第33話 家族

 大学を卒業して、俺と詩織は結婚した。俺の大学生活はラブコメ展開のような生活ではなく、その時間のほとんどをプログラミングの勉強に費やした。プログラムの仕組みはC言語を応用し、さらにそれを複雑化したもの。バーチャルストラテジーの頭の文字をとってVS言語と呼ばれている。ベースはC言語のため、初めは簡単なプログラミングの勉強から始まった。「せっかく大学生活が始まってイチャイチャできるのに千歳君、勉強ばかりでつまんない」とちょっと嫌味を言うが、その反面嬉しそうでもあった。


「千歳君は自分のやりたいことが見つかったんだね」


「俺は楽しいよ」


「千歳くんならバーチャルストラテジーのプロバトルリストになると思ったんだけどね」


「このゲームの俺の挑戦は終わったんだ。これからは遊ぶ側ではなく、作る側になりたいんだ」


「そっか、頑張ってね」


「ああ」


 夢幻デッキを1つだけ残し、それ以外のカードは全て売って資金にした。大会優勝品のカードも合わせて売ったので、1億の金が手持ちにある。そのお金で、俺と詩織でマンション暮らしを始めた。俺がしっかりと定職に就くまでは、なるべく資金を残しておきたい。


「千歳君、いえ、あなた。面接合格おめでとう!」


「ありがとう、コーヒー、一杯お願い」


「はーい」


 若いころ夢見たラブコメみたいな夫婦のやり取りはリアルだと地味だな、と感じる。だけど、こっちの方が、まったりしてていいかもしれない。


「はい、コーヒー」


「ありがとう」


 俺はグラスの1杯のコーヒーを一気に飲み干す。ラテナ社バーチャルコンテンツ開発部門、俺は明日から務める働き先だ。そこでは、バーチャル技術を活かした、新しいコンテンツの開発。プログラミング世界の創造。俺のやりたいことがそこにある。


「そういえば、あなたはどんなバーチャル世界を作りたいの?」


「ああ、俺は最終的にはファンタジーの世界を作ってみたいんだ。人が魔法を使ったり、空を飛んだり、今までの人類では実現不可能だったことをバーチャル世界で再現したいんだ。カードのエフェクトによるモーションを今度は人間ができるようにしたい」


「ふふ、面白そう」


 バーチャル世界における乱数の法則。TVゲームによる乱数消費は秒単位による事象があるが、俺の世界では、そのもの乱数という概念を忘れさせるような複雑な計算式。土台は乱数だけど、それを応用し、モンスターのドロップアイテムの確率を乱数調整で意図的に入手できるようなシステムは避けたい。バーチャルストラテジーの世界観を重視したファンタジーゲームは魔法を使うのに必要なMPは300。ファンタジー世界の主人公が魔法を使うだけでなく、オブジェクトをも生みだせば、さらにゲームの面白みが増す。カードゲームというより、アクションだ。飛んで、斬って、魔法を放って、オブジェクトを創造する。コネクターSPのアップデートが行われるたび、バーチャル世界のクオリティと世界のブロックが増える。技術の進歩はコネクターSPだけでなく、携帯端末のスマートフォンにも影響を及ぼした。最近配信された新アプリ、VSワールド。このアプリを起動すると、バーチャル世界の様子をこのアプリの端末から見ることができる。世界に干渉はできないが、バーチャル世界内での大会の様子や冒険の様子を見て、楽しめることができる。今までスマホアプリで活用されていたZOOMやDISCORDを応用したアプリCONTACTが開発された。そのアプリ名はCONTACT。俺が初めて開発したアプリだ。自分のコミュニティーのメンバーとバーチャル世界で仮のアバターを通じて会話やチャットをできるアプリで、アプリゲームの画面共有、動画の共有、一緒に動画を撮影し、you tubeに配信したり、更に、有料でカラオケ機能も搭載された。1人カラオケだけでなく、コミュニティーのメンバー同士で歌い、DAM採点、JOYSOUNDの採点で点数が開示、そして全国ランキングも表示される。ゲームの大会で自分のコミュニティーと別のコミュニティーでチーム戦で戦うゲームで活用できるシステム。スマホのゲームの対人戦の3on3のゲームで使用されることが多い。CONTACTはゲームだけでなく小中学校のICT教育にも使われる。ICTは学校に私情で通えない生徒が画面越しで授業を聞いて自宅学習できるシステムだ。また予備校のビデオ授業でもこのアプリは使われる。今までは教室全体に大量の机とテレビ、そして復習するときに使うパソコン。これだけの器具が必要だが、CONTACTは1つ実機があれば、授業の予習、復習、教材、参考書による解説、全てが端末1つで行える。今は端末1つで世界中の人々と繋がれる時代となり、バーチャルゲームもカードゲーム、アクション、ファンタジー、SF、などあるが、格闘ゲームはコントローラーを操作する画面越しの捜査ではなく、バーチャルの肉体で戦う本格化格闘バトルなども開発し、eスポーツも現実のゲームだけでなくバーチャル世界のゲームとしても行われるようになった。このバーチャル世界でのeスポーツはVスポーツと呼ばれるようになり、時代は常に進化し続ける。ただ、バーチャルゲームはコネクターSPを必要とされるが、コネクターSPは今大人気でどの店舗でも品切れ不足だ。そのため、まだバーチャル世界を全世界の人々に楽しんでもらえる日は遠い。CONTACTのスマホアプリの導入。コネクターSPでのツールとして使用されるようになったCONTACTのダウンロード数は1000万回、世界にCONTACTが拡散され、現実世界とバーチャル世界の異次元でのつながりだけでなく、現実世界での距離感も端末一つですぐになくなる。今はどこに住んでいる場所がどこでも電子端末でいつでも会える時代だ。ただ、忘れていけないのは、バグのような、人の心の闇に反応する物質が現れたとき、人類は進化の過程のお中で、それを正しく向き合っていけるか。俺と部長の戦いを見ていた人ならおのずと分かるはずだ。人と人がつながったときに大切なのは、人と人との絆だと。いつか俺は、世界中の人々が1つになれる異世界をバーチャル世界で作りたい。未知の世界のワクワク感昂揚感と共に、世界を攻略をして、感動的な世界を生みだしたい。そのために、俺は今日も研究を続ける。そして、俺が25歳を迎えたとき、今まで俺を育て、支えてくれたじーちゃん、ばーちゃんが亡くなった。家族を失う経験は人一倍あるのに、とても悲しかった。だが、今まで俺を育ててくれた祖父への感謝の気持ちと天国で幸せに過ごしてほしいという願いを込めて、別れを告げた。


「千歳君、大丈夫、私はずっとあなたのそばにいるから」


詩織は俺を抱きしめて、よしよしと頭を撫でる。人生で今日ほどたくさん涙を流した日はない。だが、これほど人に感謝した日もない。俺の人生はこれからも続く。詩織というかけがえのない家族と共に。

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