第12話 再戦
入院して2か月経ち、季節は春。入院していた分、遅れていた勉強は詩織に教えてもらいながら、何とかテストで平均、70点以上は取れるくらい取り戻した。勉強よりどちらかと言えば、体がまだ本調子ではなく、体育はまだ、見学だ。学校もそうだが、俺はもう一つ決着をつけないといけないことがある。あの中年男だ。日曜日の午後2時、俺はまた前にやつと戦ったボロボロのカード店の前。
「お、坊主また来たか」
「ああ、あんたとは決着をつけないとな」
「いいだろう、ほら、コネクターの中に入りな」
俺は罠と分かっていながら、コネクターに入り、バーチャル世界とリンクする。だが、コネクターが俺に見せる風景は以前の東京ドームではなく、隔離病棟、しかも俺がいた部屋だ。
「ほう、なかなか陰気な場所だな。相当辛い思いをしたようだな」
「まさか、この世界は俺の心の在りようがそのままになった世界」
コネクターにはプレイヤーの脳内の記憶をデータに干渉し、その中の一番強い記憶を呼び覚ます設定に奴はしたというのか。
「さあ、今日こそ貴様の命日だ」
奴は本気だ。だが、なぜやつは俺にここまでの憎しみを持っているんだ?ただの悪意にしてはたちが悪すぎる。
「お前の父さえいなければ、私は今頃大金持ちになって、私のこの店のも潰れずに済んだんだよ!お前を今日ここで叩き潰して、今度こそ地獄に送ってやるさ」
「くだらない理由だ。そんな理由で今の俺に勝てると思うなよ!」
俺はデッキからカードを引く。岸田さんのレクチャーは無駄にしないためにも、しっかりと夢幻デッキを回すことが大事だ。
「夢幻解放を発動!このカードの効果でこのターン、夢幻と名の付いたオブジェクトの消費MPは0になる」
「む、夢幻だと!?光剣軍ではないのか!?」
「さらに手札のオブジェクトカード夢幻輪廻、夢幻開口、夢幻暗夜を発動し、サイズ1の夢幻の使徒を召喚してターン終了だ」
「私のターンだな」
初手はこれでいい。手札は1枚になったが、これが夢幻デッキの理想のムーブとなる。奴は右手を上げ、カードを天に向ける。
「私は呪魂の魔法陣を発動する!」
きた、俺を地獄に導いたバグカード。そのカードの強さと危険性は今となって理解できる。
「1つ教えてやろう。お前の父、川原良平を殺したのは私だ」
「なんだと!?」
俺は奴を強くにらみつけるが、奴は話を続ける。
「6年前、私はこのカードショップの店長だった。当時の私は売り上げも悪く、店の客も来ないため、閉店間近だった。だが全国大会の話が来たときはチャンスだと思ったんだ。ここで優勝すれば、優勝した私は崇められ、客足が伸びると」
「つまり、父さんに負けた腹いせか」
「そういうことだ。息子のお前を消して、この復讐劇を終わらせるのさ!」
やつはナイトメアクラノスを召喚する。「またあいつか」と呟き、奴は大声で笑う。奴の次のカードは間違いなくあのカードだ。
「呪魂の魔法陣を発動する!さあ、呪われし亡者の叫びを聞くがいい!」「ふん」と俺は笑い、俺は腕を組み、奴を挑発する。
「な、なにがおかしい?」
「あんた、くだらないよ。父さんだって決して希望だけを見ていたわけではない!お前になくて、父さんにはあったもの、それは愛だよ。欲望しか頭にないお前が、父さんに勝てないのはあたり前だ!」
「黙れ!」
対戦は続き、両者の駆け引きが進む。俺のターンとなり、デッキトップからカードを1枚引く。俺は目を閉じ、全てを悟った。「これで終わりだな」といってカードを出す。
「こい夢幻龍ジャガンジア!」
このカードは自分の夢幻と名の付いたカードを3枚破壊することで、出せるカード。ジャガンジアはモンスターとしても強力だが、本当の狙いは破壊そのものにある!
「俺は場の夢幻開口、夢幻輪廻、夢幻暗夜の破壊時効果発動!夢幻開口は相手の場のモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターを相手の手札に戻し、相手のメインフェイズでもう一度、召喚する効果、夢幻開口は相手の場のモンスターが破壊されるたび、相手に2ダメージ与える。最後の夢幻輪廻は次の相手のターン、相手がうけるダメージを2倍にする」
奴は焦りを見せ「だからなんだ!」と言うが、もうこちらの勝ちは確定している。
「最後にジャガンジアのモンスタースキルで次の相手ターン、相手はカードをプレイするたび、2ダメージ受ける」
「ばかな!?」
そう、夢幻暗夜で3体のモンスターを破壊し、夢幻開口で6ダメージ、そして3体のモンスターを再度手札からプレイするので、ジャガンジアのスキルダメージが6、そして夢幻輪廻でダメージを2倍にするので、12ダメージ合わせて18ダメージだ!
「うぉおおおお!」
魔法陣の星のマークとそれを囲む円がやつの足元に現れ、やつは叫びながら、苦しみだす。それを見かねた俺はすぐさまバーチャル世界から両プレイヤーを現実世界へと戻した。
「俺の勝ちだ。もう俺に関わろうとするなよ」
俺はその場からゆっくりと立ち去り、奴はその場にうつ伏せで倒れる。終わったんだ、
卒業式、俺は、いや俺たちは小学校を卒業した。その帰り道、1人で家に帰ろうとしていた俺に「おーい」と詩織は手を振って向かってきた。
「私たち卒業したね。覚えてる?あの約束」
約束?なんかあったかと俺は頭を巡らせるが、ちょっと前に掃除当番を変わるという約束が真っ先に浮かんだが、今となってはその約束は何の意味も持たない。素直に忘れてしまったから聞いてみる。
「なんか約束したか俺たち?」
「ええー忘れたの?」とあきれ顔で言うが、そして俺に詰め寄ってきて、頬にキスをする。
「ええ!?」
「中学まで私が千歳くんのこと好きだったら、恋人同士になる約束だよ!私、今でもずっと君のこと好きだから、これで恋人同士だね!」
「は、はい」
そういえばそんな約束していたな。あの文化祭の時、俺はもし、詩織が中学になるまで俺のことを好きだったら恋人同士になる約束。今となっては恥ずかしいが、だが、決して嫌というわけではない。じーちゃん、ばーちゃんにその事言ったら、たぶん「未来の嫁さんゲットじゃな!」とか言って、茶化されるだろう。俺たちがこれから進む柳田中学校。俺はそこへ行ったら恐らく学校の寮で生活することになるだろう。家をしばらく出ることになるからじーちゃんやばーちゃんに寂しい思いをさせてしまうのは心苦しいが、家から中学へ通うとなると、2時間近く時間がかかる。
「そういえば詩織、俺、中学になったら寮生活になるけど、お前はどうするんだ?」
「そうだねぇ、私も寮での生活になるかな」
「そっか、なら女子寮の連中とうまくやれよ」と言うと、詩織は俺に近寄り、耳元でこういった。
「私、千歳くんと同じ部屋に住むから」
「ええ!?」
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