第二章
第19話 新しい生活
「──スミレ様、こちらが用意させていただいた新居でございます」
国王様の謁見から翌日、王宮の侍従さんに案内され連れてこられたのは3階建てのアパートのような建物だった。
その外見は、このフランスのような街並みに馴染む柔らかいオレンジベージュの壁とライトグレーの屋根が印象的で、白い出窓には沢山の花が植えてありとても可愛らしい。このアパートにはベランダもある様で椅子と小さなテーブルが置いてあるのが少し見えた。
宰相であるノーマンさんがたったの一日で家具やらなにやら必要なものまで揃えた上で決めてくれたそうで、即日入居可能との事だった。
私はもう用意してくれただけで何も文句はないのだが、何か気に入らないことがあれば別の候補を用意するとのことで、本日はアパートの外装や内装を確認しに来たのであった。
外装の次は内装の確認をしていく。
用意された部屋は二階で、1番奥の角部屋だった。
「わぁ……」
玄関を開くと、まず目に入るのは大きい窓だ。南向きの窓で大きい窓からは沢山のあたたかい光が差している。窓は少し空いており、優しい風がゆらゆらとカーテンを揺らしている。透かしが入っている白いレースのカーテンは、ドレスの
部屋は1LDKで、リビングダイニングキッチンの広さは広めで大体13畳ぐらいだろうか。部屋の内装は白い壁とダークブラウンの木の床板、天井から吊り下げられたウォールランプはレース模様がガラスに刻まれていて綺麗で、用意された椅子や机なども細かく装飾が入っており可愛らしい。
後はリビングと同じような雰囲気の8畳ぐらいのベットルームがあって、ベットはダブルサイズの大きさで少し大きめだ。
いくつかのもっふりとした枕に白のシーツと柔らかそうな掛け布団で、今すぐにも飛び込んで寝てしまいたいぐらい魅力的だった。
他にもベットの上には名刺サイズのメモらしき物が置いてあり、
『これは俺様が選んだ。ベットは1人で使うとは限らないし、大きい方がいいだろ?』
と記載してあった為直ぐに破いて捨てた。
……寝具のセンスはいいが、言葉のセンスは宜しくないらしい。
前の世界ではシングルサイズのベットに安いペラペラマットレスで全然疲れが取れなかった。ベットは疲れを癒すべき家具なのに、寧ろ起きた時の疲労感が酷かった。しかし、こちらのベットなら快適な安眠生活が送れそうだ。メモのことは置いておいて、ルー様には後日お礼を言わなくては。
また、部屋には壁収納も多くベットルームにはウォークインと言えるぐらい広いクローゼットがあり収納には困らなそうだった。
そして、外側から見えた出窓も幾つかあった。お花を置いたりしてもいいかもしれないし、色々自分で小物を置いたり出来そうだ。
「何か気になることは御座いませんか?」
「なにもありません。素敵すぎるお部屋を用意して頂きありがとうございます。
ここでお願いします!」
即答だった。
むしろ、最低限の暮らしを望んだ私にとってはシャンデリア王都の人々はここまで豊かな暮らしを本当にしているのかと疑問に思うほどであった。
──王宮へと戻り、早速荷造りをする。
荷造りといっても本当に荷物は少なく、転移時に身につけていた服、ダヴィッドさんから頂いた服と靴、自分で買った薄いパープルのドレスと白いパンプスと、生活に必要なものは王宮が全て用意してくれていたので荷物は衣類ぐらいだった。
経鼻経管栄養法の一般運用に向けた試作品や手技を記載したメモはマーシュ先生が預かっていたが、そちらはこの世界の人のために自由に使って欲しいと伝え譲渡した。(後でこの権利でお金を稼げるのでは?と思った時にはもう遅かった)
ちなみに、メモはマーシュ先生が私の話す内容を代筆したものになる。
私は召喚による影響なのか、何故か会話は通じるし文字は勝手に変換されて読めるが、文字は書けない。
まあこの国文字や言葉について知識が無いし、当然なのではあるが定職としてこの国で仕事をするにはまず文字を覚えることから始めなければいけないし、よく考えたらこの国の貨幣の価値も正直なんとなくでしか分かっていない。
今になって王宮の人々に支えられて生活が成り立っていたことに気がつく。
国王様から報酬を貰う際に、シャルム王国の一般教養と言語の勉強する為の講師を雇ってもらうべきだったと今になって後悔した。
「何かあれば直ぐにご相談を」だなんてダヴィッドさんは言ってくれてるけど、彼はああ見えて魔法使いのエリート集団、第3騎士団の元団長らしく、現在は宮廷魔術師として魔法の研究などでとても忙しい身なので頼むのは申し訳ない。
今になって王宮へ色々お願いしても、要求を通してくれそうではあるが、もうすでに沢山甘えてしまっている。王宮から支給される生活費を貯金して、E〇C英語教室のような大人も入れる学校などを探して通うことにしよう。
「すみれ。いつでも遊びに来て欲しいの。
さみしいけど、おうとはちかいしすぐ会えるの」
翌朝には王宮を出ることになったので、王女様への挨拶に出向いた。
「スミレ様……。出ていかなくても誰も文句はいいませんのに。
寝室には王女様に会いに来たダヴィッドさんもいて、私の事を思ってか眉を
「これからどうなされるんですか?」
「とりあえず、街に出て仕事を探します。最低限の暮らしができる様に仕事に就いて安定するまでは王宮から生活費が支給されるようですので……」
「そんなに無理をしなくても良いでしょうに」
「大丈夫です。無理はしてないです。
いつまでも
「そうですか……。しかし、何かありましたら無理せず王宮に戻られますように。ダヴィッドが何とかしてみせます」
「ダヴィッドさん、いつもありがとうございます。王女様にも会いたいですし、おふたりが良いのであれば遊びに来ますよ」
「……すみれ、いつでもきてほしいの。おいしいおかしをもらったらお茶会をひらくの」
「王女様、お茶会だなんて素敵ですね。是非参加させてください。」
ダヴィッドさんと王女様へ挨拶をして、他にもお世話になった侍女さん侍従さん、家臣の方々への挨拶も済ませた。
ルー様を探したが第2騎士団は丁度魔物の討伐に向かったとのことで挨拶はできなかった。
ベットのお礼もあるし、後日また王宮で会えた時に言おう。
──こうして挨拶回りも終えた私は、
翌朝に王宮を出て王都へと移り住むことになったのだった。
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