第26話 練習の成果(2)
──3日後。
「本日からうちの新人ナーススミレが患者さんへの治療を開始しまーす!!」
あれからそこまで時間を書けずに、500円玉ぐらいの大きさまで魔力の光を縮めることが出来た。
ソフィアさんはいつもテニスボールぐらいの大きさにしているのでそれに比較するとかなりの小ささになった。
効果としては、ソフィアさんの治癒魔法とほぼ同等。
「私の大きさよりかなり小さいのに大分コスパいいな〜!!ちょっと悔しいけどそれは巫女の力ってことなのかしらね? 」
ソフィアさんが言うように、光の大きさが小さいということは消費魔力量もそれだけ抑えられる訳で、1日に何人も治療していかなければいけない事を考えると大分コスパがいい。
まあ、光の大きさが小さくても魔力を消費しすぎては意味が無いし、患部をピンポイントに癒すようには気をつけなければいけないのだけど……。
この魔法の効果倍増が巫女として召喚された唯一のステータスボーナスなのだとしたら、確かに有意義な能力なので何かと揉め事の種になってしまいそうな気がする。
……少し自意識過剰なのかもしれないけど、自分のせいで揉め事が起こっても嫌だし周囲にはバレないように気をつけなければいけないな。
「さてさて、スミレちゃんは私が一番乗りだよ」
待合で待っていた患者さんの何人かは私を希望してくれていたが、その人達をかき分けて一番に来てくれたのはアンナさんだった。
「アンナさん、私でいいんですか?」
「ソフィアちゃんのも効くんだけどねぇ、より若い子のパワーを貰いたいだろ?」
「……ちょ、ちょっと!!!アンナさん!!私もまだそんなに変わらないわよ!!!」
ソフィアさん、そう言えばいくつなんだろう。私より少しお姉さんぐらいだろうけど……。
「あんたもう、今年でさんじゅ……」
「う、うるさいわね!!!もう魔法かけてあげないわよ!!!」
「いいんだよ。私にはスミレちゃんかいるんだからねぇ」
「あはは………」
……何にせよ、ソフィアさんは20代と言われても30代と言われても何も違和感がない。どちらにせよ、とても綺麗な女性で私の憧れだ。
──私が患者さんへ診療を開始して更に1週間が経過した。
患者さんへの治癒は順調で、午前中で20人程度、午後で30人程度と結構な人数に魔法を掛けている。魔力は巫女としての効果がバレないように極力抑えているので一日の診療を終えたとしても大分余力がある状態だ。
一日に結構な人数を癒しているが、今までソフィアさんが殆ど1人で回していたところに私の加入したことで治癒できる人数が増え、診療所へ来る患者さんの人数も増加し、待合室も常に満席だ。なんと嬉しいことに売上も右肩上がりらしい。
「──スミレちゃん!今日も頼むねぇ!!
……あ、あとこれ。ウチのパン!!好きだろう?もちろんソフィアちゃんの分もあるわよぉ」
アンナさんは私の常連さんとなっていた。
「やったぁ!!アンナさんのパン、私大好きなのよね!!」
「私も大好きです!バターのほんのりとした甘みとモッチりとした生地が堪らなくてそのまま食べても凄く美味しいんですよね〜!」
うふふと優しい笑みを浮かべるアンナさんが、私は大好きだ。
「……そういえばスミレちゃん、今日はね腰だけじゃなくて喉にも魔法をかけて欲しいのよ」
「喉……ですか? 痛むんですか?」
「いやぁ、なんかねぇ。最近食べ物が飲みこ見ずらくて……」
……食べ物が飲み込みずらい?
「そしたら喉を見ますので大きく開けてくださいね」
光魔法の細工が施されている小さなペンライトでアンナさんの喉を照らす。
……腫れている様子はない。
腫れていると飲み込みずらかったりするのはあると思うが。
まさか嚥下機能障害か……?
嚥下機能障害が出る疾患といえば、脳梗塞、
脳卒中神経内科病棟の勤務であったので、嚥下機能障害が出る疾患の患者さんはとても身近にいた。
その為、その科の疾患であれば症状からなんとなくではあるが、この人はこの病気なのでは?というのが予測できる。
しかし、私は医師では無いので診察は出来ない。その為、あくまで症状から予測するしかないが考えられる可能性は一つ一つ潰して確実に治癒できるようにしたい。
「あっ、えっと……。いつから飲み込みずらさとかが出てきましたか?」
「実は1ヶ月前ぐらいから出てたんだけど、最近酷くなってねぇ……。食事の時に
「そうですか……。そしたら両手を出して頂けますか? 」
「こう?」
「そうです。そしたら私の手を握ってギューッと力を入れてみてください」
1ヶ月前という事で急性期の脳梗塞による嚥下機能障害ということはないと思うが、アンナさんの身体に麻痺症状や筋力低下が生じていないかを確認していく。
「……今まで気が付かなかったけどなんだか力が入れずらいわね」
……確かにアンナさんの
「そしたら次は座ったままでいいので、左右差上げ下げしていただけますか?」
「やってみるわね……よっと!」
……足の上げ下げは特に問題なさそうだ。
「最後に瞳孔だけ見ますね?目を片目ずつ照らすので照らしている目は閉じないで我慢してください」
ペンライトで左右の瞳孔を観察し、縮小も拡大もなく左右差もないことが確認できた。
多分だけど脳梗塞ではない。脳梗塞なら
アンナさんに現在出現している症状は、嚥下機能障害、両手の筋力低下か……。
「最近、息切れしやすかったりしてませんか?」
「そういえば、最近少し切れやすいかもしれないわねぇ。この前スミレちゃんに初めて魔法をかけてもらったとき、全身が軽いものだから屈伸してみたじゃない? 実はあの後もすぐ落ち着くかと思いきや結構息切れが続いてたのよねぇ。まあ年だから仕方ないんだろうけど」
つまりアンナさんの現在の症状は、嚥下機能障害に両手の脱力、軽度の呼吸機能低下。
……まさか。まさかね?
この世界にあの病気が存在するとは思いたくもない。
「……わかりました。とりあえず、本日も喉と腰に治癒魔法をかけさせて頂きますね。飲み込みずらさや
「それがもう旦那も数年前に亡くなってて1人なのよねぇ……」
よく見るとアンナさんの左手の薬指には結婚指輪が2つ着けられている。
話を聞くにアンナさんは現在独居で、1人でパン屋の切り盛りを行っているらしい。
確かにお店に買い物に行くと店員さんはおらず、アンナさん1人でレジ打ちや品出しをしていた気がする。
「そしたら、アンナさんが受診に来ていない日があれば様子を見に行きます!!」
「ええ、そこまでしなくていいわよぉ。年なんだからこんなものでしょう。大袈裟よぉ」
「いえ、確認しに行きますのでお願いします!」
……あの病気ではない。
きっとたまたま症状が似てるだけ……。
私は看護師だし、病名の診断がつけれる訳では無いのだから……。
──アンナさんの事についてはマーシュ先生が戻ってきたら相談することにした。
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