最終日 火曜日

第24話 マテ茶と街並み

 昨夜遅くに肉を食べたおかげで、今朝は朝食を容れる丈の腹がない。それでも早くから目は覚めるし喉だけは渇くので、買ってあったマテの葉を開けて茶を淹れてみた。


 マテ茶は南米原産のマテの葉や小枝から淹れる茶だ。

 ビタミン・ミネラルを豊富に含み、飲むサラダとも称される。コップやポットに葉を入れて水を注ぐだけ、と飲み方は至ってシンプル。コップに入れた場合は茶しのついた専用ストローで飲むのだが、ホテルの客室に常備されていよう筈もないので、今回はポットを使う。グラスに注いでみるとかなり茶葉が混じったが、それもご愛敬だ。

 味は緑茶より幾分らしさが強く、藺草いぐさを思わせる独特の薫り。香ばしい草と云えば近いか。人にっては癖になるかもしれない。


 茶を飲み終えて、外を見るとようよう街も動きだしたらしい。着替えて外へ出た。

 陽が射しはじめたばかりの朝の街は意外なほどに冷え込んでいる。鞄の奥に眠らせたままのセーターが恋しくなるが、今更未練は止そう。歩くうち体も温まるだろう。


 目の前のバス専用道を、三台連結されたオレンジ色のバスが通り過ぎた。少し先のバス停には透明なアクリルの筒のような駅が置かれて、乗客が其処から乗り降りしている。乗車賃の精算はバスの乗り降りの際ではなく、駅の出入りの際に行われる。規模は小さいが、仕組みは電車の駅と同じだ。

 普通に道路を通るバスもある。こちらは連結していないのが普通だ。この街には電車がない代わりに、縦横無尽にバスが往き来して市民の足になっている。


 道路は道巾が広くとられて、歩道や中央分離帯にはえられた草木が年中なにかしらの花を咲かせている。

 今は丁度、ブラジルの国花イペーが花の盛りをえて、黄色い花弁はなびらを道に散らしていた。


 高層アパートの並ぶ合間に時折古びた邸宅が残っている。重たげな瓦屋根に煙突が必ずつくのは、何処の家にもシュラスコ用のかまどがあるからだろう。

 緑の庭と石の歩道とをかくする低い塀。塀一面を覆う緑の蔦の葉が動いているように思えて目を凝らせば、そこにいたのはハキリアリだ。剪り落とした葉を担いだ蟻が列を成していたのだ。南北アメリカ大陸に生息するこの蟻が運ぶ葉は、そのまま餌になるのかと思えばに非ず。運ばれた葉はアリタケと呼ばれる菌類の菌床となり、蟻はこの菌を食べる。

 農業大国ブラジルでは、蟻さえも農業に勤しむのだ。



 さて。ブラジルの旅も今日が最後。この後クリスティナさんと落ち合って、昼食へ向かう予定になっている。

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