第27話 開幕

 広いドームで行われるバーチャルストラテジーのマスターズカテゴリー部門。シニアの時とは全く違う観客の大きな歓声。バーチャルストラテジー世界の大会の参加はシニア部門の時以来だが、その時の自分と今の自分で圧倒的に自信だ。帝王高校のカードゲーム部に入部し、そのカリキュラムの1つである3000人組手。これをクリアしないと高校生活で一生大会に出られないというプレッシャーと焦り。だからと言って、急かしたところでただ疲労が溜まるだけだ。バーチャル世界での疲労は身体ではなく脳にくるため、連戦し、現実世界に戻ると、1.2時間くらい頭痛が続く。大会は約400人のプレイヤーが予選はベスト16からはトーナメント方式で行われる。マスター部門の中には大会の常連プレイヤーも何人かおり、前回のマスター部門の優勝者もいる。その人物は後堂と呼ばれるプレイヤーであだ名はキング。大会優勝者として皆から与えられた名だ。称号とも言える。キングのテーマは武神だ。武神デッキはモンスターを装飾品で強化し、連続攻撃で相手を粉砕するデッキだ。キングはマスター部門優勝だけでなく、最強デッキ決定戦の大会や廃課金者が集う大会でも何度も優勝した、今大会最強のプレイヤーだ。もし俺が決勝まで勝ち進めば、必ずキングと戦うことになる。前回のマスター部門の優勝品は世の中に僅かしか存在しない神のカード、魔犬神ヴァイブバルブ。しすてテキストデータはキングの黄金時代と言う名のブログに載っている。その効果の1つ目はこのカードを召喚したとき、相手のデッキから5枚めくり、その効果で出たモンスターカード全てとバトルする。2つ目が相手モンスターを破壊したとき、相手に3ダメージ与える。ネットに載っている情報は以上だ。ただ、この神のカードの劣化版として電脳獣に似た効果のモンスターがある。それは電脳獣ベア―だ。2の効果は全く同じ効果で、1の効果が5枚ではなく3枚だ。そしてスキルに相手モンスターを1体ストレージから蘇生する効果がある。それを考慮するとおそらく神のカードにもスキルによる効果があるはずだ。それがないと、わざわざ神のカードとして優勝品とするのは芸がなく、高値の勝ちもつかない。投資家の中では神のカードのコレクターも存在するが、神のカードは単体で1枚ずつしか存在しておらず、実のところ、神のカード自体がこの世界に何種類存在するか明白ではない。ただ、この世でただ一人、神のカードをテーマとしたデッキを持つ最強プレイヤーがいる噂はある程度、バーチャルストラテジーのカードを触ったプレイヤーは知っている者が多い。だがその人物は公式大会に姿を露わにしたことがない。いや、仮に出場していたとしても、神のデッキは使用していないと推測されている。俺の人生を賭けたマスター部門の大会が幕を上げる。Aブロックの俺は大会初日の対戦となる。マスター部門は高校生以上のプレイヤーに出場資格があり、当然社会人も参加している以上、大会のレベルはバーチャルストラテジーの大会の中で最も高いだろう。1回戦の相手は電脳王さん?自分のプレイヤー名はコネクターSPの自分のアカウント名で決まるので、プレイヤー名を本名にする必要はない。ただこれでは、自分は電脳獣デッキを使いますよ、と相手にバラすことになる。バーチャルストラテジーの先攻プレイヤーは初ターンでは、相手のデッキのテーマが分からないので、攻めより守りの戦略をとるプレイヤーが多い。ただ、そのプレイヤー名がブラフの可能性もある。要するに電脳獣デッキと見せかけて、実は水妖精デッキの使い手だという落ちだ。


「先攻後攻はコイントスで決まります」


コインが回転しながら宙を舞い、灰色のモザイクがコインを覆う。「表」と俺が言うと、モザイクが消え、コインが視界に映る。裏だ。


「私は後攻をもらうよ」


「ああ」


 ゲームが始まる。初陣はサクッと勝って早期決着をつけたい。この総当たり戦はただ相手を倒せばいいというわけではない。自分の残りライフ、経過ターン数から得点が表示され、勝率が同じプレイヤー同士はその得点で勝ち負けが決まるのだ。だが、俺は全勝を意識している。そうだ、ここで全勝出来ないやつが、本戦で勝ち上れるわけがない。


「俺は夢幻の封印を発動。このオブジェクトは相手のストレージを対象とした魔法カードとモンスター効果を全て無効化する!」


 仮に電脳王のデッキが電脳獣ならこの時点で勝利は決まったものだ。電脳獣デッキはストレージのカードを利用し、戦うデッキだ。もらったか?だが、相手の表情から焦りや追い込まれた表情はない。やはりブラフか?


「私は流星の電脳獣エースを召喚する」


「流星の電脳獣?」初めて聞くテーマだ。この大会が始まる2日前、新弾のパックが発表されたが、そのパックで収録されたカードか?


「流星の電脳獣エースの効果発動!手札のカードを全てデリートし、デッキからデリートした枚数分、ドローする」


 デリート、そういうことか。電脳獣デッキがストレージに利用するカードなら、流星デッキはデリートしたカードをフル活用するテーマと言える。ターンが流れるたび、登場する流星電脳獣モンスター。1体1体のパワーは低めだが、横並びに長け、打点で一気にリーサルを狙うテーマ。油断したら一瞬で消される。


「夢幻龍ジャガンジアを召喚だ!」


 ただ、流星デッキには弱点がある。それは横並びさせる際に召喚する回数、つまりカードをプレイする回数が多いことが。「ジャガンジアのスキル発動!相手は次のターン、カードをプレイするたび、2ダメージ受けてもらうぜ!」


 最後のキーカードだ。


「魔法カード夢幻再生!このカードは自分の場のモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターを全て蘇生するカード!つまり、ジャガンジアを破壊すると、ジャガンジアの破壊時効果で相手モンスターを全て破壊し、破壊した枚数分、ダメージを与える」


 チェスではないが、チェックメイトだ。この効果と、ジャガンジアのダイレクトアタックで相手の残りライフは2。相手がモンスター、魔法、オブジェクトを発動した時点でゲームは終わる。


「私の負けです」


 電脳王は自分のターン開始時、デッキに手を置いた。デッキに3秒以上、手を置いた時点で敗北となる。今のサレンダ―は勝負を諦め行った行為ではなく、次の対戦相手に自分の駒をさらけ出さないようにするためだ。


「さて、次の試合だ」


 俺はAブロックの試合に無事全勝した。大体は3000人組手の時に戦っていたテーマが多かったので、戦略のパターンが見えていた。そのデータをもとに戦略を練った。夢幻デッキはオブジェクトによる支配力が強いため。相手のテーマのメタとなるカードがあれば、オブジェクト1枚でアドを取れる。そしてベスト16まで決まった。これで4日目となる。残りの選手の中に当然、キングは居た。


「では、1回戦の選手は準備をしてください!」


 俺はデッキをテーブルの上に置く。すると会場全体にミュージックが流れた。そして会場では応援団がエールを送っているが、この応援団はバーチャル世界の存在だが、中身はNPCだ。COMに「頑張れー」と応援されるのは少し抵抗があるが、場を盛り上げるパフォーマンスとしては上出来だ。

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