第25話 波乱
生存人数20人!?早朝、昨日の夕暮れの時は48人もいたはずだ。一体何を盗んだら1日でそんなにいなくなる?弁当を盗める時間は30分。その間に一斉に騒動が起きた?だが、先輩たちの立ち回りからして、弁当をいかに盗むかより、どうやって弁当を盗まれないように動くかを意識するはずだ。この島で何が起こっている?カメラ越しにこの島全体を見ている顧問の山田は真相を知っているが、何食わぬ表情で今朝の弁当を渡す。俺は一目散に駈けた。どこに向かうか方向など決めていない。食事の前はどこに行くより、どれだけ早く、逃げ切るかだ。島の生活が長引くほど、嫌でも普段コネクターSPで運動不足な俺は体力が続かなくなる。それはカードゲーム部の先輩にとっても同じだろう。
「あんなところに洞穴が。しかも俺がいたところより、大きいな」
目立つ洞窟のため、ヘイトは集めやすいだろうが、奥行きが深い。中から聞こえる声、それは無数の叫び声だ。確実に誰かがいる。1人だけではない、3人いや奥に進むほど、その声が重複する。一体なにがあるのか。一番奥にたどり着いたとき目に映った光景。それはたくさんの部員が倒れて喚いている姿だった。
「先輩!大丈夫か!?」
部員の一人に話しかけるが、完全に正気を失っている。
「くそ!何が起こっているんだ!?」
今倒れている部員は全員朝食の時にはいなかった。
「まずいな。急がないと先輩ら餓死するぞ」
おれは急いで洞窟から出て、海辺へと戻った。弁当を配っていた山田先生がまで海辺にいれば、先生に助けてもらえる!海辺まで駆けていく途中どれとも遭遇しなかった。運が良かったと言えるが、逆に不気味でもある。浜辺につくと顧問の山田は島を眺めながら、座っていた。
「先生!大変なんだ。先輩たちがみんな洞窟で倒れて苦しんでいるんだ!」
「それがどうした?何か問題かね?」
「は!?」
今、この人、何が問題か?と言ったのか?この人は仮にも顧問だぞ。そんな能天気なこと言ってられるのか?
「先生!このままだと先輩ら死ぬかもしれない!それでもいいのか!?」
「構わないよ、雑魚はこのカードゲーム部には不要だ」
その言葉に俺は声を荒げる。
「ふざけるな!あんたそれでも顧問かよ!なら勝負だ。あんたが勝ったら俺は退部するが、もし俺が勝てば、あんたは助けを呼びに行くんだ」
「いいでしょう!ただ私に勝てればの話ですがね」
カードを構える。山田先生のデッキのテーマは分からない。帝王高校で顧問をやっているから強いことは間違いないが、とりあえず油断は出来ない。山田先生のターンから始まる。
「私はギャラクシーファイターレモネードを召喚します!」
ギャラクシーファイター。3000人組手で2、3回戦ったことがある。このテーマは魔法カードのトランスフォームで自分のモンスターを1つ上のランクに変身させるのが、特徴だ。
「私はマジックカードトランスフォーム発動!自分の場のギャラクシーファイターレモネードをトランスギャラクシーファイターレモネードに変身させます。ターン終了です」俺はデッキからカードを1枚取る。そのカードは夢幻転生ジャガンジア。藤原との対戦で俺が手に入れた、世界でたった2枚しかないレアカードだ。
「俺は夢幻道化を召喚する!」
夢幻道化は召喚時、手札のモンスターを1体破壊する。ここでポイントは捨てるではなく破壊することだ。夢幻の雷鳥を破壊することで2つのことが出来る。1つは夢幻道化の能力で破壊したモンスターのサイズ分、デッキからマテリアルを出せる。もう一つは破壊した夢幻の雷鳥の効果で相手モンスター1体を破壊し、破壊したモンスターの打点分ダメージを与える。レモネードの打点は3なので、3ダメージ、さらに夢幻道化の攻撃で合わせて5点ダメージを与える。残りライフは10点だ。
「ターン終了だ」
「私のターンですね」
山田はカードを引く。
「私は魔法カードトランスフォームアドバンスを発動!」
トランスフォームアドバンス!?山田の場にはカードがない。トランスフォームは自分の場のモンスターを変身されて強化するデッキだが、今の山田の場にはそれがない。まさか!?デッキか!
「私はデッキのギャラクシーファイターカエンを素材にトランスギャラクシーファイターカエンを召喚!さらに魔法カードスーパートランスフォーム発動!」
スーパートランスフォームは自分の場のトランスフォームで強化したモンスターをさらに進化される魔法カードだ。
「まだまだですね」
山田との激しい攻防が続く。スーパートランスフォームで強化されたカエンを突破できるカードは今の俺の手札にはない。いやなくはないが、マテリアルが1つ足りないのだ。バーチャルストラテジーは場のマテリアルの枚数がモンスターのサイズ1個分の役割を果たし、サイズ4のモンスターはマテリアルが4枚ないと召喚できない。手札の夢幻の死神はサイズ7という超上級カードゆえ、火力はあるが、使いにくいカードが。だが、夢幻の死神は自分の場のカードが効果で破壊されるたび、サイズを1少なくする。サイズは5でマテリアルは3枚。手札にあるマテリアルは1枚で、1ターンに出せるマテリアルの枚数は手札からだと1枚だ。だが、このゲームの逆転のピースはライフ自体にもある。
「カエンで5打点ダメージを与えます!」
そうダメージを受ける時だ。ライフからカードが5枚表示される。その中にマテリアルがあれば、全て場に出せるのだ。俺が出したマテリアルは2枚、これで準備は整った。
「先生、悪いがチェックメイトだ。俺は夢幻の死神を召喚し、効果発動!相手モンスター1体の効果を無効にして破壊する!」
「なんと!?」
夢幻の死神はこの効果で破壊したモンスターの打点分、ダメージを与える。決着がついた。山田は黙ってスマホをポケットから取り出し、ボタンを押す。
「山田です。今すぐ救援をお願いします」
プツっと電話の通話を切る。
「お見事です。あなたならこの島の元凶に勝てるかもしれませんね。期待してますよ、川原くん」
「どうも」
「あと、言い忘れていましたが、生き残っているのは君とそこにいる木村君だけですよ」
俺は後ろを振り返ると、そこに右手に呪魂の鳳凰陣のカードを持つ木村が立っていた。だが、何かがおかしい。木村の殺気と言うべきだろうか。威圧が半端ではない。少しでも隙を見せれば、牙をむいて襲い掛かりそうな、悪魔のような目つき。
「やあ、川原君、どうやら生き残りは君だけみたいですね」
「お前が先輩らをやったのか?」
「そうだよ、気持ちよかったなーあんな雑魚共にマスター部門の出場権を譲るつもりはないよ。僕がシニア、そしてマスターのトップの座を掴んで世界に僕の名を広めるのさ!」
今の木村に何を言っても無駄だろう。シニアで優勝し、マスターの優勝を目指す木村の姿には憧れはあった。想い自体は間違ってはいない。だが、やり方が間違っている。勝つためにライバルたちをバグカードで狂わせた行為そのものに敬意などない。
「木村!ここでお前、どっちが強いか試そうぜ!そうだ、俺はお前に勝ってマスター部門の出場権を取って優勝する。してみせる」
「御託はいいよ。そういう偉そうなことを言う奴は全員僕は潰してきたから。いいよ、これが僕と君の最後の戦いだ!」
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