第13話 ムケカとサッカー

 帰路は列車を使わず、クリスティナさんの用意していた車に乗って帰ることになった。

 列車で四時間かけて下った山越えの旅が、車だとあっさり二時間足らずだ。時間の浪費と思われる程に非効率な列車旅ではあるが、それこそが人生の贅沢なのだと思う。

 だが帰りの経路の風景は見逃してしまった。

 時差呆けと睡眠不足と仕事の疲れに、満腹感まで加わった体は睡魔に抗いようもなく帰りの車中でずっと眠りこけていたのだ。睡眠不足は同様の筈なのに運転して戴いたクリスティナさんにはつくづく申し訳ない。



 更にホテルで三時間眠った後、夜は海鮮料理の店へ。

 頼んだ料理はムケカ。先住民の料理の影響も受け出来上がったブラジル伝統料理で、海鮮シチューと云った趣。猛烈に熱せられたシチューは土鍋のなかで、あぶくを立てている。

 但し、シチューとしてそのまま食べるのではなく、大抵は米飯ごはんにかけて食べる。あるいは、ファリーニャ(キャッサバの粉)と混ぜて食べる。

 珍しくぴりっと辛味の効いた味。一体ブラジル人は辛味が苦手と見えて、日本人には味付けが物足りなく感じることも多いのだが、この店のムケカの辛味は程よい。

 海老にムール貝、烏賊や蛸がごろごろ入って賑やかだ。スープはどろっとして濃い。


 結局はまた食べ過ぎてしまった。

 今日のビールはアイゼンバアン。ドイツ系のビールだ。



 外が先刻さっきからやけに騒がしい。と思っていたら突然、爆発するような騒音に変わった。罵り声、地をどよも喊声かんせいに、火薬の破裂音。喧嘩か、犯罪か、それとも暴動か。


 海外に出ればそのような場面に出会でくわすことも決して珍しくないのだが、今回はどうやら違った。二つ隣のレストランからやたら人が溢れている。スポーツバーらしい。騒音はその店のみならず、別の通りからも、周囲に林立するマンションからも届いた。

 今日はサッカーの試合があるのだそうだ。

 クリチバに三つあるクラブチームの一つが今日はホームゲームで、云われてみれば客の多くは赤と白の縞のユニフォームに身を包んでいる。

 今の大騒ぎは丁度ゴールが決まった為らしい。情熱の国ブラジルでは歓喜を表すにも全身全霊だ。どさくさ紛れに一人や二人は殴り殺されていても気付かないのではないかと思える。だが日本なら警察が飛んできそうな一見不穏な騒ぎにも、クリスティナさんは至って平然としている。彼女の贔屓は別のチームらしい。


 ちなみにクリチバのクラブには、若き日の三浦知良カズが一時在籍していたそうだ。


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