第24話 夢幻転生ジャガンジア

 晴天の海。無限の境界線が続く。ポツンと海に浮かぶボートはその静けさを消すくらいの大きな話し声が聞こえる。俺の中にあるのは、覚悟と少しの不安感。ボートでの時間は一瞬のうちに終わり、島についた俺は島に上陸する。


「時間は30分です。それまでにこの島を探索しなさい。時間になったらゲームを開始します。私は学校に戻るので、あとは自由行動ですが、反則はいけません、島の様子はカメラに映るので、それだけはお忘れなく」


 そう顧問の山田が告げると彼はボートに乗り、ボートは島から離れていく。それと同時に部員は走り出す。その方向は森の方だ。俺たちには30分の猶予がある。隠れて身をやり過ごすか、仕掛けて誰かを蹴落とすか。標的になったら敵の思うつぼだ。それを分かっている先輩たちはすぐに森に向かったのだろう。まずは俺も身を隠さないといけない。勇敢に海辺に立って、敵を返り討ちにする作戦もあるが、その場合、森でその対戦を監視する部員が、100枚のデッキを除いた40枚で夢幻デッキを対策しに来るだろう。俺が持ってきたカードは40枚は夢幻のモンスターカードだ。無限デッキが負けたとき、基本的にオブジェクトカードが奪われることはほぼない。単体しかない夢幻モンスターが減れば、戦力は大幅に下がる。俺は森へと向かう途中、小さな洞穴を見つけ、中に入る。島の端にある洞窟のため、まだ、人はだれもいない。時間稼ぎにはなりそうだが、探索が進めば、見つかるのは時間の問題だ。一番の勝負どころだ。飯の時間になれば、森や洞窟に忍んでいた人間は表に姿を現し、海辺に集まる。先生のはなしでは、飯の時間は海辺に集まり、弁当が配られるが、食事が出来るのは、30分の休戦が終わり、1時間後の食事時間になってからだ。つまり、食事を食べるには30分耐えなければならない。このゲームの参加人数は60人だ。だが12人姿を見せない。何らかの理由で海辺のボートで帰ったのだろう。この場合、退部になるはずだ。この島に3時に到着し、食事までの3時間。たった3時間で脱落者が12人。いくら何でも多すぎる。それだけ強いプレイヤーがいることになる。思い当たるのは、夢幻龍ジャガンジアの進化カードを持っている夢幻デッキの使い手だ。弁当を受けとった俺はすぐさまさっきの洞窟へと戻った。部員の大半は森に忍んでいる。潰しあいが起こるのは必然的に6時30分から7時の間となる。俺は洞窟の奥で息を殺して待つ。ピタピタと足音がなる。


「誰か来たのか?」


「やはりいたか。つけてきて正解だったぜ」


「あんたは、藤原先輩!」


こうなったらもう戦う以外の選択肢はない。おれはデッキを構える。


バトルが始まるのと当時に、暗闇の洞窟をライトが光を照らす。


「俺は夢幻の元凶を召喚するぜ!」


「夢幻、まさか藤原先輩が!?」


 この人がジャガンジアの進化したカードを持っている人だ。それは間違いない。俺はデッキからカードを引きモンスターを召喚する。出したモンスターは藤原先輩と同じ、夢幻の元凶だ。夢幻の元凶は破壊されたとき、デッキからオブジェクトカードをデッキから1枚出せるカードだ。


「「デッキから夢幻白夜を発動」」お互いに同じカード。


 無限白夜はこのカードが場にある時、自分はカード効果でダメージを受けないカードだ。これにより夢幻龍ジャガンジアのスキルは完全に封じられる。ジャガンジアの進化カードなら効果ダメージがあると推測したため、夢幻白夜を発動した。試合が進むが、多少違いはあれど、出すカードはほぼ同じ、違う点を挙げるなら、藤原先輩はジャガンジアは持っていないが、進化形はもっている。逆に俺は旧ジャガンジアを持っている点だ。場には5つのマテリアル。モンスターが3体そろった。これでジャガンジアを出す条件はそろった。


 「俺は夢幻龍ジャガンジアを召喚する。モンスター効果で藤原先輩の手札を確認する!」


 手札は6枚、そのうち1枚は夢幻転生ジャガンジア。これが世界に2枚しかない進化したジャガンジアのカードか。だが、どんなに強力なカードでも、手札から捨ててしまえば。


「ターン終了だ」


 藤原先輩のターンとなる。スパーンと音をたてて、カードが宙に舞い、ストレージに置かれる。ストレージからジャガンジアの効果で手札から捨てた、転生ジャガンジアが手札に戻る。


「何!?」


 「夢幻転生ジャガンジア、自分のターン開始時、自分の場のカードを1枚破壊することで、このカードを手札に戻せるのさ」


 そして、藤原先輩のカードが1枚でなく今度は3枚宙に舞い、3枚ともストレージに送られる。


 「いでよ!夢幻転生ジャガンジア」


 夢幻龍ジャガンジアが闇の龍なら、転生ジャガンジアは光の龍となる。光と闇の対立。とても元々同じモンスターと思えない違いだ。


 「夢幻転生ジャガンジアはゲーム中、自分の場のカードが効果で破壊された枚数1枚につき、パワー+1000する。つまり、パワーは」


「5000!?」


「夢幻転生ジャガンジアよ!やつのモンスターを倒せ」


 グォーとモンスターは悲鳴を上げ倒れる。


 「だが、ジャガンジアは破壊されたとき、相手モンスターを全て破壊する効果がある!」


 光の竜は爆風とともに消える。なんとか転生ジャガンジアは倒せたが、次の藤原先輩のターン、自分の場のカードを破壊すれば、あのカードが再び戻る。ジャガンジアを失った今、俺の勝ち筋はこのターンしかない!


「頼むデッキよ!」


 俺は目を瞑り神に祈るように懇願する。カードをめくる。


「先輩悪いけど、俺の勝ちだ!俺は夢幻の処刑人を召喚、このカードはこのゲーム中、破壊されたオブジェクト1枚につき、打点を+1する」


 「ちょっと待て、お前のオブジェクトはゲーム中3枚破壊され、処刑人の打点は+3となり、打点4だ。だが、俺のライフは6。打点が足りないぜ」


 「俺は言ったはずだ。ゲーム中、破壊されたオブジェクトだと。その対象は俺だけでない。あんたのオブジェクトもだ!」


「ばかな!?」打点は8。


これでゲームセットだ。


「ちくしょー負けた」


「アンテイルールだ。あんたの夢幻転生ジャガンジアはもらうよ」


「ほらよ、ルールはルールだ。持っていけ!」


 俺は転生ジャガンジアと手にとり、眺める。効果がストレージにあるとき、自分の場のカードを1枚破壊することで、手札に加えられる。2つ目がゲーム中、自分の場のカードがカード効果で破壊された枚数1枚につき、パワー+1000される。スキルはSP5で相手の場のモンスターを1体デッキに戻す。大したカードだ。世界で2枚しかないカード。金持ちのプレイヤーが欲しがるわけだ。とりあえず、藤原先輩に場所がばれたので、次の部員に狙われる前に、ここを離れないといけない。森へと向かい、草むらの影に姿を隠す。周りに誰もいないことを確認し、バトルで食糧を没収される前に、弁当を開く。マカロニサラダ。唐揚げ、スパゲッティ、サトイモ、梅干しご飯。おなかが満たされ、眠気に襲われる。夜の9時以降はバトルが禁止されている。次の日になれば、朝食の弁当が配られ、生存の人数が分かる。今日の時点で12人脱落した。残り42人だが、7時から9時まで2時間はあった。その間に脱落した部員も恐らくいるだろう。生き残れるのは1人。非常に狭き門だ。俺は樹木に背中を当て、眠りについた。

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