第9話 呪魂の魔法陣
文化祭が終わって、冬になった。外には雪が降り積もり、気温が下がってきたので、自室のエアコンを常に高温に設定して作動している。
「千歳や、水無くなったからスーパー行って汲んできてくれんか?」
「はーい」
雪が積もった中歩いていくのは不本意だが、だからと言ってこんな天気の中、祖父に歩かせるにはいかないし、美味しいお菓子を買っていくついでに出かける。外は傘を開いていても風で雪が袖や裾に入って、全身が冷える。ホットカイロの一つ持ってこればよかったと今となって後悔する。スーパーに着いてウォーターサーバーの列に並び、順番を待つ。後、2年で中学生だ。中学になったら、俺、詩織と付き合う約束したんだよな。恋人関係になったらどうなるんだろうか。手をつないだり、キスとかしたりするのだろうか。考えているだけでも恥ずかしいから余計なことは考えないでおこうと決めた。自分の順番になり、ペットボトルを金属の取ってに挟みスイッチを入れる。
「よし、これでいいだろう」
俺はペットボトル3本をカバンに入れる。後は帰り道のコンビニでお菓子を買うだけだが。
「あ、先にコンビ二行けばよかった」
そう、先にお菓子を買っておけば、重いペットボトルのカバンを持ちながら店内に入る必要はなかったのだ。「しくったな」と呟いきながらも帰り道を歩く。
「なあ、そこのキミ」
「ん?」
突然知らない中年のおじさんに話しかけられ、少し警戒する。
「よかったら私とバーチャルストラテジーで対戦しないかい?」
当然話しかけて、何を言うかと思えば。ただでさえ寒いから外に長居したくないのに、そのうえ対戦とか勘弁してほしい。
「いえ、僕用事があるので」
「そうか、それならいいんだが、本当にそれでいいのかい?もし勝てたら君のお父さんの情報を教えようと思ったのだがねぇ」
父の情報?もしかしてこの人は俺の父さんのことを知っているのか?
「どういうことだ?」
「君のお父さん川原良平の死の真相だ。もし私に勝てたら、君にとって大事なことを教えてあげるよ」
少し考えたが、俺の父が川原良平と知っている人は少ない。その事実を知っているこの人は何かを知っている。それを知りたくて俺はその挑戦を受けて立った。
「いいだろう、場所は?まさかこんな寒いところでやるわけじゃないでしょ?」
「ついてきなさい」
俺はそのおじさんの後を黙ってついていく。しばらくして着いたのは、ボロボロの閉店のカードショップ店で、店の前にはコネクターが2つならんでいた。
「ここでやるんだ。川原君もデッキをセットするがいい」
「ああ」
俺の名前を知っていることには内心驚いたが、コネクターのヘッドセットを被り、ゲームを起動する。目を開け映った光景はなんと、俺の父川原良平が決勝で戦っていた場所と同じ舞台、東京ドーム場。
「ははは、かかったな坊主、これでお前は逃げることは出来ないぞ」
俺の視線のおじさんが大笑いし出した。そうか、バーチャル世界ではログアウトは外の人間がボタンを押すか、サーバー主がログアウト設定をすることしかこの世界を出る方法はない。緊急時のため、子となるプレイヤーにも本来緊急脱出のシステムがあるはずだが、なぜか視界の右端にあるはずのシルエットが存在しない。そして最後のログアウトの手段はバーチャルストラテジーのゲームでどちらかのライフを0にするかデッキを0にした時点で、この世界から出ますか?のウィンドウが表示される。なら取る選択肢は1つだ。バトルするしかない。
「坊主、カードは引いたか」
「ええ、引きましたよ、絶対負かせてやるからな!」
デュエルの叫びと同時にプログラムのエフェクト表示やモンスターのアニメーションなどの起動が作動する。
「先攻は私だ。私はナイトメアクラノスを召喚だ。召喚時効果でナイトメアナイトのオブジェクトをデッキから発動できる」
ナイトメアデッキなんて聞いたことない。元々バーチャルストラテジーのデッキを全て把握しているわけではないが、詩織がそんなデッキの話をしたことがない。
「ナイトメアナイトのカード効果だ、君は次のターン、ドローフェイズ、メインフェイズ、バトルフェイズのいずれかを選び、そのフェイズをスキップしなければならないのだよ」
フェイズスキップだと!?それじゃ、これでは俺は毎ターン、あいつよりテンポロスすることになる。
「ちょっと待て、その効果いくら何でも強すぎないか?何かデメリット効果もあるはずだろ」
ふふふ、とおじさんは笑う。「確かに君の言う通り、ナイトメアナイトの効果で私はドローフェイズにカードをドロー出来ないのだよ」ということは結局、どのプレイヤーもフェイズをスキップしなければならないということだ。
「こい、光剣軍、ヤイチ!ナイトメアクラノスに攻撃だ!」
眩い閃光を放つ巨大な門から、光剣を持った騎士が現れる。俺の指示を合図に騎士は剣を上段に構え、左足を前に出し、勢いをつけて、やつのモンスターを斬りつける。
「やったか!」
「それはどうかね?」
フィールドに紫の霧が発生し、その中心から不気味な笑い声を上げて、奴のモンスターは蘇ってくる。
「ナイトメアクラノスは破壊されたとき、自分の手札を1枚捨てることで、蘇生する効果を持っているのさ」
だが分からない。奴のモンスターの復活効果とオブジェクト効果で手札をかなり消費するはず。今のやつの手札は5枚。ドローフェイズでカードを引けないから、状況的にやつは苦しいはず。なのに、やつのあの余裕は何なんだ?
「私はオブジェクトカード呪魂の魔法陣を発動する!」
「呪魂の魔法陣!?」
呪魂の魔法陣を発動した瞬間、バーチャル世界が闇に覆われたように暗闇に包まれる。
「なんだ、この感覚は」
まるで精神が闇に侵蝕されるような感じだ。
「呪魂の魔法陣には3つ効果がある。1つ目はこのカードが場にある時、相手の場のオブジェクトの効果を全て無効化する。2つ目は自分の場のモンスターのパワーを全て+500する最後に自分の場のモンスターはモンスター効果で破壊されない」
「ふざけるな、そんな効果インチキにも限度があるだろ!」
だが、やつはドローフェイズをスキップしているから、まだ逆転の可能性はあるはずだ。こんなインチキおやじに負けてたまるか。
「私は手札から魔法カードナイトメアレクイエムを発動する。このカード効果で手札を全て捨てる」
「何!?」
何を考えている!?手札は0枚、ドローフェイズはスキップされている。この状況でどうやって勝つつもりなんだ?「君にはもう一度地獄を味わってもらうよ」と言うと、奴の場にモンスターが4体召喚される。闇の中から竜の咆哮、恐怖、絶望、そのすべてがこの場に出揃った。
「これで君の負けだよ、川原千歳くん。もう一度絶望の世界に落ちるがいい。ナイトメアモンスターはね、手札が0枚になったとき初めて真の能力を発揮する。さあ、私の全てのモンスターたちよ!彼の精神を粉々に砕くといい」
モンスターが俺に襲い掛かり、俺はライフが0になる。モンスターの攻撃による肉体的なダメージはないが、0になった瞬間全身に強い痛みが走る。あまりの痛みに体は耐えられず、立っていられなくなり、その場に倒れ、脳がぐちゃぐちゃにされるような刺激で視界も真っ暗になる。そんな中、俺の頭を過ったのは、死んだ母との最期の瞬間と、ドームが全焼する残酷な光景だった。
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