第17話 連戦

「ええーみなさん!これからバーチャルストラテジーシニアの部、カードバトル大会を開催します」


 その掛け声と同時に派手な音楽が周りに響き渡る。


「ルールは簡単です。プレイヤーは8人が残るまで、サバイバル方式で対戦をして頂きます。最後に生き残った8人で試合をして優勝したものがシニアカテゴリーの優勝者となります」


 ふーん、シンプルなルールじゃん。でもそれだと3人チームはどうなるんだ?


「はい、当初ではこの大会はチーム戦になっていましたが、こちらの事情でソロプレイの試合に変更しました」


 せっかくチームを組んだのにふざけるななどの野次の中、モニターに映ったものがそれを一瞬でかき消した。


「優勝賞品は1億円です」


それを聞いた観衆は一気に活気した。1億か。中学生の大会とは思えないくらい景品が豪華だ。


 「ではーはじめ!」


 その合図と同時にフィールドに竜巻が発生し、全てのプレイヤーが町から外へ吹き飛ばされる。あまりの強風故に目を開くことが出来ず、気づいたら、湖のほとりにいた。地面に叩きつけられるように倒れたが、痛みは全くない。


「ここは?」


 正面にあるのは水色に透き通った湖だけで、他のプレイヤーの気配はない。体を起こし、深呼吸をする。


「ここに飛ばされたのは俺だけか、どうしたものか」


 マップを確認すると、ニック、というプレイヤー名のアイコンがこっちに向かってくるのを確認できる。ニックとはフレンド登録はしてないが、マップ上に全てのプレイヤーの位置が確認できる以上、身を隠すという作戦は通用しないと理解した。


「てめぇ、俺と勝負しろや」


声の主の方を向く。背が高い、小太りの云わば、不良といったところか。


「いいぜ、ちょうど対戦相手がいなくて暇していたからな」


「決闘が発生しました!これよりバトルシステムを起動します」


 俺とニックの間にドローンが空中から出てきて、テーブルが現れ、その上にデッキが置かれていた。


「なるほどねぇ、これは豪華だな」


 先攻を取った俺からカードをプレイする。夢幻龍ジャガンジアが手札にある今、オブジェクトをなるべく並べたい。


「俺様のターンだ!」


 様っておい、いつの時代のカードプレイヤーだよと突っ込みたいが、相手が性格悪そうな不良のため、あえて口には出さない。


「プリティ天使モーランを召喚だ!」


 プリティ天使って、お前、見た目とギャップありすぎるだろ!?そのテーマ、始めたての幼稚園児が使うデッキだぞ。必死に笑いを堪え、何とかカードを引く。5ターンが経った。俺は夢幻龍ジャガンジアを場に残している。仕掛けるのはここからだ。


「魔法カード夢幻の裁判を発動!この効果でジャガンジアを対象とし、このカードのパワー以下のモンスターを全て破壊し、相手に破壊したモンスターの打点の合計分、ダメージを与える。さらにジャガンジアのダイレクトアタックだ。これで終わりだな」


「くそ、くそがーーーー!!!」


「おいおい」


負けが決まったとたん叫びだし、こちらに走ってきた。殴られるかと思い、とっさに頭を手で守り防御態勢を取る。


「うわーーん、負けちゃったよーぉ、ママーーー!」


「へ!?」


 ニックはいきなり情けなく泣き出し、ニックの体が白い光で覆われ、そして消えていった。ニックのいた場所にシルエットが映り、ログアウトしました、と表示されたので、ニックは負けて脱落し、現実世界に戻されたのだと確信する。


「まあ、世の中いろんな人がいるからな」


 苦笑いするが、マップを確認すると、16人くらいが一斉にこっちに向かってくるのを確認する。


「さて、ここからが本番だな。全員相手してやるとするか」


 ちょっとカッコつけているが、足は情けなくガクガクふるえている。


「ジャガンジアでとどめだ!」


「くそー、俺の負けだ!」


これで10人目だ。人数からしてそろそろ次の決戦に進めるだろうと思っていたが、このままだと体力面でやられそうだ。湖のほとりから町に向かう途中で、何人か相手したが、町まではまだ距離がある。どこかで一息休憩を入れたいが、そこで対戦を申し込まれたら、休憩どころではなくなる。


「おい、君。僕と勝負しようか?」


「ああ、いいけど」


 また随分と背の小さい童顔のプレイヤーだな。だが、油断は禁物だ。相手の実力が未知数である以上、気を緩めるわけにはいかない。


「僕はね、全年度の大会準優勝者で、you tubeのチャンネル登録者1万人越えで、別の大会では僕は日本全米チャンプでプロゲーマーなのだよ」


 なんかいきなりごちゃごちゃ話し出したぞ、こいつ。


「君と僕とは実績が違うのだよ。勝負はやる前から決まっている。サレンダ―したまえ」


「お前さ、そんだけ実績あるなら分かるんじゃないのか?何事も最初はうまくいくとは限らないし、やる前からあきらめる奴に勝機や結果を得られないことぐらい。こいよ、相手してやるから」


 6ターン経過した。偉そうなこと言うだけあって、実力はある。だが、一つ気になることがある。


「お前、そのデッキ、前年度マスター部門優勝者と全く同じデッキだろ。偉そうなこと言う割に、ただのパクリなようだな。そんなデッキで勝てるほど俺は甘くないぜ!こい夢幻バルバトス!」


「ばかな!?」


「俺の勝ちだ」


 やつはひざまずいて「くそ!」と言って地面を拳で叩く。俺が言えるのは人間肩書きが全てじゃないということだ。


「終了です!勝ちあがったプレイヤーの皆さんを広場へ転送します」という脳に響き渡る声と共に、全身が光に覆われ、意識が一瞬飛ぶ。俺を含めた8人が広場に転送され、意識を戻す。


「これより生き残ったみなさんでトーナメント形式の試合を始めます!」


 飛ばされたのは都市の上層部の位置、立っているのは強者だが、その中に詩織や部長の姿は無かった。身内で生き残っているのは俺だけ。恐らく敗北した、部長と詩織はこのコネクターの画面から試合の様子を見守っているはずだ。詩織にかっこ悪いところを見せるわけにはいかない。


「第1試合、千歳選手VSライト選手です」


 アナウンスと同時にほかのプレイヤーは白い光と共にどこかへ移された。恐らくデッキのネタバレ防止のためだろう。


「よろしくね!僕はライトです」


「千歳です」


「千歳くん、お互い全力を出して悔いのない試合をしよう!」


「は、はい」


 すごく礼儀正しいな。でも本来大会の上位者とかスポーツのアスリートとかみんな礼儀正しいし、一部例外はあるとして、本来みんなスポーツマンシップを大事にしているよな。


「俺から行くぜ!手札から魔法カード夢幻転生発動!この効果でデッキから5枚見て、その中のオブジェクトを全てMPを払わず発動できる」


引いた5枚を確認する。


「俺のひいたカードは全てオブジェクトだ」


「ばかな!?そんなことが!?」この展開にライトは愕然とする。


「夢幻圧縮の効果で自分の場の他のオブジェクトを破壊することで、手札のモンスターのサイズをこのターン1にする。そして夢幻侵攻の効果でこのカードを破壊することで、デッキからマテリアルを出す」


 俺はデッキのリストのマテリアルを1枚タップし、同時にデッキのカードのカードリスト、マテリアルを出来るだけ頭にいれる。


「自分の場のカードを3枚破壊し、いでよ!夢幻龍ジャガンジア!」


「何!?1ターン目でジャガンジア!?千歳くん。君はなんてやつなんだ!」

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