第21話 診療所(1)
「──近っ!!」
マーシュ先生から頂いた、書き込みの細かい丁寧すぎる地図を見ながら歩いていくと、診療所へはアパートから徒歩5分程度で到着した。
活気溢れる賑やかなビゴール商店街(という名前であることを後から聞いた)の通りの中心部に佇んでいたのは、約16坪程度の土地に建てられた二階建ての建物で壁は柔らかいオレンジベージュ、屋根は朱色といったこの街では特に目立つところの無い外見をしており、看板には『アシュク診療所』と記載してあった。
中へはいると、ソファーが2つ並べられ、待合人数としては6人しか入らなそうな8畳程度の小さな待合室が出迎えてくれた。
内装としてはこれまた可愛らしく、白い床板に、壁紙は薄い若草色に小さい花がふんだんに描かれている。
待合室正面から見て右手は6畳程度の小さな診察室で、左手はL字の15畳程度の広めの部屋でベットが3床あり、残りは薬品庫やら物品庫であるらしい。2階部分もあるが、そちらはマーシュ先生とソフィアさんがシェアハウスしているとのことだ。
因みに入院患者は暫く居ないらしいが、即日入院が可能とのことだった。
──この小さな建物で医師と
私の新しい職場である。
「はじめまして!貴方がスミレね。
マーシュ先生から話は聞いてるわよ!
私はソフィア。この診療所でナースとして勤務してるわ!!」
ソフィアと名乗ったその女性は、ハキハキとした大きな声に鮮烈な赤毛とエメラルドグリーンの瞳が印象的。つり目がちの正統派美人で、髪の毛はボブヘアで耳にかけており、服装は教科書で見たようなナイチンゲールのようなゴスロリとも言えてしまう様なナース服を着用していた。
マーシュ先生から聞いていたアシュク診療所のたった一人のナース。頼れる人だと聞いていたが、既に仕事が出来そうな雰囲気を感じる。
「初めまして、スミレといいます。
今日からよろしくお願いします」
王宮を出て2日後。
早速働きに出た訳だが、マーシュ先生には一、二週間ぐらい休んでから働いたらどうかと提案されていたが断った。
特にやることも無いし、未だに帰還しないレイのことを考えすぎてしまったり、特にやりたい事がないのであれば無駄に時間があってもよくないと思ったからだ。
王宮から支給されている生活費でカフェ活やショッピングも……とは考えたが流石に忍びなくて出来なかった。
「早速だけどスミレ、あなたは治癒魔法が使えないそうだけど何も問題ないわ」
「え、そうなんですか?」
「ええ!なんせ、ここの診療所で治癒魔法を使う機会なんてご老人達の腰痛治療とかに使うぐらいだからね!!!」
ソフィアによると治癒魔法にもランクがあって、
初級……捻挫、切り傷、軽度の内出血(痣)腰痛、肩こり、筋肉痛
中級……アキレス腱断裂、深い切り傷、骨折、軽度の臓器炎症、筋断裂、血管の修復
上級……致命的な大怪我、急性期の怪我による内蔵や血管の修復、身体の欠損は急性期で欠損部位が存在した場合のみ治癒可能
といった様に、魔法のレベルによって癒せる傷の程度があり、流れてしまった血液までは修復できない。また、治癒魔法によって癒せる傷は急性期のものに限り、慢性的な古傷は癒せないという。
古傷や身体の欠損部位まで癒すことが出来るという、“奇跡“と呼ばれるクラスの治癒魔法も存在するらしいが、こちらに関しては都市伝説になっているらしく、古い文献にチラホラ記載がある程度で、実在するかも怪しいとのことであった。
召喚時、ダヴィッドさんは私がもしかしたら“奇跡“を使えるのかもしれないと期待したかもしれない。結果としては、初級魔法すら使えなかったが。
……話が逸れたが、つまり初級の治癒魔法が使えようが使えまいが、使えたらラッキー!ぐらいの価値観で使えないことによる業務の支障はそこまで無いそうだ。
治癒魔法は初級は割と適性がある者が多く使用者の数は少なくはないが、中級以上となると実戦で必要とされるレベルの術者らしく、使い手の人数もグッと減り需要も高いらしい。
予想ではあるが、聖女様は軍の遠征に着いていったくらいなので高位の治癒魔法が使えるのかもしれない。
「──ということなので、スミレは何も気にしなくていいのよ!!
掃除とかの雑務を私と一緒にこなして、経管栄養法?だっけ、それを一般向けにできるようマーシュ先生と進めていけばいいのよ!!」
「はい!分かりました。
ソフィアさん、ありがとうございます」
「いいのよ!私は先輩なんだからね!!」
エッヘン!と胸を張るソフィアさんは後輩ができて嬉しそうな様子だった。
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