第31話 最後の戦い

「私は神の聖域アイントラインを発動!」


 宇宙空間に浮かぶ1つの名もなき惑星に1つ輝くビルのような建物が出現する。


「このカードは自分のターンに1度、手札の神と名の付くモンスターのサイズを1にして召喚できるが、この効果で召喚した神のモンスターのパワーは0となる」


 パワー0の神のカードを出すことの意味が分からない。神のモンスターはその強力な効果はもちろんだが、それ以上に優秀なパワーと打点が売りだ。それを0にしてまで出す必要があるのか?


「私は電脳神レオングレブを召喚する。このカードのパワーは0だが、このカードは戦闘で破壊されない。そして自分のターン開始時、デッキから2枚マテリアルを出せる。ターン終了だ」


「俺のターン!」


 やつの電脳神を突破しないと毎ターンデッキからマテリアルを2枚出されて、神の猛攻に耐えることが出来なくなる。だが、電脳神は戦闘では破壊されないが、カード効果では破壊できる!


「俺は手札から夢幻の爆裂を発動!自分の手札のモンスターを1体破壊することで、相手の場のモンスター1体を破壊する!」


カードの発動と共に、相手の場の電脳神から爆発が起こる。


「やったか?」


 爆風が止むが、電脳神の姿はまだそこにあった。


「神の聖域のアイントラインの2つ目の効果は神のモンスターを対象とした破壊効果を無効にする。これにより、私のモンスターは無傷だ」


 だが、それは想定内だ。


 「俺は夢幻の爆裂の効果で破壊した手札の夢幻の呪魂の効果を発動!このカードが破壊されたとき、相手の場のモンスター1体のモンスター効果を無効にする」


「なに?」


 さすがのやつも手札のモンスターの破壊時効果までは読めなかったか、ここで活路を開く。俺は夢幻のユニコーンを召喚する。召喚時効果で、デッキから2枚ドローし、手札からオブジェクトを発動する。俺はこの効果で夢幻の灯台を発動!いけユニコーン。あの電脳神をお前の角で貫け!黄色の魔法陣から紫の大きな角を持ったユニコーンは一直線に電脳神に突進し、その体を角が貫いた。


「よし、まず1体!」


「私のターン、ドロー!」


「なあ、そろそろ素顔を見せたらどうだ?あんた間違いなく人間だろ?」


「・・・」


 マザーは黙ったまま、こちらを見るが、それに頷き、仮面を取る。


「部長!?」


嘘だろ。その顔は間違いなく中学の時、一緒に活動していた直江弘樹だ。


「なんで先輩がここに!?いや、それよりもなんであんたがマザーなんだ!?」


「黙り給え、僕はアングリルワールドの支配者のマザー、直江弘樹と言うのは偽りの顔に過ぎない。そしてこの世界に終焉をもたらすものだ」


あの優しかった先輩の正体がマザー?そんなの俺は信じられない。


「なあ、先輩。なんでバグで世界を支配する必要があるんだ?」


「支配?それは違うな。バグとは人間の心の闇の象徴なのだよ。バグは元々世界に微量ながら存在していた。あるとき、そのバグのエネルギーを利用し、そのエネルギーをカードとして悪用する人間が現れた。それからだ。バクが世界に広がったのだ。お前たちは勘違いしている!バグが世界を狂わせたのではない、お前たちがバグで世界を狂わせたのだ!」


 間違ってはない。呪魂の魔法陣と呪魂の鳳凰陣、その2枚のカードはバグカードだ。バグカードは人の精神を狂わせる。人を狂わせるきっかけを作ったのは、プログラムではない、人だ。


「なら、もう一度チャンスをくれないか?俺たちは確かに過ちを犯した。だが、人間は失敗を学ぶ生き物だ。俺たちはこれから二度とバグを利用しない。だからバグの侵攻を止めてくれないか?」


「くだらない。僕はそんな人間を何度も見てきた平気で人を利用する者、人をだます者、人を傷つける者。お前たちは僕だけでなく、僕の作りだしたバグカードも利用したことに変わりはない」


「部長がバグの開発者!?」


「そうだ」





 帝王小学校4年になったある日、直江弘樹は両親に捨てられた。父親の不倫がきっかけで両親は離婚。直江は父方に預けられたが、毎日のDVで心が壊れかけていた。不倫した父を持つ子供。その世間体で直江は小学時代、毎日のようにいじめられた。絶望。虚しさ。直江は世界の破壊の種子となるバグの存在に興味を持ち、それを現実のものにした。バグはこの世界のタブー。決してこの世の表に出してはいけないものだ。中学になった直江はカードゲーム部の活動をしながら、バグの研究を始めた。最初は家族が自分を捨てたことに対する憎しみの道具としてバグを使うつもりだった。しかし、部活のメンバーと触れ合ううちに、バグカードを未来の科学の新技術の応用となるエネルギーとして使う道を考えた。バグは直江にとって、世界への復讐ではなく世界への飛躍として使うはずだった。そのはずだった。だが、バグの存在が世間で広がったとき、人々は有意義に使うどころか、人の精神を狂わせるカード、バグカードとして、直江のバグを利用したのだ。直江にとってバグカードはいい意味でも悪い意味でも心の支えだった。そのバグを利用し、人を傷つける道具にした。この現実を知った科学者は二度と、バグを先端技術のエネルギーとして使うことはない。


「僕は人々のバグのエネルギーを利用してアングリルワールドを生みだした。僕が人類を滅ぼすのではない。お前たちが僕の愛するバグで勝手に自滅するだけだ」


「だからと言って、無関係の人間を巻き込んでもいいのか!?」


「知ったことか。なら世界はなぜ僕にチャンスをくれなかった?僕は何度もやり直したいと思ったさ!だが、お前たちは僕に1度もやり直すチャンスを与えなかった。話はここまでだ。人類は僕が滅ぼす!僕のターン!」


 直江は手札から場にカードを出した。それはモンスターと言うより歌姫だ。


「妖精神コーラステラファを召喚する!」


また新しい神のカード、そしてパワーは0。


「このカードを召喚したとき、手札のモンスターのスキルを全て発動できる!」


 今度はスキルを活用する効果か!?


「僕が発動する効果は雷の神トールのスキル効果、相手の場のモンスターを1体破壊し、相手に5ダメージ与える」


 カードから宇宙の彼方に雷撃が走る。その雷撃は天から急に俺の肉体にダメージを与える。


 「そして富の神マネライズのスキルで手札を全て捨て、デッキから6枚ドローする。ターンエンドだ」


 「俺のターン」


 強い、今までのどの相手よりも、奴のデッキからはとてつもないパワーを感じる。


「俺は夢幻解放を発動!手札のオブジェクトカードの消費MPをこのターン0にし、手札から夢幻信仰、夢幻洞穴、夢幻草原を発動する!」


これでジャガンジアを出す条件は整った。だが、ジャガンジア1体では奴の神に太刀打ちするには荷が重い。


「3枚のオブジェクトカードを破壊し、夢幻龍ジャガンジアを召喚する!いけ!ジャガンジア、相手モンスターを倒せ」


 妖精神の正面にジャガンジアのブレスが襲い掛かる。歌姫のような悲鳴をあげ、消滅した。


「僕は皇帝神ラディーナクロスを召喚。モンスター効果で次のターン、相手はカードを手札からプレイできない」


 次の1手すら封じられた!?神のカードが出る限り、俺に勝機はない。どうすれば、やつのライフにダメージを与えられる?


 「皇帝神ラディーナクロスで夢幻龍ジャガンジアを攻撃!」


パワー0の神で攻撃!?行動制限以外にまだ別の能力を隠し持っているのか!?


「皇帝神が倒されたとき、相手の場のモンスターを1体破壊する。更にこの効果で破壊したモンスターと同じサイズの神と名の付いたモンスターをデッキからサイズ1にして召喚できる!」


 くそ、反則効果ばかり使いやがる。これが神の力なのか。たった1枚でも絶大な能力を持っているのに、それがデッキの大半となると、勝ち目などあるのだろうか。「こい魔界神グレナビューダ。プレイヤーに直接攻撃だ!」あのモンスターの打点は6。この攻撃を受ければ、俺のライフは4になる。闇の渦に飲み込まれ、息苦しさで意識が遠くなる。


「し、お、り・・・」


俺は意識を失った。

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