第6話 夜の庭園






──淡いライトブルーの瞳が魔法の灯りに反射していて宝石のようで。


白金に近いブロンドの髪はサラサラと春の暖かい風になびかれている。






余りにも美しい青年。

この世界に来てから、マーシュさんやアンジェリカ王女様など美しい人達を目にしてきたが、その青年は美しいのと庭園の幻想さも加わって絵画の絵のように見えた。




「……大丈夫か?」


青年が困った顔でこちらを見ている。

余りの美形に全身が強ばり固まってしまった。


「あっ、失礼致しました。

誰もいないと思っておりましたので……」


「確かに変な独り言だったな」


クスリと笑う青年が美しすぎて儚すぎて眩しい。


「……で。話を戻すけど、

真面目なのは悪いことなのか?」


「あ……、いえ。私に関してのことですよ。他人に対しては真面目なことは悪いとは思っていません」


「……変な”巫女様”だな」


青年は微笑みながら言う。


にしても今、”巫女様”って呼んだ?

なんで知っているんだろう。


「……あっ、あの」


「今なんで巫女って知ってるって思ったかい?」


「えっ、まぁ……」


青年には私の考えている事がお見通しのようだ。


「髪色と瞳の色。最近巫女様が召喚されたって聞いたのもあるし、この国じゃとても珍しいから」


「なるほど……。珍しいんですね黒髪って。この国の人は様々な髪や瞳の色があって色鮮やかで綺麗で羨ましいです。それに比べて私の髪真っ黒でなんだか野暮ったいですよね」


青年の美しさに緊張しているとはいえ、我ながらよく喋るし、中々ネガティブな発言だ。

私は日本人の美徳である謙遜を拗らせてしまっている。この国の人は優しい人が多いから困ってしまうだろう。


「ふ。面白いことを言うね。俺は巫女様の髪も瞳も、この夜空みたいに黒くて綺麗だと思うけど」


「……えっ」


なんて破壊力のある笑顔。

しかもネガティブ発言をサラりと受け流し、褒めてくれる。

この人はこの美しさとトーク術で何人の女性の心を掴んでいったのか……。


「顔が赤いな、こんな事で恥ずかしいのか」


クスクスと笑う青年。

どうやら顔が赤いらしい。


そしてこれはバカにされている……?

相手は超絶美青年とはいえ、弄ばれているなんて恥ずかしい。



「そういえば巫女様。

巫女様が召喚されたって聞いた時から前にいた世界の話を聞かせてほしいなと思っていたんだけど……」





青年は日本前の世界の話を実に興味深そうに、そして楽しそうに聞いていた。


話の内容は、日本の食べ物の話だとか、某夢の国遊園地の話だとか、ゲームが好きでよくやっていた……だとか。


実に下らない内容で、普段なら友人にも絶対な話さない内容であったが、あまりにも楽しそうに聞いてくれるので沢山喋ってしまった。


前の世界の話を聞かれてるっていうのもあるけど、殆ど私が話していて、傾聴させてしまっているのではないかと途中不安になるも、それも察せられて「大丈夫、つまらなかったら俺は顔にすぐ出る」だなんて言ってくれる。




「あはは、巫女様ってお堅そうな性格かと思ったけど案外抜けてるんだな」


「え、本当ですか。確かに昔はよくしっかりしなさい!だなんて言われていた気がします……」


初対面なのにお互い気を使ってる感じはせず、自然な会話だ。きっと彼の話の回し方が上手なのであろう。




「……そうだ。巫女様、名前を教えてくれないか」


「あ。まだ名乗っていませんでしたね。……スミレです。このベンチの下に咲いてるこの花と同じ名前なんです。」


「スミレ……。綺麗な花だよな。この造られた庭園に植えてある花とはまた違った綺麗さだと思う。


……あっ、だから花言葉の話も呟いてたんだ?」


「……っぬ!」


そこまで聞かれていたのか!!

いま考えれば、独りで花言葉を呟くなんて厨二病じゃないか。

それを聞かれてしまうなんて恥ずかしすぎる……。


「そ、それは無かったことにしてもらえませんか……」


「嫌だ。それも含めて俺の知ってるスミレになるから」




……っああーーーー!!!

この人はそんなつもりはないのだろうけど、本当にとんでもない事を言う。


良かった私が謙遜を拗らせた日本人で。

それがなければ、いとも簡単に好きになってしまうところだった。




「……」


が、しかし。

いくら私が拗らせ日本人でも恥ずかしくて黙ってしまった。

チラっと彼を見る。


睫毛が長い。こちらをじっと見つめる瞳は灯りが反射して本当に綺麗。




「……もう遅いし、部屋まで送る」


「え、大丈夫ですよ。王宮の中ですし」


「俺が送りたいんだ。嫌じゃなければだが…… 」


こんな王宮の中ですら送ってくれるなんて紳士だな。一瞬で心を奪われてしまいそうで、「この国の男性は皆紳士なだけ」自分に必死に言い聞かせている。


「……じゃあ、お願いします。」


「やった。じゃあもっとニホンの話、聞かせてくれ」



……日本の話をもっと聞きたいだけか。

よかった、ここまで優しくされるとこっちも勘違いしてしまうので、少し安心する。





私は青年に部屋まで送ってもらい、一日を終えた。

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