第28話 決勝戦

「勝者!千歳選手!」


 俺は会場席の方を向いて、右手を振ってエールを送る。


「うぉー!千歳まじつえー!」


「キャー!千歳くん、こっち向いてー!」


 カードゲーム、いやカード1枚で人の心は動かされる。それは現実世界でもバーチャル世界でも同じだ。カードゲームはただの遊戯ではなく、映画のような感動の産物でもあると俺は思う。この大会を優勝したら、俺は詩織に会いに行く。俺は詩織と会ったときに優勝を手土産にしたいんだ、とうとう決勝だ。当然、俺の前に立ちはだかるのはキングだ。


「誰だい君は?今までの大会では見ない顔だが?」


「俺は千歳だ。あんたを倒してマスター部門で優勝する男だ!」


「威勢はいいな。だが、それだけではこの俺には勝てんぞ」


「「ラストバトル!」」


「おおおおおお!!!」


 観客の叫びと共にゲームは始まる。

先攻はキングだ。


「俺のターン、俺は武神ローブを召喚。モンスター効果で召喚時デッキから装飾品を1枚手札に加える。俺はローブに神器雷鳴を装備しターン終了だ」


 神器雷鳴は装備したモンスターが破壊されたとき、相手の場のサイズ1のモンスターを破壊するカードだ。


「俺は夢幻結晶を召喚、召喚時効果でデッキから3枚めくり、その中のオブジェクトカードを全て場に出せる!」


 カードをめくる。2枚オブジェクトだ、ラッキー。


「夢幻の塔、夢幻白夜を発動する!ターン終了だ!」


 キングはカードを引く。


「俺は武神桃源郷を発動する!」


 武神桃源郷はMPを回復とデッキから毎ターン、装飾品をストレージに送る効果がある。装飾品をストレージに送るメリットは武神というテーマ自体が手札の装飾品だけでなく、ストレージのオブジェクトを活用する効果がある。キングはバトルフェイズに映り人差し指と中指で武神ローブのカードを90度回転された。


「武神ローブは装飾品を装備している時、2回攻撃ができる!」


 夢幻結晶が破壊され、俺は3ダメージ受ける。その中にマテリアルが2枚あったので、場に出す。


「ターン終了だ」


 次は俺のターンだ。このターン、マテリアルは3枚ある、これはチャンスだ。


「夢幻少女を召喚!夢幻少女、夢幻白夜、夢幻の塔を破壊し、こい夢幻龍ジャガンジア!」


大空を羽ばたくドラゴン。今までずっと一緒に戦った、俺のエースモンスターだ。


「これがジャガンジアか。だが、この程度のモンスターでは俺に勝つことは出来ないぞ。俺はストレージの装飾品、神器村雨を相手モンスターに装備する!」


「相手モンスターだと!?」


村雨を装備されたジャガンジアは紫の輪っかに体を縛り付けられ、そのまま消滅した。


「さすがキングだ。そう簡単にはいかないか」


「当然だ」


「だが、破壊された夢幻の塔の効果でデッキから2枚ドローする」


 引いたカードは夢幻転生ジャガンジア。よし、カードの女神は俺を味方している。


「俺は破壊された夢幻白夜の効果を発動!このカードが破壊されたターン、俺はゲーム中1度、デッキからサイズ1のモンスターを可能な限り召喚できるが、このモンスターはターン終了時、効果を無効にして破壊される」


「何を考えている?夢幻デッキは同じモンスターは1枚までしか入れられない。つまり、ジャガンジアは出せないはずだ」


「こい、夢幻転生ジャガンジア」


 夢幻龍ジャガンジアとは対となる輝き。夢幻龍が闇のドラゴンとすれば、転生竜は光のドラゴン。光と闇、この2つの光が交わるとき、カオス、混沌が生まれる。


「転生竜とは面白いカードを持っているな。そうでないと面白くない」


 随分と余裕だなキング。キングのターンだ。キングはカードを引き、そしてカードを場に出す。


「真武神リョウマを召喚する!」


「真武神!?新しいテーマにまさか武神も強化されたのか!?」


「そうさ千歳。これが俺の最強デッキさ」


 3000人組手の武神は30回くらい戦ったことがあるが、真武神に関しては、俺のデータにはない。ここからは未知の戦いだ。今までの常識は通用しないだろう。


「俺は真武神リョウマに神器シラヌイを装備する。さらに神器神風も装備する」


「ばかな!?装飾品はモンスター1体につき1枚しか装備できないはず!それが真武神の力か!?」


 夢幻転生ジャガンジアのパワーは7000。この数値は並みのモンスターでないと突破できない。自分のターンになれば、ジャガンジアのスキルで相手の場のモンスターをデリートできる。そう、このターンさえ乗り切れば。


 「真武神リョウマが装飾品を2枚以上装備している時、このカードのパワーは相手の場のモンスターの数値の合計分アップする」


「・・・」


 「真武神リョウマで夢幻転生ジャガンジアを破壊だ!ふん、大したことないな」


 夢幻転生ジャガンジアは自分の場のカードを1枚破壊することで、手札に戻せるが、今の俺の場にはカードがない。分かっていた。今の俺のままでは、キングに勝つことが出来ない。だからこそ、このカードを俺はデッキにいれた。その発動条件はこのゲーム中、夢幻龍ジャガンジアと夢幻転生ジャガンジアを両方ともプレイしていること。そしてその2枚が戦闘で破壊されたときだ。


「このカードに全てを賭ける!俺は魔法カード、魔龍究極転生を発動!」


 キングはぽかんと口を開け、絶句する。


「俺はデッキから夢幻魔龍カオスクロニクルを召喚する!」


 そう、このカードは新弾で登場したカードだが、カード自体は強いが、その発動条件の難しさのため、世間ではネタカードとして扱われるほど、難しいカードだが、俺はこの大会に出る時、思った。もしも夢幻転生ジャガンジアと夢幻龍ジャガンジアの両方が倒されたとき、俺には打つ手がない。魔龍究極転生のカードは俺がこの大会で優勝するのにいつかは必要になると思った。だからこそデッキにいれて正解だったと俺は思う。これで終わりだ。


 「カオスクロニクルの効果発動。このカードは相手の場のモンスターの効果をすべて無効にする!さらに相手モンスターを破壊したとき、破壊したモンスターの打点とこのモンスターの打点を合計した数値分、あんたにダメージを与えるんだ!」


「リョウマの打点は5だ」


「カオスクロニクルも5だ」


 俺の合図でカオスクロニクルの虹のブレスがリョウマを襲う。そのブレスの勢いはリョウマを倒してもおさまらず、相手プレイヤー、キングに直撃する。


「だが、俺のライフは5もある。次のターンで逆転すれば」


「いや、もう終わりだよ。このカードはターン終了時、消滅するが、その代わりに消滅したとき、相手に5ダメージ与えるんだ」


「くそ、俺の負けだと」


 キングは拳を強く握りしめ、唇をかむ。


「俺の負けだ、やるじぇねえか!お前ならあいつに勝て・・・いや、今はやめておこう」


「?」


キングが手を水平に差し出す。俺も手を出して、握手をした。


「よっしゃーーー!!!」


 俺は全身からあふれる喜びを叫んで表現する。やったぞ!詩織!俺ついにやったよ!ここまで長かった。帝王高校の入学から全てが始まった。木村に負けた悔しさと自分の向上心をモチベーションでどんなにつらい状況でも乗り越えることができた。そう、この俺が世界で一番、一番?だが、本当の一番は俺だろうか?この世界には唯一神をテーマとしたプレイヤーがいる。この大会にそいつは出なかった。今そいつはこの世界で何をしているのだろう?だが、今それを考えても仕方がない。今は優勝の余韻を味わおう。

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