第14話 動画活動
「you tube?」
俺はその単語を聞いて首を傾げる。部室でパソコンを眺めている詩織は説明をする。
「you tubeはインターネットネットで動画を見たり、動画をアップロードできるサイトのことだよ」
「へぇー」
俺は詩織の傍により、詩織の見ているパソコンを一緒に眺める。映っているのは、画面にリストとして並ぶ動画のサムネイル。クリック一つでアップされている動画を見ることができる。「僕も一応動画を載せていますよ」と言って部長の直江がさっきまで彼がにらめっこしていたパソコンの画面をこちらに見せて、得意げに、チャンネル画面を表示する。画面にはカードゲームの動画が映っているが、そこに載せてあるゲームはバーチャルストラテジーでなかった。「エンシェントグレイブ?聞いたことないゲームだな。どこのゲームなんだ?」と俺が尋ねると、彼はふふふ、と笑って「僕のゲームです」と言う。
「いいですか、カードゲームはバーチャルストラテジーが全てではありません。確かに既存のゲームを動画にするのはいいことでしょう。しかし!僕はバーチャルストラテジーに負けないくらいの面白い自作カードゲームを作る。それが僕の夢です!」
彼の口調からは本人の真剣さを感じる。バーチャルストラテジーが今世間でブームのカードゲームとなってからは、他のTCG、つまりトレーディングカードゲームのプレイ人口はかなり減った。コネクターを開発したストラはバーチャルストラテジーを紙媒体ではなく、VR世界でのバーチャルコンソールとして進化させた。その反面、バグカードと言うパソコンでいう、ウイルスソフトのようなものが生まれたのも事実だ。
「ところで、みなさん。長い中学生活、ただ、ボーとしているのは退屈でしょう。毎日の生活の中で新しい刺激を得るために僕とyou tube活動してみませんか?」
「you tube活動ってつまり配信者になることですよね」詩織は質問すると、直江はそうですと笑顔で頷いた。
「でも、you tubeって批判コメントとかアンチコメントがありますよね。私、批判とか嫌ですよ!」
「そうです!だからこそコメントと評価を出来ないようにするのです。我々はチャンネル登録車が0人動画0個から始める新人です。最初からそもそもコメントや再生数は稀なケースを除いてほとんど来ません。ですが、我々はカードゲーム部の活動をしっかりと形として残さないと、部は潰れます。それにカードを買う補助金をもらっている以上、何もしないという選択肢は当然ないのですよ」
確かにお金をもらっているなら、ただ、テーブルやコネクターで遊んでるだけでは活動の一貫としては認められないはずだ。その証拠として今残っていた部員は直江弘樹のただ一人。俺たちを合わせて3人の部活なら他校との練習試合を組むのも容易ではない。とはいえ自分の顔や声が動画に載るのは少々恥ずかしい。
「まず、手始めに、カードを買いに行きましょう!ここに10万円あるので、カードを1カートン、つまり12ボックス買います」
「「1カートン!?」」と詩織と俺は同時に叫ぶ。桜町の寺門カードショップ店へと向かい、店の扉を開けると小学4年の時以来に来た懐かしい匂いを感じる。それはカードプレイヤーが混ざりあう、部活の運動部の汗のにおいとは違う、熱意の温かい匂い。その匂いは当時、大会では逃げ腰で他人任せだった自分の未熟さを思い出させる。
「川原さんと新田さんはどのパックのカードを買いたいですか?」そう言われ、俺は店内のカードパックのコーナーを眺める。
「詩織、お前、買いたいパックある?」
「そうだねぇ、私、水妖精のデッキ強化したいから新弾の覚醒の狼煙を買いたい」
「新田さん、いい判断ですね!視聴者は新しいパックの全容を見たいはずです。なかなかいい筋していますよ」
直江はレジへと向かっていき、俺は自販機でミネラルウォーターを2つ買い、詩織と一緒に空いたベンチに座る。「ほらよ」と言って詩織にミネラルウォーターを手渡し、「ありがとう!」と言って詩織は水を受け取り、一気に飲み干す。
「おいおい、もう少し味わって飲んだらどうだ?」
「えへへ、だっておいしかったもん」
水1つで何言ってんだか、と思うが、満足してくれたのは素直にうれしい。遠くから直江部長が1カートン分のカードケースを持ってくるのを見て、改めて、1カートンのすごさを目の当たりにする。「これ、全部、カードなのか」と呟く。「みなさん、学校に戻りますよ。学校に戻ってからが本番です!」学校までの帰り道、途中で直江部長はケースを持つのに疲れて、途中で俺がバトンタッチするが、思った以上に重く、学校に戻すことには、肉体的にへろへろになっていた。
「では、みなさん。今からカード開封動画を撮ろうと思います!」
「開封動画?」
「そうです!買ってきたカードのパックを1枚ずつカードの説明や解説をしながらカメラに映します」
「えー、それ、難易度高そう。私にできるかな?」
詩織と同じく俺も同感だ。正直、夢幻と光剣軍のカード以外あまり把握してないので、うまく説明する自信はない。
「いいですか、まず、始めたばかりの動画投稿者がカードの開封動画を載せても再生数はおそらく2桁行けば奇跡と言えるのが現実です」
「それが分かっているのに何でやるんだ?」
「はい、動画投稿で大切なことは突発した1個の動画を載せることではなく、継続して、確実に動画数を増やすことです。一時的な高再生動画を作るより、地道に動画数と室を上げることがポイントになります。そのためにもあなたたちには経験値をためるためにも今日はパック開封で練習するのです」
動画投稿者として大切なことは再生数を稼ぐことより、継続することか。確かに継続は力なりという言葉がある通り、結果を出すことに焦って、継続をなおざりにすれば、結果がより離れていくわけだ。
「ど、どうもです。えっと千歳だよー」
「はい、カット!」
いきなり直江にカットされる。その理由も分かる。俺は冒頭の動画のあいさつの時点でグダグダである。思ったより、緊張するというか、いざ、動画を撮られていると意識すると、頭が真っ白になって、言葉の呂律が回らない。
「では、つぎ、新田さんです」
「は、はい!」
体がロボットみたいに固くなって動く詩織を見て、余計に不安になる。「ど、どうもです。えっと詩織だよー」
「はい、カット!あのですね、どうしてお二人とも同じような話し方をするのですか!?仲がいいのは構いませんが、ちゃんと改善すべき点を意識しないと駄目ですよ!」
「「すみません」」
俺と詩織は同時に謝る。
「まず、動画の冒頭のあいさつは統一しましょう。数こなせば、慣れてきます。例えば、川原さんの場合、みなさんこんにちは千歳です!くらいで問題ないです」
「はい」
「そして新田さんはどうもー詩織ですー。みたいに最初が川原さんでその後に続いて、新田さんの順番でいいでしょう」
「はーい」と詩織は返事をする。こうして俺と詩織、そして詩織のyou tubeの動画活動は始まった。
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