第11話 夢幻デッキ
「私が主治医の三浦です。私に尋ねたいこととは何でしょうか?」
「はい、俺は呪魂の魔法陣と言うカードを使われ、負けたときにバーチャル世界で精神的におかしくなりました。ただ、友達が言うには、そのカードは人体に大きく影響されるわけではないと聞きました。ならどうして俺は、入院するほどひどい目にあったのかを知りたいのです」
「ふぅむ」と三浦先生は考え込み、そして口を開く。
「もしかしたら川原さんの過去に関係するかもしれません。川原さんは自覚が無かったとは思いますが、あなたは軽いうつ病の症状があったのです。一般的な人と比べ、幼少期辛い思いをしていた川原さんにとって、このバグと呼ばれるカードの影響は非常に大きかったのだと、私は思います。バグカードはその人の記憶の一番つらい記憶や思い出を呼び覚まし、その感情を増幅するカードと言われています。普通の方なら、1時間くらいすれば、もとに戻りますが、川原さんは例外でした。ただ、忘れないでください。川原さんは過去ではなく今を生きようとしています」
「はい!ありがとうございます」
主治医との話が終わる。夕食の時間、隔離病棟の数人がこっちに移されるのを見た。3人のうち2人はお年寄りだが、1人だけ髪はボサボサで垂れ目のため、おぼつかないが、おそらく20代前半だろう。だが俺が気になったのはその容姿でなく、彼が手に持っているバーチャルストラテジーのデッキだ。この病棟は特別カードの持ち込みは貸し借りをしなければ禁止されていないが、ここにいる大半の人は40代から60代のため、当然カードゲームすらやっていない人が殆どだ。バーチャルストラテジーのカードを持って、この場にいるということは彼もあのバグカードの被害者か?夕食のお盆を持って、端の席に座る。と言うのも、自分がこの場で一番の最年少で、この場で世間話をするには俺は若すぎるため、いつも1人の端の席に座るのだ。
「お、ここ、ええか?若いあんちゃん?」
「ん?いいけど」
「じゃあ座らせてもらうわ」
珍しい客人だと思ったら、さっきこっちに移されたボサボサ頭の男だった。彼はこっちを見て、ニヤッとした笑顔を見せ、こちらの様子を伺って口を開く。
「君、バーチャルストラテジー経験者やろ、ポケットのカード見えてたで」
唐突すぎた一言に俺は少し動揺するが、「まあね」と答える。
「だけどな、そのポケットの光剣軍シラヌイは光剣軍デッキには入れない方がいいで。本来SPを何回も消費して回すのが光剣軍のセオリーなのにそのカードは単体で消費するSPは多いし、サイズのわりに打点が低すぎるんや」
「は、はぁ、そうなんだ」
いきなり話しかけてきて変な人かと思ったけど、バーチャルストラテジーに関して詳しいのは分かる。
「あんちゃん、よかったらわいと勝負せんか?」
「え、今飯の時間だけど」
「食い終わったらの話や」
「分かったよ」
20分後、長方形のテーブルを2つくっつけ並べると、俺と彼はデッキを机に置いた。5ターンくらいたっただろう。彼の使うデッキ夢幻と言うテーマは異質の動きをする。本来バーチャルストラテジーはマテリアルを毎ターン1枚ずつ出してサイズ1、サイズ2と順番に出して、それをサポートするオブジェクトカード、魔法カードを出して、メンコ勝負するのがセオリーだが、無限は違う。夢幻は自分のカードを次々と破壊し、破壊時効果で盤面を強化するデッキだ。
「わいの切り札や。こい夢幻龍ジャガンジア!」
「ジャガンジア!?」
このジャガンジアというカードに関しては化け物だった。パワー3500、打点4、ステータスも高めで、効果が1ターンに1度相手の手札を見て1枚捨てる。このカードが破壊されたとき、相手の場のモンスターを全て破壊する、さらにスキルとして相手は次のターン、手札からカードをプレイするたび、相手に2ダメージ与える。の恐るべき効果を持つ。弱点とすれば、このカードを召喚するとき、自分の場のカードを3枚破壊しないと出せない点。本来それが弱点になるはずだが、破壊する対象はモンスターでなくてもオブジェクトでもよい。しかも破壊されたときに効果を発動するオブジェクトを並べてくるので、余計に対策しようがない。
「あんちゃん、一つ聞くが、なんで君は光剣軍を使うんや?明らかに君のスタイルにあっていないと思うんやけど?」
「それは」
そう、このデッキは父、川原良平が使っていたテーマだからというのが率直な理由だろう。だが、彼の言う通り俺は光剣軍を使いこなせていない。
「わい、名前を岸田って言うんやけど、よかったらわいのデッキとえっと、川原くんのデッキを交換するのはどうや?」
「交換!?」
「君のプレイングスタイル見ると、立ち回りやカードを使うタイミングが光剣軍と言うより、夢幻なんやわ」
父へのあこがれで使っている光剣軍デッキ。だが、このデッキでは今の俺では、あの呪魂の魔法陣に勝つことは出来ない。
「条件がある。お願いします!俺を強くしてください!」
「ふふ」と岸田は笑い、右手でグーの形を作って見せた。
「なら、夢幻デッキの戦い方を教えんとな」
岸田は俺の光剣軍デッキを受け取り、俺は夢幻デッキを手に取り、デッキのカードを1枚ずつ並べる。
「ええか、夢幻デッキは基本的にオブジェクトをどれくらい使いこなせるかが鍵になるんや。SPとMPの違いはSPを回す場合、表にしたカードを全て暗記して立ち回る必要があるが、MPは暗記力より、大胆さと計算力、先を見越したやり繰りが大事になるんや」
このゲームにはSPとMPがある。SPはモンスターのスキルを使用するときに必要なカードの枚数でMPは魔法やオブジェクトカードを発動するのに必要なステータスとなる。
「そして、夢幻オブジェクトはとにかく並べればいい訳じゃなくてな、魔法カードとの組み合わせで発動することが大事なんや。これ見てみ」
岸田は魔法カード、夢幻解放をこちらに向ける。
「そうか!」
「そう、この魔法カードは夢幻と名の付いたオブジェクトのMP消費を発動したターン、全て0にする効果があるんや。つまり、このカードがあれば、手札に4枚オブジェクトがあれば、全てMP0で使えるというわけやな。ただ夢幻デッキは同じカードをデッキに1枚ずつしか入れられない」
「1枚ずつ」
夢幻デッキは見る限りどれもパワー、打点、スキル、効果そのすべてにおいて他のデッキより長けているが、その代償としてカードテキストにもあるが、同名カードは入れられないと書いてある。つまり、他のデッキみたいにコンセプト通りに立ち回るのが難しい。
「わいも暇しとったし、退院するまで特訓しような。お前をめっちゃ強くしたるで」
絶対強くなってやるという想いと決意が固まり、俺と岸田さんは毎日特訓の日々に明け暮れた。ここでの生活は残り1か月となったときは暇すぎて死にそうな思いをしていたが、岸田さんとの特訓で毎日いろんな発見があって楽しかった。また、時々来る詩織との面会でも「千歳くん、凄く楽しそうだね」と嬉しそうに言われ、改めて岸田さんに感謝する。病棟では連絡先の交換は許されないため、退院が決まったとき、岸田さんとはもう二度と会えなくなるが、退院する前に彼の前で告げた。
「今までありがとうございました!」
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