第6話 ショップ大会

 桜町寺門カード専門店カードゲームバーチャルストラテジーのショップ大会。3人チーム対抗戦、それが今女子グループの中でブームになっている。その理由はジュニアの部門でショップ大会で優勝すれば県大会に進めるのだが、県大会で優勝すれば、ハワイ旅行の特典がついてくるのだ。だが、ショップ大会で優勝したら賞金10万円がついてくる。腕に覚えのあるプレイヤーは最強チームを組んで挑んでくるだろう。


「川原君、私、この大会出たいです!」


「やめとけって。出場以前に俺たちチーム組もうにも1人足りないじゃないか。仮にもう一人いても俺は昨日ルールを覚えた初心者だぞ。足引っ張るだけだろうし、」


 そう言って、俺は屋上のベンチに横たわる。大会まであと1週間。景品は確かに豪華で、賞金が手に入ったら、じーちゃん、ばーちゃん、に譲りたいが、まあ、それは優勝できればの話だし、夢のまた夢だ。


 「でも、まだ1週間もあるよ!なら私たちなら優勝できるよ!私ね、優勝したらセレナ買いたいんだ!」


 「は?セレナって車の?」


「うん!」


 とても10万で買える品物じゃない。もっと、可愛いぬいぐるみとか、最悪レアカードなら納得できるが、新田の発想はどこかふっ飛んでいる。


「あのー、よれけば僕と一緒に組みませんか?」


「ん?」


 声の方へ振り向くと、メガネを掛けた、俺より少し背の高めのインテリっぽい男が立っていた。名札の色から同じ学年なのは分かるが、別のクラスの奴だろう。


「あの、あなたはだれですか?」と新田は聞くとその男子は右手の人差し指と中指でメガネを上げ、「僕は木村優希です」と自己紹介をする。いかにも理系な木村の雰囲気からはただならぬオーラがあるが、どこか心もとない。その理由としてはまず1つとして、いわゆるアホ毛が立っている。整っている髪型に1本角みたいに髪が立っているさまだ。


「僕と勝負しませんか。勝ったら僕と一緒にチームを組みましょう!」


「だからな、話を聞いてもらいたいのだが、俺はデッキ持ってないし、初心者だし、新田は強いかは分からないけど、俺たちと組んだとしても未来はないぞ」


 俺は呆れ顔でてきとうに流すが、後ろにいる新田は目を輝かせて戦闘モードに入っている。


「いいですよ、私が勝ったら、木村さんには私たちのチームに入ってもらいます」


「いいでしょう、僕が勝ったら、私はあなたのチームに入ります」


 あれ?結局どっち勝っても結果同じじゃん、と気づいたが、なんか面白そうだったので、黙っていることにした。


「僕のデッキは悪戯魔女と呼ばれるデッキです。当然ご存知ですよね川原君」


いや、知らねーし。


「私のデッキは電脳獣だよ、当然知ってるよね川原君」


 だから知らねーし。というかこの前の水妖精と光剣軍は使わないのか。


 両者の攻防は続く。どちらかと言うと新田の電脳獣というデッキが押してるように見えるが、木村のあのオブジェクト、暁の技術書と月光の魔術書の2つのカード。あれがすごく気になる。試合も終盤になり、2つの魔術書カードにそれぞれ7枚のカードがページに刻まれる。


「新田ちゃん、僕のこの2つのオブジェクトのカードが7枚たまった。この意味分かりますか?」


 ライフが残り3しかない木村だが、余裕の笑みを浮かべている。


「しまったこれは」


 新田が気づいたが、もう時すでに遅しだ。


 「今、僕のこのオブジェクトの封印を解き放つ!自分の場のモンスターのパワー+1500、そして打点+5です」


 やるな、あいつと心の中でつぶやくと、木村の悪戯魔女のモンスターのステータスが化け物並みに上昇し、一気に新田のライフを0にした。


「つ、強い。私の負けです」


「これで約束通り、僕はあなたたちのチームメンバーです。僕があなたたちを優勝に導いてあげますよ」


 俺は新田の肩にポンと手を置く。


 「まあ実力はあるみたいだし、チームに入ってよかったじゃん。後1人でチーム組めるからあとは頑張れよ」と言い残して去ろうとする俺の両肩を新田が左肩、木村が右肩に手を置き、「「川原くんも一緒に組むのです」」と二人は同時に言った。かんべんしてくれ。あまり人が密集しているところは嫌いだが、断ろうにも二人は許さないだろうし、覚悟を決めるしかない。


「そうだな、お前らが2勝し続けて優勝すれば問題ないな」と言うが、「うん、川原君、今日から毎日私の家に来てもらうからね」と許してくれない。


「いや、あなたたち、男女2人が同じ部屋はまずいですよ。そこは間をとって僕の部屋に来てください」


「いやいや、なんか行きたくない」


「仕方ないですね。じゃあ、新田ちゃんが僕の家来てください」


 あの、さっき男女同じ部屋はダメって言ったの、どこの誰だっけ?なんなんだ、このチーム、俺以外、馬鹿ばっかじゃないか!あーもういいや、とりあえず、この二人が強いのは分かったから、俺は最低限ルール覚えるだけでいいや。




 大会当日の日、会場はジュニアの部門の開催日のため、俺たちと同じ、小学生くらいの年代のプレイヤーで賑わっていた。「川原君、頑張ろうね!」新田のセリフに「ああ、それなりに頑張るわ」と返し、今日のために組んだデッキを手に持つ。俺の使用するデッキは店で3000円くらいで売ってた市販のストラクチャーデッキだ。モチベーションがそこまで高くない大会で、カード代をたくさん使えば、祖父に金銭的負担を与えるため、パックをハコ買いするなどの行為は出来なかった。このチーム戦のルールは先発二人が対戦をし、負けたら、2番手のプレイヤーと代わり、盤面は初期の状態にする。このルールの仕様上、1番強い人が1番手として戦うのがセオリーだが、先発であえて相手のデッキを解析して、一気に先攻する戦術も考えられる。


「で、お前ら順番どうするんだ?これはしっかり考えないと簡単には勝たせてはくれそうにないぞ」


「じゃんけんでいいんじゃない?」


「じゃんけんでいいですね」


「お前ら、人の話を聞け!」


 この二人に作戦云々いっても仕方がないのは分かった。


「もう知らん、てきとうにお前ら決めといて、俺ちょっとトイレ行くから」


「「はーい」」と同時に返事をし、俺はやれやれといったところでトイレへと向かったが、「あれ、何か忘れているような」と言いつつ、今日のカレンダーを見て、今日はじーちゃんの誕生日だということに気づいてしまった。


「あ、やば。じーちゃんのケーキ買ってこないと!でも大会あるし、でもじーちゃん、楽しみにしているだろうし、どうしよう・・・」


 まあ、俺の順番が来たらその時点で負け確だと思ったので、こっそりと店を出て、ケーキを買いに向かう。じーちゃんの好きなショートケーキと、ばーちゃんが好きなモンブラン、そして俺の分のチョコレートケーキシンプルだが、これが一番だろう。すぐに支払いを済ませ、ショップへ向かう矢先のことだった。


 「あれ?自転車が、パンクしてる」


 自転車がパンクしなければ、なんとか2回戦には間に合うと思ったが、このまま歩きではたぶん、決勝が終了する時間帯だろう。俺はなんとか走って会場まで戻り、息を切らしてついたころにはちょうど試合が終わっていた。しかも木村と新田の圧勝で。


 「あれ、川原君。どこへ行ってたのですか?おや?もしや、僕たち二人のためにケーキを買いに行ってたのですね!」


 違うわ。木村のあほ。


「川原くん、ありがとう、私のためにケーキ買ってきてくれたんだね」


 うん、もういいや、まあ俺抜きで二人とも頑張ってくれたのだし、じーちゃんには悪いけど、このケーキは彼らに渡すとするか。


 「すばらしい活躍でしたね!僕はただ見てるだけで、いいイメージトレーニングができました!」


 いいイメージトレーニング?ちょっと待て!木村!お前も何もしていないんかい!

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