第5話 復帰

「このマテリアルってカードが重要なんだな?」


 俺はルールブックを見ながら、新田に問いかける。


「うん、マテリアルは基本18枚デッキに入っていて、ダメージを受けたときやスキルを使うとき、またモンスターを召喚するときに使うんだよ!」


「へえ」


 本人には言えないが、さっぱり分からん。俺が馬鹿なのかそれとも新田が説明するのが下手なのか。どちらにせよ、ただ口頭で説明されるだけでは分からない。


 「とりあえず、新田。1回遊んでみないか?そうすればなんとなくでルールを分かるはずだからさ」


「分かったよ。川原くん、どっちのデッキ使う?水妖精デッキと光剣軍デッキあるんだけど」


「光剣軍デッキ」光剣軍デッキは俺の父、良平が人生を駆けた大会で使っていたデッキだ。父さんは言っていた。光剣軍デッキは使い手を選ぶデッキで、使いこなすには記憶力、計算力、そして判断力が問われるとても難しいデッキだと。俺は父さんが使っていたデッキがどんなデッキなのか知りたくて、ルールをまだ軽く触れた程度だが、光剣軍デッキを指さした。


「光剣軍デッキを選んだんだ。川原君、いいチョイスをしたね!私は水妖精デッキを使うね。水妖精デッキ使うのが難しいから大丈夫かな?」


「ちょっと待て!」


「はい?」


 俺はこのゲーム始めたばかりだが、今のセリフと俺の聞いていた情報を纏めると、この女、両方とも使うのが、難しいデッキを提案してきたのか!?俺、初心者だぞ、ルール覚えたての人間にそんなことするか普通!?やっぱ、こいつ天然なのか。まあいい、気にしても仕方がない。俺は新田に言われた通り、カードを並べる。手札7枚、SPゾーンと呼ばれるところに10枚、ライフゾーンに15枚カードを置く。SPゾーンはスキルを発動するのに必要なエネルギーを解放するゾーンと言われるらしい。ライフはカードになったプレイヤーの生命体を支えるエネルギー。カードをお互いに並べ終わり、顔を見合わせる。


「私から行くね。私は歌姫の都と妖精の洞穴をMP合わせて200払って発動」


 おいおい、なんかいきなり強そうなカードというより、虹色に輝いているカード2枚出したぞ!?MPって何?全く理解できない。


 「妖精の笛を発動。デッキから10枚ストレージに送り、デッキからサイズ1の水妖精ウンディーネを1枚手札に加える。そして」


 「ちょっと待った!」


 新田の顔の前に手を出し、扇形に振って、彼女の意識をこちらに向ける。


「いきなり色々発動されても、俺、全然分からないって。1つ1つ分かりやすく説明してくれ!頼むから!」


「あ、ごめんなさい」


 新田は手を止めて、歌姫の都と書かれたカードを手に取る。


 「あのね、このカードはオブジェクトって呼ばれるカードなの。プレイヤーにはそれぞれマジックポイント、通称MPと呼ばれるステータスがあってね、オブジェクトや魔法カードはMPを消費することで発動できるの」


 俺の光剣軍デッキを見て、右上にオブジェクトと書いてある光剣軍の学び舎というカードがある。


 「これがオブジェクトか。テキスト量が多くて、何が書いてあるか全く理解出来ん」


 「オブジェクトカードはね、MPを払えば、ずっと場に残って効果を発動し続けるカードなの。魔法カードは使い捨てで、戦うのはモンスターカードだよ」


「へぇー」


 光剣軍始動!のカードは魔法カードか。


「なんか、サイズ1の光剣軍モンスターを1枚手札に加えるって書いてあるけど、サイズって何?」


「サイズはねモンスターの大きさだよ!」


いや、単的すぎるだろ。


「あのさ、このゲームにおいてのサイズの意味を教えてくれ」


「あ、そうだね」と照れながらいう彼女は、さっきまで鬱気味だった彼女の面影が完全になくなっていた。


「なあ、もし元気が戻ったら、また学校に来ないか?」


 この話題を切り出していいかどうか少し悩んだが、ここに来た本当の目的は新田をまた学校に復帰させることだ。


「私、こわい」


「こわい?」


 彼女は今にも泣きだしそうな顔で答える。


「またいじめられて、つらい思いをして、学校に行くのが怖いの」


「そうか」


 事の発端はあの女子グループだ。あの時の俺は完全に傍観者だったが、今は新田のために何かをしたい。それが素直な気持ちだ。そうだよね、父さん、母さん、これでいいんだよな。


 「なら俺と友達になろう!別に恋人同士じゃあるまいし、友達同士つるんでいれば、ごちゃごちゃいう連中はいなくなるさ」


「え、恋人同士じゃないの?」


「俺ら、いつから恋人になったんだ?」


「ふふ、冗談だよ」


 ここに来たときは新田を元気にできるか不安だったが、今の様子なら大丈夫だな。


「じゃあ、バーチャルストラテジーの特訓するから、気合入れてね川原くん」


「お、おう」


 あのあと、ずっと特訓につき合わされ帰る頃には、フラフラな状態だったが、無事、元気を取り戻してくれてよかったというべきか。だが、これで全て解決したわけではない。むしろここからなのだ。あの女子グループから新田を守らないといけない。男同士なら分かりやすくてシンプルだが、女同士は男よりも精神的に少し大人な分、厄介だ。どうしたものかと考えながら、新田から借りたルールブックを自室で読んでいた。担架を切ったのはいいが、どうしたものかね。元々人間関係には疎い俺にとって他人の人間関係を手助けするなど、身の程知らずかもしれない。こういうときにはじーちゃん、ばーちゃん、に聞くのがいいと思い、夕食も兼ねて聞くことにした。


「新田のやつ元気になったはいいけど、あとはいじめ問題を何とかしないと駄目なんだ!」


二人はうーん、と悩む。


「誰か支えてくれる友達がいれば、何とかなると思うよ。千歳、お前がその新田って子のナイトになれば、いいんじゃないかい。友達同士支えあえば、意外と何とかなるものだよ」


「それでもだめなら教育委員会に訴えればいいかのう、ねえ、ばあさん」とじーちゃんは言う。


「そうねぇ、今の千歳がその子を支えてあげれば、きっと大丈夫だよ。千歳はもう一人じゃないからね、だから大切な友達を守ってあげるんだよ」


 じーちゃんとばーちゃんに「ありがとう」というと俺は自室へと戻り、寝る支度をした。朝、俺は玄関ならなるチャイムの音で目を覚ますが、まだ朝の6時半、新聞配達の人が間違えてチャイムを鳴らしたのだろうか。一応確認のため来てみれば「川原君!おはよう!」といきなり言われたので、ドアを閉める。


「ちょっと、なんでドア閉めるの!?せっかく朝迎えに来たのに」


「今何時だと思っているんだ!?6時30分だぞ」


「あれ?ごめーん1時間早く来ちゃった」


 こいつもしかしたらあほ属性の人種かと薄々思っていたが、予想は的中していた。


「まあ、いい。待ってろ。今支度するから」


 15分くらいで支度を済ませ家から出た。外は7時前ということもあって、人がほとんどいないし、風が涼しくて清々しい。


 「どう?バーチャルストラテジーのルールは覚えられた?」


 得意げに聞く新田に、俺は「まあまあ」と返事をする。昨日ずっとルールブックを見てたけど、ルール自体は難しくないが、トランプと違って、1枚1枚のカードに色んな単語があって、それを瞬時に判断するのが難しい。


「学校着いたな」


「そうだね、なんか久しぶりだなー」


 今の時間帯はクラスに人が少ないだろうが、人が来たら新田はどういう扱いを受けるのか?少々俺も不安である。


「川原くん、何も考えないで、おしゃべりしようよ。その方が私も楽だし」


「じゃあ、バーチャルストラテジーのことは話すか」


 次々とクラスに入ってくる生徒たち。彼らの目線はまず、新田に向けられるが、それ以上に誰かと楽しそうに話している俺の方に注目が集まる。遅れて、いつもの女子グループが入ってくるが、彼女らはこちらにちょっかいを掛けようとしない。その理由は彼女らの今の話題は新田がずっと話しているバーチャルストラテジーの大会だったからだ。

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