第20話 受験勉強
「じゃあ、次、問12の英文を訳してみて」
「私が好きです食べ物ケーキですおいしい」
「はぁ・・・」、と、詩織は呆れ顔でため息をつく。俺と詩織は受験勉強の最中だ。帝王高校の偏差値は52、科目は英語、国語、数学だ。数学は元々得意で俺が詩織を教える側に立っているが、国語と英語に関しては、まったく出来ない。
「MY favorite food is delicious cake、つまり、私の好きな食べ物はおいしいケーキですだよ!なんでこんな初歩的な英文も分からないの!?」
「単語の意味は分かるが、言葉の並べかたがわかんないんだよ」
俺は詩織に英語を教えてもらっているが、文章の組み立てがさっぱり分からない。3年生の勉強の追い上げの時期だからこそ、今のうちに勉強して、何としても試験に受からないといけないのだ。
「次は問13だよWe can understand how to study English 、これ訳して」
「私たちはできる。なんで英語を勉強するか」
「千歳君、ちゃんと英語の授業受けてた?howはなぜじゃなくてどのように、だよ」
「ごめん」
英語ってなんで勉強する必要があるのだろう?俺は海外で仕事をする気はないし、外人の知り合いもいない。世の中にTOIECと呼ばれる資格があるから全く使えないことはないだろう。英語は俺の特に苦手な科目でテストは毎回平均40点だ。
「次は国語やろうね、この問題解いてみて」
「筆者が言いたいことは何か?え?この文章全部が言いたいことじゃないの?」
「文章の構造をよく見て、段落ごとに分かれているでしょ。段落ごとに主張の区分分けがあって、そこにはキーワードがあるの。4つの選択肢のうち2つは全く関係ない回答で、1つは正解、残りは文章では告げてるけど、事実の表記であって、主張でないし、それにね、正解はキーワードとしてあるけど、違う表現で表しているから、直には書いてないの」
「国語って捻くれてるな」
俺の得意科目の理科、社会、数学のうち、数学しか試験では出ない。理科が理系で社会が文系だから先生からしたら、どちらの分野を取るか悩ましいらしいが、俺は構築を考えるのが苦手だ。
「千歳君は文章読むのは苦手だけど、単語覚えるの強いよね?だったら漢字はどう?」
「俺、漢字検定2級だよ」
漢字を覚えるのも英単語を覚えるのも理屈は同じだ。漢字にも英語にも部分ごとに何かしらの意味がある。その関連性を覚えれば、大体は覚えられる。
「すごい、漢字や熟語に関しては完璧だね。英語の英単語も完璧だし、千歳君はなんで文章問題がこんなにもできないのかな?」
詩織は腕を組んで考え込むが、その理由は俺にもさっぱり分からない。文章が読めないわけではないが、特に英語はどういう理屈で英単語が並んでいるかが理解できない。英文の先頭から順番に単語の訳を並べても分からないから、いつもてきとうに日本語訳するが、1割ぐらいの確率でしか正解しない。
「なら簡単な問題を出すね。I like cakeこれ訳せる?」
「私は好きですケーキ」
「千歳君、ケーキと好きです、の位置入れ替えてみて」
「私はケーキ好きです。おお!できた!」
解けたのはいいが、なんで入れ替えるのかが分からない。英文の流れだと、私、好き、ケーキで確かに私はケーキ好きですとなるが、ならなぜ、I cake like にならないのか。外国人の思考は理解できない。冒頭からいきなり、後ろ行って、そしてなぜそこでUターンする?
「なら、さっきの英文のMY favorite food is delicious cakeも同じようにやってみて」
「先頭行って後ろ行って、そこからUターンすればいいんだな!」
「私、そんなこと言ってないけど」詩織は手を頭に当ててため息をつく。
「私のケーキ美味しい好きな食べ物です。っておいこれ正解なのか?」
「さっきも正解いったけど、これでは不正解です!」
英語とはなかなか難しい。先頭から後ろ行ってそこからUターンでは解けないようだ。
「こうなったら千歳君はこれから毎日英会話のCDを聴いてもらいます。国語は過去の問題集で練習しよう!分かった!?」
「は、はい」
詩織の迫力に俺はびくっとなって否応なしに返事する。
「次、数学やろっか」詩織は鼻歌を歌いながら、席に座り、カバンから教科書を取り出す。
「私は数学苦手だから千歳君に教えてもらいます!よろしくね」
「はいはい」と返事し、俺は問題集を開いた。受験まで後3か月まで迫っている。俺は少し焦りと不安がある中、日課としている英会話のCDを聞く。
I can understand Why English is very important。
「私はなぜ英語がとても大切かを理解できる」
これがこの数か月英語を勉強した成果だ。そこまで難しい英文ではないが、俺にとっては大きな進歩だ。そして試験日当日となった。
「あー、緊張するな」俺は受験票を持って自分の席へと座る。周りは参考書を読んだり、ノートを眺めている生徒が多い。今更そんなことをしても無駄だと思うが。そんな中1人だけ大事な試験日なのにペン回しをしている奴がいる。どんな面しているか気になったため、視線を向けると木村優希の姿があった。
「木村優希!」
「おやおや、川原君か、君がここにいるのは意外だったよ。だが今は試験会場だよ、大声を上げるのはやめたまえ」
気が付くと周りの視線がこちらに集まっていたため、俺は黙って自分の机に顔を向ける。「ガチャ」とドアが開き、試験官が問題を配る。試験開始から数学と国語が終わり、出来としては順調だ。そして最後は英語だ。英語の問題はリスニングの問題は毎日英会話を聴いていたので、余裕だった。問題は文章問題だが、問題の難しさより、試験時間の方が壁だった。
「そこまで!」
その合図と共に場の緊張感が緩み、試験のプレッシャーによる疲労も吹き飛んだ。そして合格発表の日。
「千歳君やったね!」
「詩織もよかったな」
俺たち2人は無事試験を合格し、それぞれの進路を歩む。
「今日で寮ともお別れだな」
「そうだね、ねえ千歳君、私たちこれでさよならじゃないよね、また、会えるよね?」
「ああ、当たり前だろ。体調には気を付けろよ」
「う、うん」
「あんまりムリするなよ」
「うん、千歳くんもけがには気をつけてね」
「また会えるよな」
「うん、きっと会えるよ」
淡々としたやり取りだが、俺の両目から雫がぽたぽたと落ちる。卒業に涙流すとかかっこ悪いな。だけど、止まらないんだ。これからが俺の人生の本番だと分かっている。だけど、ここで過ごした3年間、そして詩織と過ごした全ての瞬間が大切な思い出だ。1日たりとも忘れはしない。
「じゃあ、また会おうな」
「うん、また会おうね」
俺たちはそれぞれの道を歩いて行った。俺たちに「さよなら」の4文字は似合わない。木村優希、あいつに勝って、マスター部門で優勝する。それが今の俺の目標だ。自宅に帰ると、祖父たちが明るく迎えてくれた。これからのことを離すと「そうか、頑張って未来を掴んでこい」と言って、笑顔で励ましてくれた。そう、ここからが俺の新しい人生。高校生活が始まると。
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