第21話 3000人組手

 目の前にいるドローンと向き合いカードを構える。実物の機械ではなく、バーチャル世界の産物であるにも関わらず、思考パターンは決められたプログラムによる動きではなく、まるで人間としてプレイする1人のプレイヤーのようだ。喋り方が片言でなければ、外見は伴うことはないが、PVPを完全に再現できる。コネクターSPによるバーチャル世界はリアルのカードゲームと違って、ゲームが開始すれば、ライフ、SPゾーン、手札が自動的に配置される。これらのカードの配列は完全にランダムではなく、乱数によって複雑な数的パターンの元によって決められる。乱数のトリガーはゲームの起動時間によって決まり、それを初期SEEDと呼ぶ。乱数は親のSEEDを元にパターンが決まり、そこからどれだけ乱数消費を行うかによって、完全にパターン化される。コネクターによる乱数消費はまずは徒歩によるものだ。乱数消費を1消費するのに必要な歩数は255歩と言われる。それ以外にもNPCに話しかけた回数やNPC自身がフィールドを歩いた回数でも消費される。中央の都市部にはNPCは150人いると言われている。話しかけたら、2つの会話パターンをランダムに発する者、1つのセリフを永遠に話し続けるもの。またミッションを提示するもの。NPCの乱数消費は1度話しかけたら1消費するわけではなく、NPCによって消費数は決まっており、会話パターンAの場合、乱数消費2、会話パターンBの場合、乱数消費3など。このバーチャルストラテジーのゲーム名は、以前はプレイヤー同士による対戦特化のツールとして作られたため、世界自体に名前は無かったが、今は、VSメモリーと。VSはVIRTUALとSTRATEGYの頭文字をとってバーサスと呼ぶ。今世界のあらゆる企業はこのコネクターSPを媒体とした新しいゲームを開発しているが、VSメモリーは常に時代の最先端で売上を、トップを維持し続けている。それはバーチャルストラテジーのカードゲームそのものの面白さだけでなく、中央の都市、メモライズの完成度にある。中央部のテーマパークが現実のテーマパークやアトラクション以上にリアルな感覚を再現していること、食品がリアルの空腹は満たせないものを、バーチャル世界のデータとなった人間の腹を満たせる食感。そして、今、俺がこの世界で行っているのは、いわゆるボスラッシュと言えば分かりやすいだろうか。帝王高校に入学し、まず俺たちが連れてこられたのは、個室とコネクターSPだ。俺は今、個室のコネクターからこの世界に訪れたのだが、そこで課せられた課題は3000人組手。つまり、敵のCPを3000人倒すまで、大会の出場を禁止されている。それから半年が過ぎ、俺は今ちょうど1500人目の敵を倒したことになる。PCとの戦いに勝つと、CPの強さに応じた報酬、コインが手に入る。このコインを使って、帝王高校の売店部でカードを特別な通貨のコイン、ノルで交換できる。3000人組手で勝てば、ノルが手に入るが、それだけでなく、プレイヤーランクが上がり、プレイヤーランクが上がるほど、より新しい弾のパックとノルを交換できる。俺のランクは1500人をちょうど突破したので、Bランクだ。ランクはそれぞれ0人から19人がFランク、20人から99人がE、100人から499人がD、500人から1499人がC、1500から2499人がB、2500人から2999人がA、最後に3000人に到達したプレイヤーがSランクとなる。Bランクでようやく半分を達したと思うと、喜びと達成感があるが、それと同時に、あと半分倒さなければならないという不安、疲労感もある。「つぎは1501体目、デッキテーマ、マキナデッキ。バトルスタンバイ」機械の音声と共に、次の戦いが始まる。ドローンとの対戦で負けた回数は53回だ。ドローンのデッキは対戦するごとにテーマが変わり、このゲームにあるデッキテーマは一般的には52テーマくらいだと推測されているが、同じテーマのデッキでも使っている魔法カードやオブジェクトカードの種類は若干違ったりする。そしてこのドローンのマキナデッキは俺は20回ぐらい対戦したことがある。マキナデッキはモンスターにメモリをセットして、モンスターの守りを重視して、フィニッシャーとしてマキナバトライズでリーサルを決めるデッキだ。マキナバトライズはこのカードにセットされたメモリの枚数分、追加攻撃できる、サイズ3のモンスターだ。パワーは2800、打点3だ。さらに1ターンに1度、自分のマテリアルをストレージに送ることで、デッキからマキナと名のつくカードを1枚このカードのメモリにいれ、相手モンスターを1体破壊する能力を持っているモンスターだ。マキナバトライズがメモリが5枚ある状態で、5回攻撃を受けたとき、プレイヤーは確実に敗北する。


「ピピ、私はマキナバトライズを召喚します」


 高音のドローンの声がこちらに鮮明に聞こえる。ブロックで構成された、ヒーローものの合体兵器のような見た目をしており、その両手にはビームサーベルを装備し、背中のターボから強い排出力で蒸気を発し、こちらに勢いよく向かっていき、灰色のオーラを纏ったジャガンジアをビームサーベルで迅速に断ち切る。


「ジャガンジアのモンスター効果発動!このモンスターが破壊されたとき、相手の場のモンスターを全て破壊する!」


「ピピピ、私のモンスターが全滅!?」


 ターン終了の合図とともに、俺のターンになり、デッキからカードを引く。手札は4枚、マテリアルは場に5枚ある。相手の場のモンスターは0で相手のライフは6.このターンで打点を6点分、出せば俺の勝ちだ。夢幻の死神が俺の手札から光を発する。この光はこの世界でのアシストシステムだ。アシストシステムを使えば、このターンにおける最善手をコンピューターの思考で示してくれる。このシステムはバーチャルストラテジー初心者の救済処置で、この光は相手の視点だと表示されない。ただ、一つ問題があって、それは不確定要素による行動だ。例を挙げれば、相手の場のモンスターにメモリが4枚あるとき、当然こちらからすれば、不用意に攻撃できないため、戦闘ではなく、魔法カードによる処理で対処するが、このシステムの場合、相手のメモリカードは考慮されず、相手のモンスターの戦闘値で戦う、行動パターンであるため、レベルが高い高度な読みあいが発生する試合では意味をなさない。それ故に上級者はこのシステムの設定をオフにするが、俺がこのシステムの設定をオンにする理由は、何戦もしているうちに、思考がすること自体に疲れを感じているからだ。150戦あたりまではオフにしていたが、200戦を超えてからは完全にオートでやる機会が多くなっていた。カードゲーム部の教官はオートでなぜそこまでの勝率を叩き出せるのかと疑問に思われた。それもそのはず。アシストシステムとCPとの戦は読みあいが発生しない、ただ、流れる作業のごとく、選択が決まる。


「今日はこれくらいにしておくか。飯食いに行こう」


 俺は視界のウィンドウのログアウトボタンを押し、元の世界へと帰還した

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る