットでドレスを買ったので10パーセントオフに値引きしてくれた。


ランチ代もしっかりと残ったし、いい買い物をしたな。



元の来ていた服と靴を紙袋に入れてしまい、私たちは店を後にした。




目的地のカフェは洋服屋さんから5分程度と直ぐに到着したが、ドレスの試着をし過ぎたせいで、時刻は昼をとっくに越していた。



「ごめん……、はしゃぎ過ぎてもうおやつの時間になりそうだね」


「俺も楽しかったし、気にするな。

なんなら、また一緒に選びに来よう」



私が気にしないようにと、この完璧な受け答え。


どこまで優しいんだろうかこの青年は。



カフェに入ると、これはまた可愛らしい空間が広がっていた。


店内には花が目一杯飾り付けられ、天井から吊り下げられたドライフラワーが印象的で、店内からは庭園とはまた違った心地の良い花の香りと爽やかなコーヒーの香りがした。



「さっきのお店もすごく可愛くてオシャレだったけどお店もすごく可愛いね!!」


思わずテンションが上がる。


「喜んでくれてよかった。噂には聞いていたが、とても雰囲気のいい店だな。

ランチメニューは……まだ間に合うみたいだぞ。早速頼もうか」


私とレイは日替わりランチメニューを注文し、ドリンクはレイはコーヒーを、私はレイが話していたイチゴを使用したドリンクを注文した。


出てきた日替わりランチメニューは、カルボナーラっぽいパスタとサラダ、そして苺をふんだんに使用したタルトだった。


そして出てきた噂の苺ドリンクは、前の世界で毎年必ず飲んでいたス〇バのイチゴフラペチーノのような見た目をしていた。



お腹も空いていたので料理が届き次第、早速食べ始めるがとても美味しい。


カルボナーラ風パスタから感じるチーズの風味と牛乳のまろやかさ、みずみずしいサラダに食べたことの無い味の酸っぱくて食の進むドレッシング、苺の甘酸っぱさとタ生地の甘さが絶妙なタルト。


レイが追加で頼んでれた紅茶を飲みながら、前の世界でよく飲んだあのイチゴフラペチーノとほぼ同じ味がするイチゴドリンクを飲み進めていく。


そして、食事の所作から滲み出るレイの上品さや美しさに、友人の結婚式に備えて1度教室へ通った程度の自身の作法や所作、マナー力が気になってしまった。




「お腹いっぱい……」


お店をでて、馬車までゆっくりと歩いていく。


それにしてもカフェで出てきたご飯は結構な量だったが、美味しすぎてペロリと全て平らげてしまった。


「見てて気持ちのいい食べっぷりだったな」


「す、すみません……。しかも奢ってもらって……」


食べ物が美味しすぎて、憧れの男性との食事中なのに我を忘れて食べすぎてしまった。


もう遅いけど可愛らしく控えめにしておくべきだったか……。


しかも奢ってもらうつもりなど無かったのに、気がついたらお会計が済んでいて財布を出す隙すらなかった。


「食事に誘ったのは俺だ。気にしなくていい。

それに沢山食べるのはいいことだ。

最近多忙でしっかり食べてなかったんじゃないのか?」


確かに最近、王女様の容態は落ち着いてきたとはいえ、現状の物より栄養パックなどの物品をより使いやすく一般向けに、汎用性の高いものにする為に職人さんやマーシュさんへ相談を行い日々試行錯誤したりと忙しく過ごしてはいた。


この世界に来てからだけではなく、前の世界も含めてしっかりご飯を食べて寛ぐのは久しぶりかもしれない。


「言われてみれば、確かにしっかり食べてなかったかも……」


「只でさえ、細いのに初めて会った時より少し痩せた気がする。

スミレはもっと食べていい。

今日の店も凄く良かったが、今度は俺のいつも行く店にいこう」



お店から馬車の停めてある所まで、結構歩いたと思ったが、レイと話しているとあっという間に着いてしまった。


……ちなみに帰り道も常に手を繋がれていた。




エスコートをされて馬車に乗り込む。


「……レイ、今日は本当にありがとう。

ごはんもご馳走様でした。

すごい楽しかった」


「ああ。俺もとても楽しかった。

スミレがよければ、また次の休みに出かけよう」


いつものように優しく微笑むレイ。

馬車の窓から差し込む夕日が彼の瞳に反射してとても綺麗で印象的だった。






……それにしても歩いてる時に常に手を繋いでいるなんて、この世界の貴族のエスコートでは普通のことなんだろうか。


大きいだけではなく剣を沢山握ってきた為か剣だこがある手のひらは、美しいだけではなく男性としての魅力も感じさせる。


どんなにレイが私なんかを恋愛的対象に見るわけが無いと言い聞かせても、前の世界であれば『これをされたら脈アリ!!』と恋愛ネット記事に書いてある様な彼の行動に気になってしまう自分がいる。



「はぁ……なんなの……」


寝室で横になっていた私は、うつ伏せになり枕に顔を沈めた。



その日の夜に、日中のことを思い出してなかなか寝付けなかったのは言うまでもないだろう。

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