第25話 イタリア人街

 昼食のために向かったサンタフェリシダージはもとはイタリア系移民が集まって作った町だ。今では半ば観光地化されて、通りにはイタリア人たちの作ったレストランや店が軒をならべている。

 そのうちの一軒に入ると、駐車場には観光バスが幾台もまっていた。

 白亜の宮殿のような佇まいのこのレストランは一度に四千数百人もの客をれることが出来るとしてギネス認定された(現在はその地位を他に譲った)名物店。週末にはその四千余席が埋まって順番待ちの列が出来るらしいが、流石に平日の今日は待たされることなく席へ案内された。


 飲み物だけ注文すると、直ぐに皿が幾つも運ばれてくる。例によって食べ放題だ。

 手羽先の素揚げ、サラダ、トマト、マンジョッカ(キャッサバ)フライ、チーズ。なかでも店の自慢は手羽先の素揚げだ。表面はカリカリ、それでいて鶏肉のジューシーさを損なわない絶妙の揚げ具合で、幾らでも食べられる。一皿に五個いつつほど載せられていたのが空になると間を置かず次の皿が届けられた。これでは手羽先のわんこ蕎麦だ。

 そのうちペースが鈍ってくると、まだ一個二個ひとつふたつ手羽先の残った皿を下げて、新しい揚げたての皿を持ってくる。サラダやマンジョッカフライも同様だ。

 どうもブラジル人は食べ物を粗末に扱うことに罪悪感が希薄と見えて、大量に料理を皿に盛っておいて平気で食べ残すし、残した物は未練なく棄てるようだ。農産物に恵まれたブラジルの人々が、有史以前から度々飢饉に見舞われた記憶が社会の遺伝子に刻み込まれた日本人と感覚を同じくすることはないのかも知れない。

 但し、路上生活者が飲食店から出た残り物を当てにしているらしいふしはあるので、その点に関しては日本人である私の目から見ても救いのある仕組みだとは思う。


 ここでも料理を持って廻って、客の注文に応じて給仕する店員がる。フィレ肉、鶏肉のトマトソース炒め、ラザニア、パスタ。ラザニアは美味しかったが、パスタは正直云って茹で具合がいま一つ。ピザは出てこない。イタリア系のレストランなのに、と感想を口にすると、

「手羽先の店ですから」

 と、当然と云う顔でクリスティナさんは返した。続けて、ピザ用の石窯がないレストランで美味しいピザが食べられる訳がない、と。この店で食べなくとも、周囲には美味しいピザ専門店が幾らでもあるらしい。


 最後のみそぎの一品はキンジン、卵黄入りのココナツプリンだ。この語はアフリカに淵源があるらしい。

 黄金色に輝く姿はいやが上にも激甘を予感させたが、その期待をたがえることは無論なかった。


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