第23話 コステラと刺青

 深夜、日付も変わった頃に連れていかれたのは庶民的なコステラオン。此処は二十四時間営業なのだと云う。

 コステラオンとはコステラ(アバラ骨肉)専門レストランのことだ。

 席に座り、注文オーダーしたのはビールとオレンジジュース(クリスティナさんには運転の仕事が残っている)。

 すると、頼まなくてもコステラが勝手に運ばれてきた。まったくブラジルのレストランは、食べ放題が基本であるかのようだ。

 細身のナイフで脂たっぷりの身を骨から切り離しては口に運ぶ。脂の甘味が口中に広がる。心の疲れに呼応するようにりついていた口に、漸く水気が戻ってきた。精神にも潤いが戻ると良いのだが。

 肉のともはブラーマと並ぶ庶民派ビール、スコール。重たい仕事を終えたばかりで気分よく酔えるものではないが、こってり脂まみれの肉に詰め寄られた日には、などか飲まずにられよう。


 二十四時間絶やさず燃え続ける窯でじっくり焼かれたコステラは、軟骨もスジも脂もとろとろで柔らかい。ついでに豚のブロック肉やソーセージや鶏肉も皿に乗ってくる。こちらが食べ切れるかどうかなどは気にしないようだ。

 塩のシンプルな味付けだけに、肉の旨さが引き立つのはステーキと同じ。まったく昨日から肉続きだ。それでも飽きないのは、この国の豊かな肉食文化の為せる業なのだろうと思う。


 みそぎのデザートは、プリンとバナナフライ。大皿に目いっぱいのサイズで作られたドーナツ型のプリンも、この国の名物と云っていだろう。バナナフライは表面に砂糖とシナモンがまぶしてあって、私には甘きに過ぎるが大多数にはこのぐらいがいのだろう。



 皿を運んでくれる店員は、腕から脹脛ふくらはぎから頸に貌まで、全身刺青が入っている。勿論彼は無法者でも凶賊でもない。ブラジル人にとって刺青は誰でもがするファッションなのだ。

 恐らく成人の九割は刺青をつだろう。如何いかな紳士、臈長ろうたけた淑女であろうと体の何処かに一鱗の刺青を刻さない者はく、日本であれば大親分にしか許されないような派手な龍虎や花吹雪を極く普通の青年の健康的な筋肉の上に見かけることも珍しくない。

 彼らにとって、刺青の目的は威嚇でも露悪でもなく、只管ひたすらに美意識である。と云うことは、クリスティナさんも――

「ええ、してますよ。おへそに、蝶を。うちでしていないのは妹だけ」


 年齢としの離れた妹さんは日本留学を目指しており、日本では何より温泉巡りを楽しみにしているのだと云う。那辺どこから聞いてきたのか刺青があると温泉に入れないらしいと知って、断然きっぱり刺青はしないとめたのだそうだ。


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